表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣鬼抄 ~ABARETABI~  作者: 豚河原 肉彦
1/1

序章 〜OITACHI〜





何処とも知れぬ世界における、何時とも知れぬ話である。





「最近わかってきたんだがな。──どうやら剣とは。

剣とは己であり──己とは剣であるようだ──。」

声の漏れ出ずるは、陽光射込む山深き道場からであった。


 ──呟いたのは齢八十を数える、年経た老爺であった。

コシ無く細い白髪。水枯れた渓谷の如く深く刻まれた皺。

しかし背筋は屹立し、泰然たる様は大樹を思わせた。

またその眼差しは静謐ながら一分の隙も見当たらない。


 老爺の名は「舵間かじま 鶯伝おうでん」。

かつて「剣聖」と世にうたわれた達人であった。


──向かいに座して、呟きを聞くのは少年であった。

所々で跳ねる艶やかな黒髪は鶯伝と対を成してはいたが、

涼しげながら愛嬌のある目元は年の差なく瓜二つである。


 鶯伝の言を受け、口を閉ざしたままであった少年は

遠くを見遣り目を細め、両手を床につき頭を垂れ、叫ぶ。



「ああージジィボケたーついにボケたーっ!金属とかー!己を無機物というぅー!そのうち街中徘徊してご近隣に迷惑をかけるーさらには俺を若かりしババァと勘違いしてジジィドゥザハッソゥ!ジジィ!ドゥザ!ハッソゥ!あーもー俺貞操の危機かー!ジジィ胡乱ぞー!うろんうろーん!おいらウロンさんせぶふぅ!」


──波濤の如き木剣の一撃が頭に炸裂するのであった。





「おー痛え。前途洋々たる若人にボケという名の絶望と棒切れの一撃ぶちかますたぁどういう了見だジジィ?」


「うるせえボケてんのは手前ェだこのクソガキ。人が師匠らしい御高説垂れてりゃなんだドゥザハッソゥとか。」


「とぼけてんじゃねえよぅジジィ!里降りちゃあ若ぇ娘の尻っぺた追いかけ回してるじゃねえかジジィ!ボケはボケでも色惚けだこのジジィ!おうこらジジィ!ジジィ!」


「ジージー繰り返すんじゃねえよ馬鹿孫が。剣の極意だぞ?語ってやってんだからちったぁ神妙に聞けよ。」


「ぬ?あー極意かーじゃあしょうがねえなあ……。……折角なあ……。」


「なんじゃい?」


「桶屋の娘のクソエロい噂聞きつけたんだけどよ。」


「マジで!?」


「これから確かめに行こうと思ったんだんだが極意じゃしょうがねえ。後回しだ。」


「バッカモーン!機を逃して何の武人ぞ!器量良しの桶屋の娘情報とかマジ戦!~IKUSA~ぞ!」


「んじゃ行くか?」


「行く行くー!」



────割とフランクでお達者なお爺ちゃんであった。





「──要するにだ。『剣我一如』ってな。気剣体、修むれば修むる程、剣と体の境目があやふやになってくるんだ。」


「…………あやふやとかやっぱジジィボケたんじゃねえか。」


「だからそうじゃねえってんだよったく。いいか?まず剣てなぁ人ぶった切る為のモンだ。そりゃあわかるよな?」


「当たり前だろうがよ。高枝切るためのハサミ抱えて戦場行くかジジィ。」


「茶化すんじゃねえよ。けどよ。ただその辺に剣が転がってるだけで使わなかったら高枝切りとも変わらねえんじゃねえか?」


「ん?おお、まあなぁ。振り回してなんぼだろうな。」


「おうよ。振り回す俺たちがいなきゃあ切ることはできねえ。つう事はだ。大事なのは『切る』という意思と行為にある。」


「んー……わかるようなわかんねえような…………。」


「まあ最後まで聞けや。『切る』のは剣、『切る』とは行い、『切る』という意思をもって『切る』は己じゃ。

意志によりて繋がれし己と剣、境取り払ひて臨むれば人器分かつに及ばず、ただ只管に行ふは武なりと、まあそういう訳だ。」


「ああーん?…………あー……。あーダメだ。わかんなくなっちまった。」


「まあ、今はそれでいいよ。だが今の言葉、心に留めとけよ?──『剣と己はひとつ』。道は険しいぞヒヨっ子。」


「なめんじゃねえよ。そのケンガーイチニョとやらになりゃあいいんだろ?やってやるぜジジィ。」


「師匠と呼べってんだよ。洟っ垂れが。」


 悪態はつきあえど互いに笑みが浮かんでいた。


──師と弟子、祖父と孫。心休まる一幕であった。



「っておっほーう!あの娘マジでこの時間に必ず行水するんじゃな!?ドゥザハッソゥ!ドゥザハッソゥ!」


「なー迂闊だよなあ。木塀に囲まれてるったって剣でほじくりゃあ文字通り筒抜けだぜ?戦場だったら命もアブねえよっほーう!?そんなとこまで洗っちゃうのかよぅ!?アプサイダン!アプサイダーぶふぅ!」



──塀をぶち抜いた桶屋の娘の一撃が炸裂するのであった。



この若干頭が緩めの少年、名を「舵間かじま 路岐ろき」という。

後に「剣鬼けんき」「殲刃せんじん」「斬波ざんば」「裂空れっくう」「狂鳳きょうほう」「瞋龍しんりゅう」「音抜おとぬき」「麒麟児きりんじ」「刀外道かたなげどう」「修羅薙しゅらなぎ」「断頭燕だんとうつばめ」「影不知かげしらず」「霧切主きりぎりす」「陣中縛鎖じんちゅうばくさ」「迅雷夜叉じんらいやしゃ」「血煙神楽ちけむりかぐら」「千手不動せんじゅふどう」「首狩疾風くびかりはやて」「突貫独漢とっかんどっかん」「蛮勇隠力ばんゆういんりょく」「無双猛道むそうもうど」「疫災天狗えきさいてんぐ」「呑計金剛どんけいこんごう」「豪放無礼久ごうほうぶれいく」「侍衛台じぇだい」「砕矢尽さいやじん」「背牙得せがうる」「乱紅蓮らんぐれん」「着駒能吏守ちゃっくのうりす」「力也」「轟嵐俄ごうらんが」「月路盟多つきじめいた」「砲躯倒真剣ほうくとうしんけん」「無墓名なぼな」「猪鹿鷲馬舵間獣吼いしかわしまかじまじゅうこう」「荒野の酔人暴ようじんぼう」「なんとなくクリティカル」「悪魔が来たりてクリティカル」「戦場のベリークリティカル」「合戦場名物」「恋する停戦要求」「歩く終戦のお知らせ」「ブッツメ(武の頂昇り詰めし者の略)」「ヒルメシ(比類なき武の器修めし者の略)」「チーカマ(チート相手とかマジ聞いてないしの略)」「エロスの泉」「セクハランドエロクトリカルパレード」「アレの孫はアレ」「すごく強い」「他にも色々ある」「場合によっては増えるかもしれない」「順不同」──などと呼ばれ世の畏怖を浴び続けた────剣の申し子である。


次号を待て

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ