母と子
神様を信じた人のなれの果て
この世の中ほど生きて、生きにくい世界はないだろう。そんな事を俺は今までに何回言ってきただろうか。疑問を見つけてはひたすらに解決策を作り、話題を見つけては自分の中で完結させる。俺の中での言葉とはその程度の価値しかない。作ってきたものをぶち壊して後悔することが今までに数えきれないくらいあっただろう。誰かを傷つけてまで俺に生きる価値はあったのだろうか。自問自答を何回も繰り返し徹底的に自分を否定し続けた俺が見た世界の最後には、俺の存在を認めてくれた神様がいた。
「他人の中の自分を気にするよりも、自分の中の自分を気にしなさい」そんなことを言う母親だった。母さんは俺が最もこの世で尊敬した人だ。俺がまだ2歳のころに父を亡くしてから女手一つで独り立ちさせてくれた母さんを俺は一番尊敬するし、この世で一番好きだって言える相手だった。いつも俺が疑問に思ったことに対してヒントをくれ、俺を正しい道に導いてくれた母だった。そんな母が先月死んだ。その時に俺は世界が真っ暗になるような衝撃を受け、三日三晩寝付くこともできずにいた。そして迎えた四日目の朝。まぶしい太陽は登ってこずに、世界は闇に落ちたままだった。
俺がふと意識を外に向けるとあたりは暗かった。「まだ夜か」呟いて腕時計を見ると時刻は午前九時だった。
「なんで外がまだ暗いんだ・・・?」俺は自分に答えを求めた。なんで九時なのにまだ暗いんだ。A.俺が死んだか世界が死んだ。「・・・・外になんか食い行くか」俺は外に出た。
外に出ると誰一人いなかった。コンビニにも、スーパーにも、ファミレスにさえもだ。「これは本格的に人類、もしくは俺死亡説が濃くなってきたな・・・・」俺が三日間、家から出ない間に一体何があったんだ。本当に。電気はついてるし、血がそこら中に散らばってないことからバイオハザー○的なことではないと思う、というかそう思いたい。
しばらく歩いていると、どこからかうめき声が聞こえてきた。「・・・・・ぅぅう。」よし逃げるか。俺は逃走を決意した。その間わずか0,2秒。俺は元来た道を引き返し家に帰っていった。
家に帰りついてから俺は寝た。三日間寝ていなかったからか、それとも何かつきものでも落ちたかのように俺は寝た。目が覚めた。「うぁーー、よく寝れた、今何時だ・・・」と寝ぼけ眼をこすりつつ、枕元に置いてある腕時計を見ようとしたとき、俺は違和感に気づいた。「・・・・(なんか俺の上に乗ってる・・・?)」俺が恐る恐る上を見ると、母さんがいた。
「なんで・・なんで母さんがここに・・・?」俺は眼の前の現実が信じられずに、自己解決もしないまま思ったことを口に出した。すると母さんはにこりと笑う。笑う。・・・・
「お前はこのままでいいのかい?こんなわけのわからない、明日が来ない、夜が明けないくらい世界に閉じこもっていてもいいのかい?」俺は、母さんの言葉の意味を理解しつつ答えるために母さんの目を見た。死人の目を見た。「・・・確かにこの世界はおかしいと思ったよ。人がいないし、夜は明けないし。でもこの世界でもいいかなと俺は思ってきてるんだ。元の世界にいたって、母さんがいないし、わけのわからない理不尽な世界じゃないか。人を傷つけ傷つけられるくらいだったら、いっそこの誰もいない世界で母さんと二人でいるほうがいいに決まってる。」いつの間にか俺の目からは涙が出ていた。母さんはその涙をぬぐって、最後の別れを言った。
「お前が生きている世界なんて言うのは随分と小さい世界だよ。他人が自分を傷つける、自分が他人を傷つける。そんなことは人の取り方次第なんだよ。私も小さいころからおまえにそう教えてるはずだよ。和樹。「他人の中の自分を気にするより、自分の中の自分を気にしなさい。・・・・・・・・・・和樹の心だけが和樹の心なんだから自分を精いっぱい守りなさい。」母さんも泣きながら言った。「それでももしお前が、傷つき立ち直れそうもなかったら私がいつでもきてあげるから、だって私は和樹の、和樹だけの母さんなんだから。」「つらい時は人を頼ってもいいんだよ。誰も和樹を傷つけない。だって傷つけてるのは和樹自身なんだから。私が死んで和樹はつらかっただろう。私も悲しんでる和樹を見るのは悲しかった。だから世界を暗くしてお前に会いに来たんだ。死人は夜に動くっていうだろう。無理やりだったけど、無理やりしないといけなかったんだ。お前に、和樹に一言いうために。」もう母さんは泣いていなかった。代わりに今までで一番美しく可憐に、誇りに満ちたまなざしで見つめていった「生きなさい。」それにはもう、理解も屁理屈も不満も言わない。最後で最高の親孝行だ。「生きます」
それからいくらか時間はたって現在に至るということだ。夜が終わった。最後の別れも終わり今日も俺は生きている。