第1話 確認しよう
コツン。コツン。
なにか固い物を叩く音がして、俺は目を覚ました。
目を開けると目の前に、白衣をまとった女性がガラス越しに俺の顔を覗き込んでいた。
長い黒髪を後ろで束ねメガネをかけた凛々しい雰囲気の女性だ。年のころは二十代後半?女性は化けるから迂闊な事は言えないが、美女の部類に入るタイプなのは確かではある。
誰だ?
<<回答。錬金術師ミリアエル・ゲオルク、十七才。作成者。>>
……なんか一部、欺瞞情報が紛れ込んでなかったか?
それはともかく何となく思い出してきた。
何をどうしたかは不明だが、補助頭脳を取り付けた新しい肉体を俺は得たらしい。
覗き込んでいた彼女は、俺が起きたのを確認するとカプセルの脇にある制御盤らしき物の前に移動すると、スイッチの一つを押した。とたん俺の身体につながれていたらしいケーブルがはずれ、足元の方から溶液が排出されはじめた。
カプセルが開放された時、俺はまだ身体にうまく力が入らず、片膝をついてうずくまる様な体勢になっていた。なんか「デデン・デン・デデン デデン・デン・デデン」と某映画のテーマが流れてくるようなポーズだな…などと思っていると、彼女は俺の前にやってきた。
「立ちなさい。」
命令されたから…という訳でもないが、俺はゆっくりと立ち上がり、軽く身体をストレッチする。
「…え?…あれ?」
そんな俺の様子に、彼女はちょっと驚いたような表情を見せていた。なんというか予想外の行動をしている事に驚いているみたいな?
まぁ彼女に聞きたいことも沢山あるが、まずは自分自身を確認する。
最初、身体の反応がよくなかったがストレッチで筋肉が解れたのか、今は以前よりも身体を軽く感じる。
右手を見てみる。ほどほどに引き締まった若々しくも白い腕。昔の火傷の痕とかまったくない他人の腕のようだ。
左手を見てみる。こちらも右手同様白い腕だ。小学生の時に工作で大怪我した痕もない。
ここに至り、ようやく肉体が新しくなったと自覚できた訳だ。
そして胴体を見下ろし股間…まで視線を落として固まる俺。
手を見た時に十代くらいに若返った肉体だと予想しており、股間のアレも若々しいナニになっていると予想していたのだが、見事にその予想は裏切られた。
…というか、予想斜め裏返った?
ここに雄々しい息子がそそり立っていたり、シャイで頭を隠し縮こまったお子様がいたなら、まだ納得したであろうが…不在なのである。
ウチの「玉」知りませんか?
あわてて触れてみるが女性形状でもない。というか人形の股間のようにまったくもって何もないのだ。なんというかほとんど人間?。
「…(ぴーー)がない……」
声変わり前の中性的な声が俺の口からこぼれた。
新しい身体での第一声がコレというのも酷いが、あるのが当然という感覚からするとかなりショックである。バランスも悪いし。
「(ぴーー)がないのは当然でしょ!魔動歩兵に必要ないんだから!」
しょげている俺に、彼女は顔を赤くして怒鳴った。
「ってなんで無い事にショック受けてるのよ!それ以前にどうしてこんな反応するの!?まるで自我があるみたいじゃない!」
…今、聞き捨てならないセリフが聞こえたぞ。
「質問いいか?」
「何よ!」
「どういうことだ?」
「私が知りたいわよ!」
どうやら彼女も混乱しているらしい。
とりあえず話し合って確認しあった方がいいようだ。
* * *
場所は移って、彼女の書斎…らしき場所。
窓を背にするように置かれたデスク。そして左右の壁には本棚と本棚に収まりきらず床に平積みにされた大量の本。あとは部屋中央にテーブルとソファーの応接セット。
そのソファーに座り、俺は手鏡で自分の顔を確認していた。
年のころは十代前半…十三・四歳くらいの甘めの美形。瞳は右が赤、左が青のオッドアイで髪は栗色…。うん、見事にショタな容姿だ。おまけに漫画とかの主人公にちょうど良さげなアクセント付き…というか中二デザイン?
そういや補助頭脳ってどこに付いているのだろう?
<<解説。補助頭脳は主頭脳と並べて直結。頭蓋骨内に収納。>>
外付けとばかり思っていたが内蔵形式だったのか。イメージとしては右脳・左脳、または大脳・小脳って感じで一体化していると思っておこう。
「はぁ…これは大失敗なんだろうか?大成功なんだろうか?」
彼女、ミリアエルはデスクに付き、頭を抱えながら大きくため息を漏らし言った。
まぁ予想外の物(つまり俺)が出来上がればため息も漏れるだろう。
まず今の俺は「魔動歩兵」というものらしい。錬金術で作られる人造人間だということだ。さらに言えば特別仕様の実験体との事。
『あー。俺、魔動歩兵になっちゃったよー。(棒読み)』
って言いたい気分だ。
何が特別かはとりあえず置いといて、まず一般的な魔動歩兵について言うと、大気中の魔素を取り込み稼働する、人より身体能力の高い兵士として開発された物との事。てっとり早く言えば軍用兵器の一つだな。それで兵器が命令に従わず勝手に動いたら問題大ありなのだから、命令を理解し状況判断できる知性はあっても感情や自発的な自我はない。
だが特別仕様な俺は、設計時のバグだか作成時の事故だかで自我を得てしまった…という事らしい。まあミリアエルはどういうミスすれば自我なんて持つんだと頭を抱えてしまったが。
説明受けた俺は俺で、かなり頭を抱えたくなったものであるが。
今までスルーしてきていたが、俺の知っている世界観では「魔素」とか「魔動歩兵」とか「錬金術」とか、そういった概念は実用レベルでは存在しないものである。
さて…己の記憶と今の状況から察するに、どうやら俺は病死したあと異世界の魔動歩兵として転生したということらしい。
さぁ、声も高らかに突っ込みましょう。
ラノベかよっ!!
…で、彼女のボヤきにつながるが、異世界の魂を内包した魔動歩兵を作り出したのは成功か失敗か?
まー彼女には悪いが失敗以外の何物でもないだろう。
ひとしきり頭を抱え込んで悶えて気が済んだのか、ミリアエルは身体を起こすと身を乗り出すように俺に問い掛けてきた。
「それであなた、転生したらしいってどういうこと?」
「簡単に言えば、俺にはこの姿の前の姿で生きていた記憶がある。まぁ最後は病で死んだけどな。それで気付けばこの有様って事だ。」
「ふーん…じゃあ覚えてる事、教えてくれない?」
聞かれりゃ秘密にする意味もないからな。前世の事を…この世界とは違う世界の常識も含めて説明すれば、彼女は興味深々に聞いてくれる。
一通り話終わると、彼女はイスに深くもたれ掛った。
「魔素のない世界ねぇ。多重世界論って眉唾な論文読んだことあったけど、他世界…そっちじゃ異世界っていうんだっけ?それがある事が証明されちゃったわ~。」
なんか嬉しそうにイスを揺らしながら彼女は言った。
彼女の口ぶりからすると、異世界の存在はもとの世界同様フィクション扱いらしい。
それはさておき。
「なぁ…俺、何時まで裸でいればいいんだ?」
* * *
服、着ました。
裸白衣。
(ぴーー)付いてないから恥ずかしくないもん!(自棄)
……………誰得よ………。




