恋人を抱き締めました。
いつもの倍以上の時間をかけて、いつもの何倍もの幸せを感じながら無事におやつを食べ終えた。
恋人様は小腹が満たされたらしく、満足そうにしている。
俺も、勿論充足感でいっぱいのはずだ。恋人と一日家に居て、終始仲好くしてたんだから。
……なのに
「…………」
何か、もの足りない。
胸の一ヶ所だけ、ピンポイントにぽっかりと穴が開いているようだった。普段はそんな気持ちにならないのに、大切なものが欠けているような、そんな空白があった。
「……?」
よくわからないまま、よくわからないから感じたままに行動してみた。
恋人の入った小瓶に腕も伸ばし、そのまま腕の中に囲う。不思議そうにする恋人をそのままぎゅっと力を入れた。
(……あ)
そこで、俺はやっともの足りないものに気がついた。
俺はこいつを抱き締められる。でも、こいつは俺を抱き締められない。
返ってこない腕が、もの足りなかった。
「あー……」
合点がいくと、呻き声とともに眉根が寄った。
こいつといられるだけで、それでいいと思ってた。
こいつと仲好くできれば、それで満足だと思ってた。
思ってた、だけだった。
「俺も、贅沢になったなー……」
仲好くしたのに、今もゼロ距離で一緒にいるのに、
まわした腕が返ってこないだけで、すごく寂しくなっていた。