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第10話 妹を助けよう その3 クルス視点

 今回の反省点。

 冷静さは忘れずに。

 まあ、あいつら皆殺しにしなかっただけ、まだ冷静さは残っていたというべきかな。…というか、戦闘モードでバーサークしてたらあいつら全員死すら生ぬるい【見せられないよ♪】という状態になってたのは間違いないんだから。はははは…。

 じゃあ、何があったか思い出してみよう。


 * * *


 最初、トクマさんがホムホムが誘拐されたと伝えた時、俺は自分の部屋に飛び込み革鎧にマントという旅装束に着替え、素振り用の刃のない剣を腰に下げた。

 無論、ホムホムを助け出すためだ。

 飛び出そうとした段階でミリィに情報不足を指摘され、ちょっとクールダウンしたが。

 その後、マダラ師の居る宮廷工房にミリィと行ったのだが、こっちはなんかすごいことになっていた。人の出入りが激しい状態だ。

 普通こういう場合は、衛兵の詰所が本部になるのだろうが、今回はホムホムが魔動従僕(ホームメイド)…しかも、唯一の自我持ちという特殊なタイプであることが要因となり、工房長のミヒャルド・パルケス師(結構な歳の爺様なんだけど)が陣頭指揮を執る事になった為、工房が対策本部になったそうだ。

 対策本部となった工房でマダラ師を見つけると、師から旧市街へ向かったという情報をいただき、俺は早速旧市街へと向かった。


 旧市街とは、首都シルガルトの北側に隣接する廃棄された市街地で、スラム街と化している場所だ。聞いた話では、一応建物を壊して再開発する計画事体はあるが、悪化した治安が原因で着工できていないそうだ。

 新市街地が出来てそっちに移ってから旧市街地を解体…という手順の移転で手間取ったのだろう。その間に犯罪者とかが逃げ込んで治安悪化。簡単に一掃できなくなったと見るべきか。まあ歴史的経緯はその程度としておいてホムホム探索だ。


 * * *

(Replay)


 さて、旧市街に来たはいいがこれからどうやって探すか…だな。

 俺は手近な二階建ての建物の屋根に上がり、街を見まわしながら思った。聞いた話では拉致監禁に使えそうな建物はそんなに無さそうなイメージだったが、実際はしっかりした作りの建物が多く、その中でも拉致監禁に使える建物は遠目に見てもかなりある。これは一つ一つ見て回ってもはずればっかり引きそうで困るし、一人では人海戦術で総当たりって訳にもいかない。まあ、衛兵たちは今回とは無関係な犯罪者の反撃がネックとなって出来ないようだが。

 今なら戦闘モードで行動しても大丈夫だとは思うが、それで行動力を底上げして探しても雀の涙程度しか増強できない状態だし…。


 ふとひらめいた。

 俺の持つ魔術式で探索はできないだろうか?

<<回答。空属性の術式で探知する事は可能。>>

 …ニヤリ。

 まずはどういう事が出来るかチャレンジだ。

 左手中指の空属性術式展開。種別は探知。範囲百メートル。発動。


 パチン。


 ぬぉあっ!?

 いきなり膨大な情報が頭に入り込んで混乱した。

 …なによこの情報量。指定範囲内の分子組成情報まで流れ込んで来たぞ。確かに探索できそうだが情報整理まではされねーのかよ…。

 ちょっと考える。この魔法は単純な「探索」ではなく、指定された空間の所有する情報を「読み取る」魔法なんじゃないのか?そうだとしたら、これは探索よりは解析に向いた魔法だ。だけど、この術式で対象をフィルタリングすれば十分探索にも使えるということだ。

 しかし今の情報量、俺は最初の勢いで流し見しただけだったが、あれ全部受け止めてたら脳みそ爆発しても変じゃないぞ。

 じゃあ、どうフィルタリングするか。生体のみ…いや、人造人間(ホムンクルス)に生体反応があるかわからんから、もっと違う…そうだ!魔素庫が体内にあるから、その反応を探せばいい。

 まずは実験。種別は探知。範囲百メートル。対象は魔素(マナ)の塊。あと出力形式は俺を中心とした相対位置…と。発動。


 パチン。


 ……今度は把握できる情報量だ。

 まず、中心の俺…の魔素庫の反応すげー。でもって周囲にはポツポツと小さな魔素(マナ)の塊がある。俺の反応と比較して恐ろしく小さい。多分一般的な道具に仕込まれた魔晶石とかの反応だろう。あとは塊としては大きい…人くらいの大きさではあるが濃度が低い…ああ。人間自身も魔素(マナ)の塊と識別してるのか。

 ふむふむ。慣れてくると便利便利。ただ問題はリアルタイムじゃなく、発動した瞬間の状態のみというのが、観察行為には向かん術式だ。

 少なくとも、このあたり半径百メートルには、居ないってことだな。

 次は特定以上の濃度と大きさを持つ魔素(マナ)のみを対象に探索だな。

 そして俺は、場所を変えながら探索を開始した。


 * * *


 旧市街が思いのほか広かった事もあり、結局見つけ出すのに夜中までかかった。

 何度か対象を変えて探索した結果、ホムホムらしい魔素(マナ)の塊は今見下ろしている建物の地下にあり、その周囲には小さい人っぽい反応…多分誘拐された子供たち…が四個ほど?一塊に集まっているから複数なのは判るが正確な数は不明。それで地上の方は屋内に六人。入口付近に見張りが二人。一個分隊程度の人数なら戦闘モードで飛び込めば楽勝な数だ。

 とりあえず、ホムホムは見つかったし隔離されている状態というのが判れば少しは安心できる。

 中の状況を一方的に把握し、さらにこちらの状態を掴まれていないという状態は奇襲にはもってこいだ。…とはいえ侵入する入口は、窓が完全に塞がれているので正面の出入り口しかない。そうなると真正面から攻め込むしかないか。

 俺は開き直ると、戦闘モードに移行して建物の前に飛び降りた。

 俺の足音に気付いたのか、中から男が様子見に出てきた。

 薄汚れた革鎧を付け、小柄で貧素。まるでネズミみたいな男…呼称ネズミ男は俺の姿を見ると、俺に歩み寄ってきた。

「おい小僧。こんな所でなにをっ!?」

 甲高い声で話しかけてきたが、俺はすべて言わせる前に、腰の剣を抜き腹に叩きつけた。無論、刃引きされているので斬れないが、衝撃でネズミ男は吹っ飛び気を失った。

 その物音に気付いたのか、スキンヘッドの大男…呼称禿男が入口から出てこようとした。それに気付いた俺は一足で入口に飛び込む。無論禿頭に体当たりをかまして。禿頭は体当たりの衝撃で胃の内容物を吐きながら気を失っていた。これで見張りの二人は沈黙した。

 それを瞬時に確認してから部屋の中を見る。

 金属製胸当てを付けた熊みたいな毛深い大男。ローブを着た針金みたいな細身のメガネ男。革鎧の小柄な小太り男。同じく革鎧の同じ顔をした優男二人。そして一人だけ貴族のような煌びやかな恰好をした厳ついおっさん。以上六人いた。

「なんだおまっ!?」

 毛深い大男が戦斧を持って立ち上がろうとしたところへ、左手に持っていた拳大の石を投げる。石は彼の胸当てを砕き吹き飛ばした。

 石を投げると同時に俺は、ジャンプ。さらに天井を蹴ってメガネ男に急接近。剣で殴りつける。多分魔術士と推測したがのしてしまえば違っても問題ない。メガネ男は壁に叩きつけられメガネなし男になった。

 残り四人。さすがにそろそろ迎撃態勢が整うだろう…と予想した通り、優男二人が左右から。そして小太り男が正面から剣で斬りかかってきた。

 どの剣を受けても、躱してもほかの剣が斬り付ける絶妙のタイミングだ。普通なら。

 俺は身体をひねりマントを広げた。その行動に小太り男が怯んだのを見た瞬間、彼に肘から当たりに行く。戦闘モードのおかげで左右の優男からは突然消えたように見えただろう。二人の剣が床を叩いた音が俺の背後で響く。そして小太りの男は、俺の肘をのど元に食い込ませ、白目を向いていた。意識が飛んでる事は確認せず、俺は上に飛び上がり、再び天井を蹴り優男の一人に斬りかかった。

 二人は俺の動きに追いつけず、見失った俺を探している。そんな奴らの一人は剣でぶっ叩き、もう一人はそのまま蹴り飛ばした。

 これで戦闘力を持つ奴らの意識は全部刈り取った。

 残るは何が起こったか理解できずに茫然と俺を見ている厳ついおっさんのみ。

「…お…おま…おま…お前は…」

 震えながら俺を指差し狼狽えてるおっさん。なんかすげぇイラつく。

「お前は一体なおゴッ!?」

 足元の石を蹴り上げ、おっさんにぶち当てる。面白いように顎にヒットしておっさんも気絶した。

 これで全滅だ。ちょっと怒りに任せて無茶した気もするが、再度周囲を索敵。地下のホムホム達の気配以外、動く人の気配なし。

 とりあえずはあたりを見回すと袋とロープがあったので、のびてる奴らを逃げないように袋詰めにした…が、なんか腹立たしさが収まらない。

 もうひと手間かけて加工したあと、地下室へと向かった。

 隠し扉を開け、階段を下りると金属製の扉が待ち構えていた。まずは中の確認だ。ドアを叩き声を掛ける。

「ホムホム!居るか?」

「はい!ここです兄様!」

 ホムホムの返事だ。よし。

「大丈夫か?何もされてないか?」

「はい、大丈夫です。他にも小さい子も居ます。」

「…わかった。ドアから離れてくれ。」

「もう、私たちは部屋の奥側に居ます。」

「了解!今、出してやるからな。」

 ドアノブを回すが予想通り鍵がかけてある。しかも魔術併用型だ。

 いったん上に戻り、使えそうな鉄棒を手にすると、再びドアの前に戻る。そして鉄棒をノブの下、カギのあたりに戦闘モードの全力で突き刺した。

 棒はすんなり貫通しドアの留め金の機構は完全に破壊され、問題なく扉は開いた。

 部屋の中に入ると、ホムホムとそれより年下と思われる子供たちが六人いた。

「助けに来たぞ。」

 そういうとホムホムが俺に抱き着いてきた。


(Replay End)

 * * *


 その後は、子供たちを城の宮廷工房まで連れて行き事情を説明。子供たちは親に連絡が行ってすぐに迎えが来た。犯人どもは隠れ家に放置状態だったので、衛兵たちが捕縛しに急行。発見された犯人たちはそのまま連れてこられ城の牢にぶち込まれた。

 なお捕縛に行った衛兵たちから、やりすぎだと呆れたように言われたが、そうだろうか?裸にひん剥いて縛り上げた上、頭に「罪」と書いた袋を被せて、梁から逆さに吊るしていただけなんだが?

 そして、俺はと言えば…いやぁ怒られた怒られた。ミリィはすでに諦めたというか、心配もしていなかったようだが、マダラ師は笑顔のまま怒りのオーラを発し、くどくどくどくどと小一時間説教。トクマさんはトクマさんで「僕が不甲斐ないばかりに…だからと言って君がこんな危険な事をしていい理由にもならない。」と泣きながら謝りつつ叱るという、とても器用な事をしてくれた。

 そして他の大人たちと言えば、無茶しやがって、お前はまだ子供なんだから大人を頼れ!…と叱るのはいいが、なんか衛兵たちの視線がまた畏怖混じりというかそういう色が濃くなってしまったのは困った。

 多分、もう稽古の相手なんてしてくれねーだろうなぁ。


 それから今回の件で俺とホムホムはお子様たちに大層気に入られてしまった。

 ちびっ子達からは「クルにーちゃん」「ホムねーちゃん」と慕われるし、サリアスに至っては「兄貴と呼ばせてくれ!」と言いだす始末。…まぁ呼び方は拘らんから好きに呼ばせるが舎弟気分でいらん事しなければいいんだが、少し心配である…。


 なんにせよ、ホムホムと子供たちを無事助け出せた事は満足だ。


 * * *


 後日談。

 数日後、マダラ師が館にやってきて犯人たちに付いて教えてくれた。

 概要だけ説明すると、没落した貴族(あの厳つい顔したおっさんだな。)が金に困ってなんか手は無いか…と考えた結果、子供を奴隷として売ろう。という結論に至り実行したらしい。思いつくだけでも馬鹿だが、実行するとは何たる大馬鹿者か………いかん、ムカついてきた。まあ、極刑は間違いないそうだが。

 ネズミ男。禿。熊男。優男二人。小太り男の六人は金で雇われた傭兵で、俺に反撃する間も無くのされた所為で自信喪失。傭兵は辞めてまっとうに生きることにすると言っていたとか。まあ実行するにしても受刑後の話だけどな。彼らは金で雇われていた追従犯ということで懲役刑となったらしい。

 あとローブを着てたメガネ男は、どうやら人身売買組織のメンバーらしく、人には言えないような方法で情報を搾り取られている最中らしい。…怖っ!


 そして今回の被害者、ホムホムといえば…なんか前以上に俺ベッタリな感じになってしまった。仕事中は兎も角何もすることが無くなると、ニコニコ笑いながら俺の傍にいるのだ。……まあいいか…と思ってしまう俺も甘いよな。

 ミリィはミリィでそんな俺達を見ると、なぜかやさぐれるけど。

罪袋の刑は、お子様には【見せられないよ♪】という縛り方にしてもよかったかな?

余談ですが、傭兵のねずみ男の声が甲高いのは、傭兵たちを「夢の国(ディなんとか)」ネタで固めようとした名残です。

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