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恋人と食べました。

DVDも見終わると外は太陽が沈みかけ、夕方であることを教えてくれていた。


「面白かったか?……そうか、良かった。あー、でもこれ見てるお前ってやっぱり可愛いよな」


DVDが終わって、ふわふわした雰囲気の恋人に声をかける。話の余韻が残っているのか、未だ興奮気味のこいつは普段以上にきらきらして見える。ああ、可愛い。


「しかし、夕方か……メシには早いけど、腹へったな」


時計を見ると夕方4時。


普段なら腹がへるには早すぎる時間だ。でも今日は朝食が遅く、昼を抜いたからか変な時間に体が空腹を訴えている。こいつも同意見らしく、ちょっと恥ずかしそうに賛同を示している。


だよな。勤務中を除けば、俺達の生活リズムは大体一緒だもんな。腹へるタイミングも一緒だよな。


あー、何かいいな、そういうの。新婚さん?みたいで。


……と、俺が甘い妄想に耽っていると、恋人様がちょっと白けた目を向けてきた。目がどこかわかんねえけど。


俺は現実に引き戻されて、頬を引き締める。


あ、よだれ垂れてた。


「っと、危ねえ。……そんな目でみんな、って。仕方ねえだろ、お前とのこと考えてたんだから」


開き直る俺に、恋人は不服そうに応じる。でも滑らかな表面が赤くなってるから、本音は満更でもねえんだろ。あー、何だよめちゃくちゃ可愛いな。食っちまいたい。


……あ、食っちまいたい、で思い出した。腹減ってるんだった。


「そうだな……ちょっと遅いけど、おやつでも食べるか。プリンあるし」


プリン、の一言で輝き出すこいつがもう愛しくて仕方ねえ。


別に特別でもなんでもない、そこら辺のスーパーで買えるやつだ。三つ入り税別200円。


それでこんなに輝くこいつが今日も大好きだ。お前、プリン大好きだもんな。俺も好きだ。お前が好きなものだからな。


この間、ネットで拾ったレシピでプリン作ったらめちゃくちゃ喜ばれた。食べたいけど、食べ過ぎると体重が……と葛藤していて微笑ましかった。


俺の作った馳走で太ってもらえたら、俺としては幸せなんだけどな。結局、全部綺麗に食べてくれて嬉しい限りだった。


「じゃあ、取ってくるから。……わかったから、急かすなって」


急かすこいつに、つい笑みが溢れる。


言われなくったって急ぐって。離れたくねえんだからよ。



「ほら、取ってきたぞー。じゃあ、食べるか」


そう言って、俺は恋人の入った小瓶を開ける。そして、そうっと傾けて恋人を広くて浅いタッパーに移す。


「ほら、あーん」


擬音とともに、恋人の……おそらく口元までプリンを近づける。


すると、プリンは泡の中に吸い込まれて、少しすると無事に嚥下された。


さっき判明したのだが、恋人は自分では動けないが、食べ物を食べられるらしい。見ているぶんには、何て言うか吸収?されてる感じ。あんまり泡の量は多く見えねえのに、普通の量を食べられるみたいだ。


でも、自分からは動けないから俺が食べさせるしかない。幸せでしかない。ありがとうございます。


何て言うか、庇護欲やら征服欲やら、色んなもんが満たされる。だって恋人が俺の手づから物食べてるんだ、昔は警戒心マックスだったのにここまで来たんだぜ、言い方悪いけどプライドの高い猫が自分の手から餌食べてくれたみたいな瞬間を百回分くらい凝縮した感じ。


……落ち着け俺。うっかりトリップしたら、恋人に次の一口をあげられない。何だよ次の一口って、一口で終わらねえんだぜ、幸せが食べ終わるまで続くんだぞ、ああ生きててよかった。


……いや、だから落ち着け俺。恋人様が次のプリンをまって焦れてらっしゃるじゃねえか。恋人を焦らす、って何か興奮する。あーん、ってすげえな。


「ん、ああ悪い……あ、やべえ。よだれが」


つい幸せが許容量を越えてしまい、俺は人前に出られねえほど頬が緩んでしまっている。恋人の視線が何か白けてるけど、引き締めるとか無理だ。だって幸せだ。


「ん、あーん」


次の一口を差し出すと、恋人はすぐに吸い込み、泡の体に収めていく。


恋人はプリン食べられて幸せそうだし、俺は恋人にあーん、てできて幸せだし。


一個百円もしないプリンで、こんなにも幸せになれる。昔じゃ、こんなこと想像も出来なかった。こういうことを俺に気づかせてくれる恋人様は、やっぱり世界中の何よりも誰よりも一番の存在だな。


「ん、まだあるからな?いっぱい食べろよ?……はい、あーん」


あー、幸せ。



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