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第4話 お手伝いしよう

 茶と食べ物を持って、俺は地下の隔離実験室(修復作業中)へと降りて行った。

「ご苦労様です。お昼ですのでそろそろ休憩にしてください。」

 俺が声を掛けると、中で修復作業をしていた数人の大工たちが振り向いた。

「おう!クルス坊!すまねぇな!」

 大工の親方が俺にそういうと、作業中の弟子たちに声を掛けて集まった。

 空いていた作業テーブルに、持ってきた茶や食べ物を並べ、彼らが休憩できるように準備を始めた。

「進捗具合はいかがなものですか?」

 俺が聞くと、親方は難しい顔をした。

「あんまり芳しくねぇな。奥の壁のところから側面の壁にかけて基礎構造にダメージが来ていやがる。大穴開いた奥の壁だけ直しても、部屋の強度がガタ落ちだし、上の館が落ちてくる可能性もありやがる。結局部屋全体の修繕になって予想外に手が掛かるぜ。」

「…あぁ~…すみません。」

 この惨状を作ったのは俺なので、なんか居たたまれなくなり謝罪する。

「クルス坊が壊したわけじゃねーんだし謝るな。それに手が掛かるほうが弟子たちの修行になる。なぁ!」

「「おうっ!」」

 親方の言葉に、弟子たちも笑顔で答える。全員がやりがいがあって燃えている感じだ。

 しかし…知らぬが仏とは本当にこの事だよな……。


 実験室爆破から半月、修復作業は予想以上に難航していた。

 その間に俺はミリィの弟子見習いという立場を得た。本当に弟子入りしたのではなく対外的な口実でしかないのだが。なんでもこの国、シルトガル王国では魔動歩兵(ホムンクルス)に自我を持たせる事は禁止されていて、発覚すると重大な罰則を受けることになるらしい。

<<解説。作成した者と所有する者は禁固刑十年から二十年。魔動歩兵(ホムンクルス)は解体処分。>>

 補助頭脳(サブ)くん、解説感謝。

 実際、今まで人造人間(ホムンクルス)に自我を持たせることに成功した例がなかったので有名無実な法ではあったが、見事に抵触する存在がここに居るので、保身のために人間としての立場を設定したのだ。

 俺だって解体処分は受けたくねーしっ!


 * * *


「ほんと豪快に壊しちゃったのね。」

 書斎へ茶を持っていったついでに親方の言葉をミリィに伝えると、あきれたような声で言った。他人事みたいに言ってるが間接的にミリィが壊したとも言えるのに。まぁ大工の親方は彼女が錬金術の実験で誤爆したと思っていたようだが。そのあたりの事を含ませて、俺は答える。

「まぁ、緋色の破壊者スカーレット・デストロイヤーの弟子見習いだし。」

 その一言に、ミリィの顔色が変わる…というか般若が現れた。

「…その名、どこの誰が言ったのかしら?」

 うぉあー。年齢の話題に次ぐ禁句その二でしたか、その二つ名。

 その名は、彼女の兄弟子にあたる錬金術師マダラ・ゲオルクに教えてもらった。彼は首都シルトガルの王城に勤める宮廷錬金術師で、先日使いで彼を訪ねた時に教えてもらったのだ。

 なんでも修行時代に工房を全壊させたことが数度あったらしい。ミリィの実力としては新規技術の発想や設計については天才的な物があったそうだが、実際の制作になるとアバウトさが出て設計以上の威力を出したり、設計には無い機能があったりということが頻繁にあったらしい。

 …うん、身に覚えのある話である。身に覚えどころか俺の身が…というべきか。

 独立するときも師匠から「工房を建てるのは郊外にのみ許す。街中に建てることは一切許さん。」ときつく言い渡された曰くつきだ。

 それでついた二つ名が、当時から好んで来ていた赤い服装に因んで「緋色の破壊者スカーレット・デストロイヤー」なのである。


 そんな話を思い出していると、目の前で般若(ミリアエル)の口元が逆三日月型に開かれた。…ってねぇっ!こういう時って普通、口元が上にあがる三日月型ですよねぇ!?なんか不機嫌極まりないって、直接的にとっても怖いんですけど!?

「ねぇ。一体、どこの、誰に、教えて、もらったの、かしら?」

<<警告。警告。>>

 補助頭脳(サブ・ブレイン)もアラートを鳴らしている。

 ……ごめん、マダラ師。やっぱり俺、命惜しい。


 そして、俺はゲロった。


 * * *


 それなりの報復(殴る蹴るの暴行…だけどダメージなし)を行った後、彼女は実験室に籠り、俺は俺で館の雑用を始めた。

 今の俺の日常は立場通り、弟子見習いとして普通の内容となっている。つまり雑用をこなし、ミリィの助手として手伝いをする。あとは戦闘モードの制御を完璧にするため、時間を見ては武術訓練で身体を動かしている。

 大体、今の俺の日常はそんなものだ。

 まぁ取り立てて生きる目標というものも無いし、何もしない日々を送るよりは充実している。


 今日これからするべき事を考えるが、ミリィが一人で実験室に籠ったので錬金術の手伝いは今のところない。ならば洗濯と掃除である。

 洗濯については前世と大して違いはない。洗濯ものを洗濯機…こっちの世界では魔法と錬金術を組み合わせた物だが…に洗剤と共に放り込みスイッチを入れるだけ。終わったら庭に干すだけだ。

 問題は掃除である。

 まずは広さ。実はこの館、地下三層、地上二階建てで、地下は錬金術工房。地上一階は玄関ホールと応接室。食堂と厨房。風呂・脱衣所・洗い場。あとトイレという生活空間。二階は書斎と、客室三つに個室三つ。そんな感じでかなり広い。

 それだけの空間を一人で掃除するのはかなりつらい。しかも、この世界には洗濯機はある癖に掃除機がないのだから。

 それでも一階部分は箒とモップで掃除を終わらせる。基本的に一日一フロアで毎日掃除だ。

 あとは時間を見計らって、ミリィに茶を入れたり、食事を作ったり…。

 そんな感じで一日が過ぎていく。


 * * *


 翌日、俺はミリィのお使いでマダラ師のもとへ行ったのだが、その時に俺は「緋色の破壊者スカーレット・デストロイヤー」の恐ろしさを知ることになった。

 何があったか説明すると、その日の朝にミリィからマダラ師へ荷物を持っていくように言われた。ミリィはマダラ師から術式の設計とか検証の仕事をちょくちょく受けているので、仕事上の生産物を週一・二回の割合でマダラ師に渡すことになっている。その運搬が俺の仕事の一つになっているので、別に疑問にも思っていなかったが、その時はいつもよりも荷物が多い気はした。


 そして俺は荷物を持って、館のある林を出て街道を進む。約二十分ほど歩くと首都シルガルトの入口に付く。シルガルトの街は周囲を外壁に囲まれいて、入るには外壁の検問所を抜ける必要がある。俺の場合はマダラ師に頂いた通行書があるし、検問所勤めの役人全員に顔を覚えられている(こういう時、オッドアイという珍しい特徴は一目で覚えられて便利である。)ので通行書をかざすだけで、殆ど顔パスで通過できる。

 そして、街中央にある王城近くにあるマダラ師の個人工房へと向かった。


 マダラ師の工房に着いたのは昼前。いつもならばこの時間はマダラ師は城内の宮廷工房に居るので、弟子で留守番役のトクマさんに渡して終わりなのだが、その日はマダラ師本人が工房にいたので、直接荷物を渡した。

 マダラ師は荷物にあった小箱を見付けると、楽しそうにほほ笑んで、工房の隔離実験室に持っていった。そして隔離実験室内にて大きめの頑丈な金属製の箱に小箱を入れると、厳重にロック。

 そして、俺を連れて隣の制御室に入ると、制御盤のスイッチを押した。直後。

「ズドムッ!」

 すさまじい音と振動が制御室を揺らした。

 ……なんというか、俺は爆弾の運搬役をやらされていたのである。そのあと、マダラ師に連れられて隔離実験室の惨状を見た時は絶句したものである。

 小箱を入れていた金属製の箱は原型をとどめておらず、破片となって実験室の壁に深々と突き刺さっていたのだ。その光景を見てマダラ師は何を思ったのか爆笑したのだ。

「はっはっはっはっ!こりゃまた腕が上がったなぁ。」

「いやいやいや、そういう話じゃないでしょう。片棒担がされた俺が言うのもなんですけど、これってマダラ師暗殺未遂って事じゃないですか!」

 俺に変な事を吹き込んだ意趣返しとしては強烈過ぎた。

 広められたくないことを言われたからって、さすがにやり過ぎだろう。

 その後「緋色の破壊者スカーレット・デストロイヤー」の呼び名についてゲロったことを話して謝罪したのだが、それすら笑って済ませ、ミリィの爆弾もただのコミュニケーションだと言い切ったのだ。

 多分…おそらくであるが、ミリィはどんな物を送ってもマダラ師がしっかり対処して笑い話にしてくれると信頼しているのであろう。ある意味、甘えているのだ。

 そしてマダラ師も妹弟子のミリィを信頼し、仕事の依頼をしている。そんな深い相互信頼が見えた出来事だった。

 なお、帰りにマダラ師から頂いたケーキをミリィが食べたところ、二日ほど味覚異常を起こして涙目になったのは、マダラ師からの些細な仕返しに違いない。

 なんか茶以外の食べ物は、みんな泥を喰っているみたいだって言ってたな…もしかしたら人肉だったらおいしく食べられたかも?


 錬金術師同士のコミュニケーション、ちょっと怖い。

今回は日常の一幕…のはずが、どうしてこうなった感がぬぐえません。

爆弾 VS 薬物、どっちがより危険でしょう?

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