恋人と料理をしました。
鯵の甘酢あんかけ、茄子と舞茸の赤だし味噌汁、白米、スイカ。
何って、本日の夕飯である。
「……じゃあ、俺夕飯作るな。待ってる間、テレビでも……この時間だとニュースくらいか」
待っている間、暇であろうこいつにはテレビを見ていてもらうことにした。今日はテレビばっかりで悪いな……何か考えよう。
普段の休日なら、明日が仕事だから夕方には別れることになる。ギリギリまで一緒にいたいとは思うが、無理して明日に響いてはいけないので泣く泣く夕方には解散になる。一人になった瞬間にいつも涙目になる。仕方ねえだろ、寂しいんだから。
でも、今日は夕飯時にまでこいつといられる。何故かって。
明日も休みだからだ。
連休万歳。
「もやしとニンジンと……ニラってあんかけにして旨いのか?入れてみるか」
冷蔵庫を漁り、あんかけに入れる野菜を取り出した。
恋人様は味付けしてない野菜が苦手だから、俺は野菜と魚とかが同時にとれる料理ばかりできるようになっていく。ちなみに今日のあんかけは恋人様の好きなケチャップがベースだ。
まぁ、俺も自炊とか休日くらいしかしねえし、休日はこいつといるのがいつもだからな。こいつが好きな味付けばかり出来るのも当然なんだが。
もう一品くらい必要かと思ったが、今日は基本的に家でゆっくりしてたし、おやつも食べたから大丈夫か。
「あー、ケチャップ残り少ねえな。明日買ってくるか」
一通りの材料を取り出して、早速作り始める。普段だったら、料理が得意ではないけど手伝いたがる恋人様に、あれこれ指示しながら、ちょっといちゃつきながら料理をするんだが、今日は物理的に出来ないな。……寂しいな。
「……」
野菜を切りながら、胸に浮かんだ寂しさをそのままに考え事をする。
泡でも空気でも鳥でも魚でも、こいつならば俺は好きになるしかない。ていうか好きだ。俺はそういう風に出来ていると十分に自覚している。
でも、それでも。
話すなら、料理するなら、抱き合うなら、
人の姿が、一番いい。
「……」
かと言って、今のところ俺が何か出来るわけではない。
何で泡になったか皆目検討もつかねえし。医者に行って治るもんでもねえだろうし。相談するにも、恋人様が泡になった、って言える相手なんて限られてくるし。
……ダメだ、いい考えが全く浮かばねえ。
「……はあ」
妙案も浮かばないまま、料理をする手だけが進んでいく。こうなったら俺はぐるぐる考え込むだけだから、いっそ考えるのを止めて料理に集中しようと決めた。
野菜を炒め、ケチャップと砂糖と酢を混ぜたものと片栗粉をつけた鯵を同じフライパンに入れる。
美味しそうな音をたてて魚に火が通る。夏は気を付けなきゃいけねえからな、しっかりと焼かねえと。
「……こんなもんか」
魚に火が通り、あんかけが全体に絡んだのを確認して火を止めた。
「よし、じゃあ味噌汁作るか」
火が消えているのを確認して、俺は冷蔵庫に茄子と舞茸を取りに行こうとした。
その時だった。
「……ん?」
すぐそこの玄関から、聞きなれた電子音がした。というか、俺の家のチャイムが鳴らされた。
「何だ、こんな時間に?」
来訪者がある、なんて予定はなかったので首を捻る。
恋人様に視線で確認するが、こちらも覚えはないらしい。というか、一応俺の家なんだから、こいつに用のあるやつじゃねえな。
「……?」
不思議に思いながらも、扉の覗き窓から外を確認する。
「……え?」
そこに立っていたのは、俺のよく知る人物で。
知っているからこそ、突然来ることが珍しいとわかり、思わず声が出た。
「あ、いるの?」
薄い扉では、俺の声は筒抜けになっていたようで。外の人物から反応が返ってきた。
「近くに用があったから来たんだけどさ、今大丈夫?駄目なら帰るよ」
駄目なら帰る、の一言につい扉を開けてしまった。すると、突然の来訪者は瞠目ののち、俺を確認して相好を崩した。
「兄貴、久しぶり。夕飯時にごめん」
「いや、まぁ、大丈夫だ」
恋人との休日を邪魔されても、怒りにくい相手がそこには立っていた。
突然ですが、弟がやって来ました。