第11話 冒険に行こう
ミリィの書斎で、俺とミリィは旅装束のまま脱力していた。なんというかとんでもない事やらかして放心しちゃっている状態だ。
「ねぇ。アレ…なにやったの?」
デスクで突っ伏したままミリィが問う。
あまり答えたくないが俺は答える。
「使える手を組み合わせて使った。」
「…既存の魔法じゃないよね…アレ…。」
あの場で起こった事を思い出しながら言っているのだろう。かなり衝撃的な状況だったからな…アレ。
「一つ一つは既存のはずだが…コンボを別魔法と見るなら…判らないな。」
「人に出来る?」
やった事を思い出してみる。複数の魔法を最適なタイミングで連続発動。
「…理論的には可能…だが、二系統の魔法を同時に扱えるレベルでないと一人では無理だし、タイミングの問題で実施はほとんど無理だな。俺でも同じ事を確実にできる自信ないし。まあ最大の問題は後始末だけどな。」
「…そう。ひとまずは安心ね…」
突っ伏したままミリィは言った。
まぁ、新型魔法とか言って普及したらホント、ヤバいよな…ドラゴン消滅できる魔法なんて。
* * *
それはこの一週間の旅の中で起こった事だ。
俺とミリィの二人は、錬金術で必要な素材を採取するために、国境近くにある「漆黒の樹海」と呼ばれる樹海にやってきた。
テントを設置して拠点を作り、採取はミリィがメインで行い、俺は手伝い兼護衛という立ち位置で作業を進めた。
最初の数日は特に何事もなく…とはいっても樹海なので野生の獣が襲ってくることも何度かあったが、俺がサクッと撃退(兼食料確保)してたので問題なく過ぎた。
問題は五日目の事だ。
その日は朝から樹海の中が騒がしい雰囲気が漂っていた。何となく森の生き物たちが怯えているような感じだった。
不穏な感じなので予定を切り上げ、帰り支度を始めようとしていた矢先、俺達のキャンプに薄汚れた冒険者が三人飛び込んできた。話を聞くと、樹海の探索途中で間違ってドラゴンの巣に入り込んでしまったらしい。
ドラゴンとは俺の前世で言われていた、空想上の幻獣そのままの野獣…いや魔獣で、一個中隊の軍で立ち向かってようやく互角…という危険な生き物だ。
そんなバケモノの巣に入り込んで、冒険者たちはなんかやらかしてドラゴンを怒らせたらしく森の中を追われてたのだそうだ。
森の不穏な雰囲気の原因は判明した。…が超厄介事が飛び込んできたわけである。
さてどうした物か…などと考える時間も無く、話が終わるのを待っていたかのように獣の雄叫びが近くで響いた。
見れば、体長は十メートル近くはありそうな真っ赤な鱗を持つドラゴンがこちらを見下ろしていた。
その姿を見た時、俺は「…もうだめかもしんない…」と本気で思いましたよ。うん。
だが俺の役目としてはミリィは守らなければならない。そんな義務感もあり、ミリィと冒険者たちを逃がし、俺はドラゴンに立ち向かった。
ぶっちゃけ勝てるなんてこれっぽっちも思ってたなったけど、戦闘モードならミリィたちが逃げる時間稼ぎくらい出来るとは思ってた。
最初は剣でヒット&ウェイを繰り返すも、鱗が固くてダメージが通らない。突き刺せば鱗は貫けそうだが、後を考えるとその手は出来ない。ドラゴンは腕やしっぽを振り回し攻撃してくるが、戦闘モードの俺から見れば避けられない速度ではない。ただ当たったら即死しそうなパワーはあったが。
そんな感じで半ば千日手っぽくなってきたところで、ドラゴンは手を変えてきた。翼を広げ空に舞い上がったのだ。
なんかジャンボジェット機がホバリングしてるみたいな威圧感を感じたな…アレは。
そんなのんきな事を考える間はその時にはなく。それで俺は剣で立ち向かうことが出来なくなった。だがドラゴンはといえば…頭を振り上げ大きく息を吸ったかと思うと口から火の球を吐き出してきた。いわゆるファイヤ・ブレス攻撃ってヤツだ。
死ぬ気で逃げたわ。方向的にはミリィ達が逃げた方向とは別にはしたのは良かったが、地形を考えるべきであった。気付けば逃げ場のない谷間の中に追い込まれていたのだ。
…なに、このドラゴン…策士?
そう思ってると、逃げ場を塞ぐように谷間の入口に降り立ったドラゴンが、ゆっくりとこっちに近づいてきた。追い詰められた俺は咄嗟に思いついた事を実行すべく剣を捨てた。そして、右手で火の魔法準備。左手で防御結界をはる準備をした。
思いつきは単純に、最大威力の火魔法、熱核爆発の魔法を複数同時に発動するという事。左手は対ブレス用の保険だ。倒せずとも隙は作れる…そう思った時期がありました。
まずは座標と威力・発動時間を指定。魔法が同時に効果を出すように発動時間のタイマーを付ける。
覚悟を決めて、指を三回鳴らし魔法を実施。時間差付きなので直ぐには発動しない。
だが運悪く、発動前にドラゴンがブレス…しかも火球でなく吹き出すタイプを出してきた。俺はすぐに左手の指をならし空間断絶結界を張る。返しの意味も含めてドラゴンを包み込む形で。
ここで、俺も想像しないことが起こったのだ。
まずドラゴンの吐いた炎がそのまま結界内を充満したのだ。ただ、この時点ではドラゴン事体は大したダメージもなく、びっくりした程度のことだったと思う。ただ問題は結界内で俺の仕掛けた熱核爆発の魔法が三つ同時発動したことだ。
普通ならば、発動後強烈な勢いで炎は衝撃と共に拡散し消える。普通ならば。
だが今回は対象が空間断絶結界に包まれているのだ。拡散しようがない。
結果どうなるか?
直径十メートルはある輝く球ができました。
どうやらドラゴンのブレスと俺の魔法の相乗効果+密閉空間という偶然が重なった所為で、結界内は衝撃波のミキサーとなり、ドラゴンの身体は細かく粉砕されると同時に炎に焼かれた。だがそれだけではなく発生したエネルギーで原子構造が分解…ようは核分裂が発生。違う物質になった時に発生したエネルギーは密閉空間の中に留まり続け、次の核分裂を引き起こすエネルギーとなって…と、エネルギーの逃げ場が無くなった空間断絶結界内は中の物質がすべてエネルギーとなった状態なのである。
E=mc^2。数トンもある質量がすべてエネルギーに変わったらどうなるか?
…これ…結界解除したらこの付近どころか国一つ物理的に消えるわ…
俺は結界の魔法の重ね掛けを行い、輝く球体を圧縮。なんとか飴玉大にまで小さくした。この思わず出来上がってしまった危険物…命名。ドラゴン・オーブ…をどうするか?
俺の魔素転換炉で魔素に変換できないだろうか?そう考え、無茶は承知で俺はそれを飲み込んだ。
腹の中で球体からこぼれるエネルギーを魔素転換炉が魔素に変換していく。
ここで発覚。魔素転換炉は物質だけでなくエネルギーも魔素に変換できたのである。何たるチート!
さすがに変換効率の関係でオーブ自体の変換できないが、結界を通じてにじみ出る量なら問題なく変換できた。
これで俺は、当面…どころか数十年?魔素のない場所でも食事なしで活動できるようになったわけだ。
てーれってれー!
クルスは核反応炉を取り込んで進化した!
………超頭痛…。
俺はどっかの最終人型決戦兵器かってーの!
…あながち間違ってない気もするが…。
そんな苦労をしてへたり込んでいる所に、俺を心配して追いかけてきたミリィが現れた。どこから見ていたのか信じられないものをみたような顔をして。
その後、冒険者たちははぐれてどこ行ったか知らないが、俺達はそのまま採取は中断して、館に戻ってきたのだ。
* * *
以上が旅の間にやらかした事である。
「…ドラゴン消滅?…ドラゴン・オーブ生成?…とんでもない物作ったわ…」
突っ伏してつぶやくミリィ。
気持ちわからんでもないぞ。俺もここまでチートとは思ってなかったし、さらに進化して魔素切れなしで強力な魔法を使いたい放題だ。
ほんとシャレにならんわ。
魔王でも目指すか?
でも、思いつきでやったはいいが、考えてみるとよく空間遮断された結界の中で外部から魔法を発動できたな…解説できる?
<<解説。今回は熱核爆発に時限式を組み込み、指定座標に種を配置。その後、空間断絶結界で遮断しても時限式は実行されているため、指定時間後に術式が発動。>>
つまりは、導火線に火をつけた爆弾を放り込んでドアを閉じた…って事か。ならば時限式を組み合わせれば大抵の魔法で簡単に実行できる?
<<部分肯定。実行事体は可能。しかし、時限式の組み込みと種の存在維持が困難。>>
…なんか理解が難しくなってきた。
大雑把にいうと、発動のための種…先の例えでいうなら爆弾…を存在させ続けることが難しいってことか。あと時限式の組み込みも?なんかさっくりやってたみたいだが。
<<回答。補助頭脳の演算能力は人を凌駕。>>
…いまドヤ顔していた雰囲気がしたぞ。
まあどの道、現時点では俺しか出来ない術ってのは間違いなさそうだな。
* * *
後日談。
ホムホムと二人で買い出しに町に行った時、妙な噂を聞いた。
ドラゴンを喰う黒衣の魔術士が「漆黒の樹海」に現れたとか。その正体は魔人で力を蓄えるべく樹海にあらわれたのだ…とか。
…あの冒険者たちにも見られてたのか…………はぁ……
まぁ、俺とバレてないだけいいか。
ピンチがピンチらしくないのは自分の力量不足…書き手としての修行が足りません。




