第5話 武者修行しよう
今回は、色々と失敗した。
簡単に言えば、国家権力に目ぇ付けられた…と。いや、別に犯罪者とか危険人物とかそういう負の方向でないのはまだマシなんだが、将来的に使える人材だと思われたのは確実である。
何があったかを順を追って説明しよう。
* * *
以前、身体制御を確実にするために武術修行もしていると説明したと思う。数日前も庭で剣の素振りをしていたのだが、そこへたまたまミリィを訪ねてきたマダラ師が現れ、俺が剣術修行をしている事を知られた訳だ。まぁ本当の理由については己の正体にかかわる事なので言えないが、身体を鍛えるためという誤魔化しの理由を言えば大体納得してくれた。
余談だけど、俺の人工筋肉は鍛えても成長はしないけどね。
俺の話を聞いたマダラ師は、納得しただけでなく協力を申し出てくれた。なんと王城の訓練施設を使わせてくれるよう頼むと言ってくれたのだ。俺としては渡りに船だし、ミリィも週一・二回ならいいというので、その話にありがたく乗せてもらった。恐らくコレが失敗の第一歩。
その二日後にマダラ師と共に登城。本来であれば俺の師匠であるミリィが付き添うべきなのだが、マダラ師が保証人となってくれたのだ。師は城でも上位の役に付いていて、彼と一緒だったからすんなり城に入れた。
話は逸れるが、俺はこの時はじめてマダラ師が宮廷錬金術師としてかなり上位の地位に居ることを知った。宮廷工房の副工房長だとか。顔パスが許される訳である。
そして、訓練所に連れられていき訓練教官のマンハトと引合された。マンハトは壮年の筋肉隆々マッチョさんで、かつては軍の中隊長をしていたが怪我で一線を退き、教官になったという人だった。
ここでマダラ師はお互いを紹介して、自分の職場(宮廷工房)へと戻っていった。
でマンハトに引き継がれた俺は、まずどこまでやっていたかを聞かれたので、やっていたことの目的を語ってから、素振りと我流の型の練習をやっていた事を伝えた。そうすると、まずはやっていたことを見せろというので、館でやっていた事…素振りを少々と我流の型の練習をやって見せた。
しばらく見ていたマンハトは「基礎は大体できているみたいだな。」と、俺を訓練所の一角に連れて行った。そこは、木剣を構えた上半身だけの人形が並べてあった。打ち掛かる練習用の案山子だとその時は思ったのだが。
「まずは、アレに打ち掛かってみろ。」
予想通りの物だったので、早速構えて打ち掛かる…と同時に反撃されて俺は吹き飛ばされた。俺が何事かと茫然としているところでマンハトはこう言った。
「クルス。お前の型は攻めだけで受けができていない。今まで一人でやっていたのだから仕方ないが、しばらくは案山子相手に攻撃を凌いで打ち込む訓練をしろ。」
理にかなった指摘であったので、俺は素直に案山子相手の訓練を始めた。
この案山子は宮廷錬金術師が設計・作成した物で、対象が近づくと攻撃してくる仕組みになっていた。見かけからただ木剣を振り下ろすだけかと思いきや、突然横殴りにきたり下から振り上げたりと多彩。しかも攻撃タイミングもランダムに見える徹底ぶりだ。なかなか打ち込めるものではなかった。
結局、その日は相打ちで数度打ち込めただけだった。
なんか悔しかったので次は打ち込めるようになろうと、館での訓練は受けも意識した動きを心掛けて行ったのだが、多分これが失敗の二歩目。次に訓練所で案山子の相手をしたときに案山子をぶち壊してしまったのだ。
さすがにこれはマズった。
だって、動きが見えてしまったのだから踏み込んで打ち込むしかないだろう。…いやそれは問題ない。できるようになるための訓練だからそれはいい。ただ二回目でやってしまったのが問題ということなのである。成長が速過ぎる。
壊した後、マンハト直々手合せをして叩きのめされたのは、多分増長しない為だと思う。身体を壊しているとはいえマンハトの腕前は健在で、案山子相手では体験できなかった攻撃を受けられ、逸らされる感覚は勉強になった。
しかし、これでマンハトが考えていたカリキュラムが前倒しになり、次からは城勤めの衛兵たちの訓練と時間を合わせることになった。…これが失敗の三歩目。
見た目十三・四歳くらいの少年が、城勤めの衛兵と互角に打ち合える。いやすぐに互角以上に打ち合い、衛兵を打ち負かしてしまう。それがどういう結果になるか。
妬まれました。
一応、俺の背後にマダラ師とミリィが居ることが知れ渡っているので、表立ってからんでくる輩は居なかったが、聞こえるか聞こえないか微妙なラインでイヤミを言われるのはまだマシなほう。地味にいやがらせ受けたり(あれ?俺の着替えどこ?…ゴミ箱の中でした!とか)、訓練中の事故と称して、木剣が背後から飛んで来たり(お、わりぃわりぃ。手が滑ったよ…ニヤリ…とかとか)、まー大人げないこと。
嫌だねぇ…大人の醜い嫉妬って。
それで昨日の事だ。
部隊長を務める男…名前までは知らないが…が、城の魔動歩兵を持ち出して、こいつと戦ってみろ…と言ってきた。自分が負けたからてそんなの持ち出してくるとは。大人げなさもここまで来ると笑えてくる。
しかし、自分以外の魔動歩兵は初めて見たが、頭髪は無いわ、無表情で人形みたいだわ、瞳は白目が無い黒一色だわ、見た目からして俺と随分違っていた。…っていうかオッドアイが普通じゃないんだな。ミリィが特別仕様と言ったのは外見も含めてなのかもしれない。
俺自身、一般的な魔動歩兵の実力を知りたいと思ったのが運の尽き。部隊長の口車に乗る形で魔動歩兵と戦闘訓練をすることになった。
* * *
(Replay)
俺と魔動歩兵は訓練用闘技場にて向き合い、訓練中の部隊の兵士たちは遠巻きにその光景を見ていた。
「訓練モードであの少年を行動不能にしろ。」
「了解。開始命令待機。」
部隊長が魔動歩兵に命じ、歩兵は始めの合図を待つ。
俺はいつ始めてもいいように、木剣を右手に持って身体をリラックスさせる。訓練モードって初めて聞くが?
<<解説。戦闘モードの一つ。行動速度・反応速度は戦闘モード同等で打撃・攻撃力は低下。相手を殺さないモード。対魔動歩兵訓練用で一個小隊が相手をする。>>
…え?つまり、一般兵数人がかり…一個小隊ってことは大体二十人ほどで相手するような物ってこと?
それをけしかけるってホント大人げねー。
「はじめ!」
部隊長が号令をかけると同時に、魔動歩兵が俺に向かって踏み込んできた。めっちゃ早い。けど俺の目で追えるし反応もできる。
身体を捻り魔動歩兵の木剣をぎりぎり躱す。が相手も反応しすぐに横に振るう。これは俺も木剣で受ける。と同時に相手の力をそのまま利用して背後に飛び距離を取る。
ざわ…ざわ…ざわ…
見物客からどよめきが湧く。
開始の号令からまだほんの数秒のやり取りである。恐らく皆、最初の一撃で俺が吹き飛ばされて終わりと予想していたのだろう。それを見た目十四歳くらいのガキんちょが覆したのだ。ざわめきもおこる。
一旦動きが止まったところで、次は俺から踏み込んでいく。様子見の一撃は易々受け止められ、反撃の蹴りが左わき腹めがけて来る。さすがにこれは体勢的に避けられないし、剣でも受けられない。反射的に両手で握っていた剣から左手を放して肘で蹴りを受け止める。しかし体重が人並であるため、受け止めきれずにガードごと吹き飛ばされ大地を転がる。まぁほとんどダメージが無いのですぐに立ち上がるが、今のやり取りで魔動歩兵の特徴が見えてきた。
基本的に先読みという行動予測ではなく、人より早い行動力と反応速度で対応しているようだ。ならばフェイントを含めたらどうか。ここで修行するようになってから覚えたフェイントを混ぜて攻撃してみるが、すべて受け止められた。
すべてのフェイントに反応し防御態勢を取ってはいる。だが反応と行動が速いので、フェイントに引っかかっても本命攻撃の対応に間に合ってしまうのだ。…ちょっとシャレにならないな。
そして攻撃はというとリズムや速度がやたらと速いが、単調であるため予測が容易である。ただ尋常でない速さで打ち込まれるため躱し受けるが精いっぱい。
はっきり言って手詰まりに近い。
一応、今までの打ち合いは全部通常モードでの行動だ。戦闘モードに切り替われば反応速度と行動速度が同レベルまで引き上げられるので、もっと楽に戦える。だけどソレをやったら一発で正体ばれて、俺は解体処分である。
まあ俺の通常モードが戦闘モード…というより訓練モードと互角と判ったなら後は負けてもいいや。でも負けるにしても一矢報いたい。ならば相打ち覚悟のカウンターしか手はない。
そういう訳で、まずはわざと隙を作り打ち込ませる。
かろうじて見極められる速さの打ち込みが来るが軌道は予測済み。攻撃を剣で受け流し、そのまま軌道を外へ逸らす。と同時に半歩踏み込み剣の柄を魔動歩兵の胸元めがけて突き出す。多分勢いに負けて俺が組み倒されて終わりだろう…と俺は思っていた。
しかし、突き出した柄は胸元にクリーンヒット。しかもお互いの踏み込んだ勢いがそのまま打撃力に追加されて威力倍増、手元に相手の中身が砕けていく感触が伝わってきた。
我に返ると、魔動歩兵は動きを止め膝から崩れ落ちた。
「報告。任務失敗。主機関部中破。行動不能。行動不能。」
俺の足元で倒れ込んだ魔動歩兵は、そう繰り返していた。
(Replay end)
* * *
「天才少年剣士現る!」
「ぬわぁぁぁぁぁぁっ!!」
ミリィのからかいの言葉に俺は身悶えた。
やめてくれぇ~っ!魔動歩兵倒したのはやり過ぎだと思ってるよ!
でも最大の失敗は、止める間も無く倒した事が城中に知れ渡ったことである。文字通りミリィの今の言葉が城内に流れ飛んだのである。しかもミリィの弟子見習いでマダラ師が後見人であるという正体込みで。
お蔭で「軍に入らないか」とか「王直属親衛隊でもいいぞ」とか勧誘受ける始末。
もう、城に行けねぇよ…。
でも通常モードで戦闘モードに勝てるとは…実は魔動歩兵って思ったほどの脅威じゃない?
* * *
後日談。
魔動歩兵の使用は本来許可が必要であるが、部隊長は無断で持ち出し俺と戦わせたとの事。その上損壊という事態を引き起こしたのだから、それ相応の罰が与えられた。降格と減俸処分、さらに地方の砦勤務に左遷だとか。
ちなみに壊した張本人の俺は、第一に無理やり戦わされた被害者であること。第二に訓練中の出来事であること。第三に修繕はミリィが請け負ったこと。以上の三点によりお咎め無しとなった。…三番目が個人的に恐ろしいけどな…無自覚な魔改造されそうで。
後先考えず、嫉妬だけで行動するもんじゃないな…うん。
戦闘シーンは表現に悩みます。




