第6話 妹が出来た
ここは首都シルトガル郊外。ミリアエル・ゲオルクの館から十分程度離れた街道上である。
今回はマダラ師の使いで、隣国ミストガル王国の首都ミーガスにあるミリィ達の同門の錬金術師のところまで行ってきた。片道約七日。滞在三日。約半月の旅だ。
道中、商隊に便乗させてもらったり、山賊や野獣に襲われて撃退したりと中々刺激的な旅だった。
ミーガスでは相手の錬金術師の返答を待つ間、街を見てまわってこの世界の文化を学んだり、錬金術師の伝手で王立図書館の利用を許可してもらい、本を読んで過ごしたりしていた。
そして帰りの旅路では「漆黒の少年剣士」の噂を聞いた。なんでも俺と同じ十四歳くらいで盗賊や野獣を瞬殺するほどの剣士らしい。俺と同じ黒を基調とした旅装束だったとか。
世の中にはすごい人間も居るもんだ。うんうん。
また、この旅の道中で俺は食べ物を問題なく食べられることを知った。いやまあ、ミリィの食事を作っているので味覚事体があるのは自覚していたが、魔動歩兵の肉体が消化できるとは思っていなかった。正しくは消化ではなく物質転換なのだが。
実は俺の体内には魔素転換炉という装置が組み込まれており、体内に取り込んだ物質(食物に限らず)を魔素に転換して魔素庫に保存するという機能があったのだ。
補助頭脳の解説によると、魔素の薄い場所でも活動可能とするための新機軸な機能で、現在俺だけが持つものらしい。…なんかとても嫌な予感のする機能だ。ミリィが作っただけに。
だが、そんな新発見のあった旅ももう少しで終わる。
半月ぶりの館は何とも懐かしく、家に帰ってきたという気持ちが湧きあがってくる。この世界での実家なのだな、ここは。ただ片づけられないミリィ一人だったから、明日からの掃除がちょっと大変か…という不安もあったが。
「ただいまー。」
ドアを開けて声を掛けると、奥からトタタタタタタタ…と誰かが駆けてくる足音が聞こえてきた。
はて?ミリィはこんな行動とる様な人じゃないし?
そう思っていると、洗い場の方向からメイド服を着た女の子が飛び出してきた。そして俺の姿を見ると、驚いたように立ち止まった。
見た感じ、年は十一・二歳くらい…俺の外見より少し年下か。栗色の長い髪を三つ編みにして後ろに下している。そしてクリクリっと見開かれた瞳は俺と同じオッドアイ。右が青で左が赤と、俺とは左右逆ではあるが。
「…クルス…兄様…ですか?」
彼女は恐る恐る俺に問い掛けてきた。兄様…だと?
「確かに、俺はクルスだが?」
疑問たっぷりであるが、そう答えると彼女はいきなり俺に抱き着いてきた。
「わ、私!兄様の妹でホムホムと言います!」
な・な・何がどうしてこうなった!?…ってホムホム?なんか以前に聞いた事あるような名だが?
俺が混乱して茫然としていると、彼女の後ろから白衣を着た二人の人物が現れた。ミリィとマダラ師であった。
「お帰り、クルスくん。」
「マダラ師。これはどういう?」
俺の問いかけに、マダラ師ではなくミリィが答える。
「あなたが出かけると、家事してくれる人がいなくて困るのよ。だから、あなたの代わりに家事をしてくれる魔動従僕を作ったわけ。」
「私はその手伝いだね。ミリアエルが作ると魔動歩兵なみの戦闘力持っちゃうから。」
二人の言葉でようやく納得した。…が魔動従僕?
<<解説。非戦闘型の人造人間の事。>>
つまり、使用人として使う事を前提とした人造人間って事か。
「彼女設計の世界初、自我持ち魔動従僕だよ。」
マダラ師の言葉に固まる。自我持ちだと?
「自我持ちって法に引っかかるのでは?」
俺の疑問にマダラ師は笑顔で答える。
「それは魔動歩兵の方だね。魔動従僕は基本的に人と同程度の性能しかないし、三原則遵守を基本に組み込む事を想定しているから、その法の対象外なんだよ。」
三原則?
<<解説。一つ、人に危害を加えてはならない。一つ、人の命令には従わなければならない。一つ、自己を守らなければならない。以上の三原則。>>
ロボット三原則まんまだーっ!
<<補足。魔動歩兵は軍用であるため、上官の命令には従わなければならないという原則のみ。>>
え?俺にはそんな制限ないぞ?
<<返答。補助頭脳に摘要。上官は主頭脳と設定。>>
……とことん特別バグ仕様な俺。
とりあえず、彼女の正体は理解した。
「大体理解しましたが、何故俺を兄と?」
まぁ、ミリィ設計なら本当に俺の妹と言っていいが、人造人間が実の妹って俺も人造人間ってバラす事になるんじゃ?
そんな事を考えていると、マダラ師が説明してくれた。
「ミリアエルから君は天涯孤独と聞いてね。兄妹くらい居てもいいんじゃないかと、君の妹として設定してみたんだ。ダメだったかい?」
マダラ師の後ろでミリィが嫌らしい笑みを浮かべていた。つまり、ミリィが俺の人としてのバックグランドをでっち上げ、それを真に受けたマダラ師が気を利かせて俺の妹にした…ということらしい。
抱き着いてる彼女を見下ろすと、今にも泣きだしそうな不安気な表情で俺を見ていた。
もう出来上がっている訳だし、否定してこの子を泣かせるのも本位じゃないしな。
「いえ。妹が出来てうれしいです。」
そう言って俺は、抱き着いてる彼女の頭を撫でた。
…あとでミリィにどんなバックグランド作ったか確認しておかないとな。
* * *
俺が留守の間、ホムホムが家事をやっていてくれていたお蔭で、不安だった掃除については問題なかった。とは言っても生後一週間。まだ完ぺきではないので、出来ていなかった部分は俺がやった。身長的に俺の肩くらいまでしか無いので高所は俺の担当決定であるが。
しかし、さすが最初から家事手伝い用として創造されただけあって、見かけ以上に有能であった。掃除や洗濯の手際はよく、料理は俺など比較にならないほどうまい。
まぁ俺の料理は問題なく食えればいいという男料理だったから、比較すること事態間違っているが。
ただ、その食事の事で俺の正体がホムホムにバレた。なりゆきはこうだ。
* * *
(Replay)
朝食時、ミリィと俺、ホムホムが食堂にあつまる。テーブルにはミリィと俺の分の朝食が並んで、ホムホムの前にはコップ一杯の水がある。魔動従僕といえど基本構造は俺と同じらしい。
そしてミリィは料理をモリモリと食べるが、俺は料理に手を付けずコップの水だけを飲む。その光景にホムホムが疑問を持ったのだ。
「あの…兄様?お口に合いませんでしたか?」
不安げに聞いてくるホムホム。それに俺は軽く答える。
「いや。俺はホムホムと同じで水だけでいいんだよ。」
「でも兄様は私と違うのですから、ちゃんと食事してくださらないと体に障ります。」
ここで俺は二重に勘違いしてることに気付いた。一つは彼女は俺を人間だと思っていること。確かにマダラ師が知識を入力したのだとしたら、俺を人間として入力してあるだろう。そしてもう一つは、ミリィがそのあたりの事情を補正していると俺が思い込んでいたことだ。
「ミリィ。俺の事言ってなかったのか?」
「あなたの妹なのだから、あなたから教えればいいじゃない。」
俺はミリィに確認の意味で問うと、俺に丸投げするように答えた。
俺は呆れたようにため息を付くと、首を傾げてこちらを見ているホムホムに向き直った。
「ホムホム。俺はね…俺は人間じゃないんだよ。ミリィに作られた魔動歩兵なんだ。」
言われたホムホムは、呆けたような顔で俺を見つめていた。俺の言葉を整理しているようであった。
「え?でも兄様は人間みたいに…え?」
混乱してる混乱してる。でも知識はそれなりにあるようで、知識と俺の存在の整合性不一致に悩んでいるっぽい感じだ。
「えーっと、自我持ち魔動歩兵は法的にどういう物かは知識にある?」
俺の言葉にホムホムは頷く。
「要するに俺は、そういう存在だから対外的には人という事にしているんだ。」
「でも、でも、マダラ様は私が世界初の自我持ちだと。」
「それは間違ってない。最初から自我を持つように設計して作られたって意味ではね。俺の場合は事故というかバグというか、偶然人間の魂みたいなものが紛れ込んだ訳だから。」
俺の説明を吟味してるのか、黙って考え込んでいるホムホム。
「そういう訳で、同じミリィ設計だから本当の意味で兄妹って事だ。俺たちは。」
その言葉に彼女の表情が嬉しそうに輝く。
「あ、外や人の居るところでは、俺は人間って事にしておけよ?解体処分される気は本気でないから。」
「は、はい!」
(Replay End)
* * *
そんな感じで、ホムホムは俺の正体を知ったのだ。
まぁ俺としても慕ってくれる可愛い妹に隠し事は心苦しいし、知られた事は正解だったと思う。
そんなことを思いながらホムホムを見ていたら、俺の視線に気付いたらしく彼女は俺を見てニコリとほほ笑んできた。
なんにせよ、可愛い妹が出来たのは嬉しい事だ。
「このヘンタイ兄妹め。」
仲良くしている俺達を見て、ミリィは面白くなさそうにつぶやいた。
「あのな…ヘンタイってなんだよ。」
「そうです。ブラコン・シスコンはただの個性とマダラ様も言ってました!」
……おい…。
タイトルネタ、ようやく本編で回収しました。地味ですが。




