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第3話 測定しよう

 魔動歩兵(ホムンクルス)に転生して一週間。

 その間、俺はミリィの館に籠ってこの世界の常識を学んでいた。

 文化レベルは前世と比べて、劣ってる所、進んでいる所色々あり過ぎて単純に比較はできない。

 例えば、錬金術。

 前世では、化学と名前を変えて発展していったが、こちらでは魔法技術と機械工学が混じって発展。俺みたいな人造人間(ホムンクルス)すら作れるほどになった。

 また、電子工学という概念が存在せず、代わりに魔法工学というものが存在している。このあたりは電気が発見され普及する前に、魔素(マナ)が発見され普及した事が原因っぽい。なので、前世において電子工学で行われていた事が、ほとんど魔術制御に置き換わったような感じである。まあ、魔法技術事体は単純に電子工学的なだけでなく物理学的な要素も含んでいるので単純な置き換わりではないが。

 あとは機械工学。

 この分野においては前世より劣っている。人の欠点を機械技術より魔法技術で補ってきたという歴史があるためだ。とは言え、全く進歩してない訳ではなく、蒸気機関といった物は実用されているレベルなのである。


 その他気付いたことと言えば言葉。気にせずミリィと会話したり本を読んだりしていたが、どうも俺の認識ではこちらの共用語を母国語という感じで使っていたようだ。元々、この身体の言語野は共用語を母国語という形で設定されていたそうで、それで言葉に困ることはないようだ。ただ前世の文字は記憶から欠落している部分もあり、そのため前世の名前を表音文字でしか書けないという事態にもなっているが。


 大体、この一週間で理解できたのはこんなところである。


 * * *


「今日は体力測定を行うわ。」

 朝食の時、いつもの赤いジャージ姿でミリィは宣言した。

 正面に座る俺…あ、裸白衣から黒ジャージの上下にレベルアップしました…は、唐突な申し出にちょっと面食らう。

「体力測定って二日くらい前にもやってるだろ?」

 俺はコップに入った水を飲みながら返した。

 実はこのコップ一杯の水が俺の一日分の食事。基本的に俺は周囲の魔素(マナ)を自動的に吸収しているので食事は必要ないのだ。効率はいいが楽しみが減って泣ける。

「あれは通常モードでの測定よ。今日は戦闘モードでの測定ね。」

 また新しい機能が出てきたぞ。補助頭脳(サブ)くん解説頼む。

<<解説。戦闘モードとは出力リミッターを解除した状態。通常モードの約十倍の力を発揮可能。>>

 つまり、いままでリミッターがかかっている状態だったと?

<<肯定。魔動歩兵(ホムンクルス)はもともと戦闘用で高出力。日常で人と接する場合、相手に危害が及ばないよう常人程度の力しかでないように制限。>>

 理解した。今回はリミッターなしでの測定ということか。

「わかった。後で地下実験室に行けばいいのか?」

「そうね。測定は地下三階の隔離実験室で行うけど、その前に測定器とかを持っていかないとね。」

「了解。」

 しかし約十倍の力か…隔離実験室というのも含めて、なんか嫌な予感がするぞ。


 * * *


 結果を先に述べると測定できなかった。

 戦闘モードになることができなかったのだ。物理的なスイッチ一つで切り替わるのであれば『スイッチ・オン!ワン・ツー・スリー!』で変身…とまでは行かずとも戦闘モードになることができたのだろうが、ソフトウェア・スイッチだから俺自身が俺の中のスイッチの存在を自覚し、切り替える事が必要ということだ。

 よって、まずは戦闘モードに切り替える修行が必要となった。

 梅花の型で出来るかな?


 * * *


 修行することに一週間。何とかモード切替できるようになった。

 途中、魔素(マナ)が全身から吹き出してスーパーヤサイ人みたいになったりしたけどな。ちゃーらー。ちゃっちゃ…いや、これ以上は止めておこう。変に歌うと異世界(ここ)まであいつら(ジャなんとか)が現れかねない。甲高い声やグァーグァーいうような声で喋るとちがう奴ら(ディなんとか)がやってきそうだけどな。

 冗談はさておき。

 モード切替といっても実際は大した違いがあるわけではない。とはいってもそれは外見上の話。中身の魔素(マナ)循環系は文字通り切り替わる。

 普段は魔素(マナ)を体に循環させるポンプ…要は心臓なのだが、これが脈動して循環させているが戦闘モードに切り替わると第二の心臓が起動。こっちは所謂シリンダー式のポンプと同じ仕組みで魔素(マナ)を大量に全身に送るようになる。そして大量の魔素(マナ)が送り込まれた人工筋肉はリミッターを解除され普段以上の力を発揮する。

 戦闘モードへの切り替えは、そういう仕組みで行われるわけだ。


 そして再度検査開始。

「まずは、館の周囲を全力で回ってくれるかな。」

 ミリィの指示に従い、俺は館の周囲を駆けた。…とは言っても約十倍のパワーと聞いては最初っから全力で行くのは怖いので、軽く流す感じで駆けた。それでもかなりの高速走行になったが。

 そして一周してミリィの前に戻ると、彼女は嬉しそうにしていた。

「うん。設計通りのタイムね。」

 なんか喜んでいるが、ちょっと考える。指示は「全力」。そして俺は指示通りでなく「軽く」流した。

 ……ちょっと背筋に悪寒。だが一応、報告しておく。

「あの…全力じゃなかったんだけど。」

「…え?」

 聞いたミリィはちょっと固まる。…いやちょっとどころでない固まり方である。

「ミリィ?」

 返事なし。

「おい、ミリィ?」

「え、あ・あぁ。次は全力でお願い。」

 彼女は何故かやや青ざめた表情でいった。なんとなくさっきの悪寒がぶり返す気がしたが、再度走る。今度は全力で。

 走るというより飛ぶ感じで館を一周。俺が起こした風圧で土埃が舞い、周囲が何も見えなくなったが、ゴールでタイムを計っていたミリィは茫然としていた。

「………………つ…次は、垂直跳びイってみよーっ!」

 計測器から視線をそらしながら、異様に明るくミリィはいった。なんというか現実逃避しているような気がしないでもないんだが。


 それで垂直跳びの計測だ。

 やり方は、ロープの巻かれたドラムっぽい計測器から出ているヒモを腰に括り付けジャンプする。それだけの簡単な仕事だ。ロープの出た長さ=飛び上がった高さ…という仕組みだ。

「うんじゃ、まず半分程度の力でやるな。」

「えぇ。お願い。」

 準備を終えてヒモの長さ調整をすると、俺は半分くらいの力でジャンプ。

 二階建ての館の屋根を越えたあたりで停止…下へまいりまーす。……着地!

 館の屋根を見上げ目測するが、大体八メートルかそこらかな。計測器を覗き込んでいたミリィは数値を手元の用紙に書き込んでいるが、なんか震えているような気がしないでもない。

「…じ…じゃあ、次はぜ、全力でオ願いするわ。」

 発音も震えているしどもってもいる。

「そんなに怖いならやめときゃいいのに。」

「それでも、全力は知っておかないと問題あるでしょう?」

 まあ確かに。知らずに全力出して惨事を引き起こしちゃ話にならんからな。

 じゃあ、次は全力でいこうか。

 足元に力を蓄え…ジャンプ!

 一瞬で館の屋根を越え、最も高い樹の上を超え広い世界へ。

 今まで館から出た事がなかったので、外の世界というものを知らなかった。だがやはりこの世界も広い。遠くには田園が広がる一角があり、林を抜けて遠くへ続く街道と農村と思われる集落も見える。それで、反対を見ると割と近くに石造りの外壁に囲まれた街のようなものが見えた。

 これは後で、このあたりの地理も勉強しといたほうがいいな。

 そんな事を考えていると、俺の身体が重力に捕えられ、ゆっくりと下にむかって落ち始めた。はーい、下にまいりまーす。


 問題は着地…と思ったけど、実際にはまったく問題なかった。大地に大穴あける覚悟もしていたが、足のクッションで衝撃は吸収しきったようだ。ミリィの心の衝撃は吸収してくれなかったけどな。

 横を見ると計測器を覗き込んでいるミリィが固まっていた。良く見れば計測器から俺の腰に繋がっているヒモが切れていた。ジャンプするときの勢いに耐えられなかったらしい。

…まぁ、計測失敗としておくのが無難でしょう。


 しばらく固まっていたミリィはゆらりと立ち上がると、俺に笑顔を向けて異様に明るくいった。

「じゃあ、次は実験室ね!」

 …なんか精神的にヤバそうな表情なんだけどー?


 * * *


 場所は変わって、地下二階の実験室。

「じゃあ、これ握ってくれる?」

 ミリィは棚から握力計を取り出し、俺に差し出した。

 俺は受け取り、計測準備を整える。

「一気に全力だしていい?なんかあっても被害なさそうだし。」

「えぇ!いいわよ!」

 なんか妙に声が明るいし、笑顔だ。……けど目つきがかなり怖い。

 まぁいいや。さっさと片付けよう。

 俺は全力で握力計を握った。


 …へにゃり…


 なんだろう、この手の中の柔らかい感触。

 …………。

 …おれ、あくりょくけいをぜんりょくでにぎっただけだよ…ナ?

 …………。

 …ナンカ、ミタクナイナ…。

 …………。

「じゃ、次の計測いこうか。」

「そうね!そうしましょう!」

 よし、ミリィも賛成したし次に行こう。

 俺は原形を失ったナニかを廃棄物入れに放り込み、ミリィの後に付いていった。


 * * *


 次の計測はボール投げである。

 地下三階の隔離実験室に移動すると、マトとなる砂袋を壁際に置き、その反対側の壁間際に立つ。向かって右側の壁際には計測装置が置いてあり、俺の投げたボールの速度などの情報を採取するのだ。

 ミリィは実験室の隣の制御室でここの様子を観察している。

「こっちはいつでもいいぞー。」

 と俺が言うと、計測器脇に置かれた箱から、

『こっちも準備できたから、いつ始めてもいいわよ。』

 と、歪んだミリィの声が返ってきた。


 さて、測定開始っと。

 一球目は軽く投げる。

 通常モードの時の全力と同じくらいの速度でボールは砂袋に当たり、何事もなく床に転がり落ちた。

 二球目は五割くらいの力で投げる。

 ボールが先ほどよりも重い音を発てて砂袋に食い込んだ。よく見ると砂袋は裂けて、中の砂がこぼれ出ていた。

 砂袋を新しい物に変えて、三球目は全力で投げた。


 * * *


 ここはミリィの書斎。

 彼女はデスクに突っ伏してブツブツブツブツ呟き続けている。

 そして俺。埃まみれになりながらソファーで脱力中。

 ……先ほど起こったことをちょっと思い出してみる。


 全力で投げる俺。

 音速超えて飛ぶボール。

 穴の開く砂袋。

 爆散する壁。

 埃で視界が無くなる。

 視界回復。そこは爆発事故現場。


 さすが軍事兵器。生身で大砲並みの破壊力が出せるとはな。

 はっはっはっはっはっ………

<<推定。一般的魔動歩兵(ホムンクルス)の約二倍の出力。>>

 …一般的なのはあそこまでの破壊力はないのかぁ…。

 そーいや、俺の身体は特別仕様とかって言っていたな。その所為か。

<<否定。設計上、身体能力は一般的魔動歩兵(ホムンクルス)と同等。>>

 ……またバグかよ。

 チラリとミリィを見る。まだ突っ伏してブツブツブツ言ってる…っていうか時々「クケケケケ…」と狂気じみた笑い声が混じってる。こっちもバグってるっぽいな。

 今後、どうなるんだろう…これ以上、自分のこの身体の事は知りたくねーって気がしてきたわ。


 ……風呂入ってこよ………。


 余談。

 地下の隔離実験室の修繕に、約半月かかるとか。

 かなり豪快にやっちゃったもんなぁ~。はぁ…。

ようやくチートらしい力が出てきました。

…が、これで済ますつもりはないです。


しかし、今まで仕込んだ小ネタの元ネタにどれだけ気付かれたか、気になります。

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