第9話 妹を助けよう その2 ホムホム視点
城下町の市場で買い物を済ませ、私はマダラ様の工房へを訪ねました。ミリアエル様から頼まれた書状を届けるためです。
工房の扉をノックすると、マダラ様のお弟子であるトクマ様が出迎えてくれました。
「やあ。ホムホムちゃん、いらっしゃい。」
「トクマ様、こんにちわ。ミリアエル様からマダラ様宛ての書状をお届けに上がりました。」
私がポーチから書状を取り出して、トクマ様に手渡しました。
トクマ様は書状の裏を確認すると、困ったように言いました。
「これは返事を結構急ぐ物だねぇ。じゃあ、一緒にお城に行こうか。」
「はい!」
私はお城へ行くのは初めての事ですので、喜んで答えました。
* * *
ミリアエル様や兄様に話は聞いていましたが、お城はとても大きい建物で、周囲を囲む城壁の中にはお城のほか、様々な建物があります。そしてその敷地の一角にある建物の一つが宮廷工房で、私はそこでトクマ様と書状の返事を待っていました。
その間、工房に勤める皆様は私を珍しい物を見るような目で見ていました。やはり私が人造人間だからでしょうか。
「失敗しちゃったかな…ごめんね?」
私が悲しそうな顔をしていた所為でしょうか。トクマ様は私なんかに謝罪の言葉を掛けてくれました。そんな心遣いが嬉しくて、思わず顔がほころんでしまいました。
「いえ。私は大丈夫です。」
私がそう答えると、周囲ではなんかどよめきが起こりました。なんでしょう?
そうしていると、マダラ様が現れました。
「ホムホム。お使いご苦労様。これをミリアエルに渡してくれるかな。」
「はい。確かに承りました。」
マダラ様は私に書状を差し出してきましたので、受け取りポーチに収めました。
これでここでのお役目は終了です。後は館に戻るだけです。
「ところで、ミリアエル達は良くしてくれているかい?」
「はい。ミリアエル様も兄様もとても良くしてくれています。ミリアエル様は私の料理を大変お気に召して下さいましたし、兄様も優しく接してくれます。」
「そうか。それは良かった。」
マダラ様は私の答えに満足したのか、笑顔で私の頭を撫でてくれました。私はマダラ様に作られましたので、マダラ様は父と言っても過言ではありません。
私が人でしたら、ミリアエル様が母、マダラ様が父ということになるでしょう。
以前、そんな事をミリアエル様に話しましたら、ものすごく嫌そうな顔をなされたことを思い出しました。
その後しばらくマダラ様と近況を話し、トクマ様と宮廷工房を後にしました。
「それじゃあ、近道教えるよ。」
帰り道、トクマ様が街の出口への近道へと案内してくれました。そこはいつも使う大通りから少し外れた建物と建物の隙間を抜けるような裏道でした。
城下町はよく来ますが、このような裏道は初めてでした。
「ここを抜けると、検問所の前に…」
トクマ様がそう言った瞬間でした。突然脇から黒づくめの人たちが数人現れたかと思うと、一人はトクマ様を棍棒のような物で殴りつけました。そして残りの人は私に向かってくるといきなり袋を被せて持ち上げました。
私は慌てて暴れますが、その人たちは気にもしないように袋ごと私を縛ってしまいました。そして担ぎあげるとそのまま走り出したようでした。
「だれかー! たすけてー!」
大声を出してみましたが、外に聞こえている様子はありませんし、耳を澄ましても、外の音が全く聞こえません。
…思うに、この私に被せられた袋には、音を遮る何かがあるのでしょう。そうなると大声を出しても無駄という事です。暴れても非力な私の力では殆ど意味がありません。
…ホント、どうしましょう…。
* * *
小一時間ほど運ばれたでしょうか。私は固い床に落とされました。
被せられていた袋をはぎ取られると、そこはどこかの地下室のようでした。そして見回すと、私と同じ年頃の子供たちが…六人いました。
背後でガチャリと音がしたので振り返ると、見るからに頑丈そうな金属扉がしまり、カギを掛けられるところでした。
見上げれば、壁面に明かり採りの窓があり、薄暗いですが周囲を見とるだけの明るさはあります。
「なあ、大丈夫か?」
子供たちの中で、一番の年長と思われる男の子が私に話しかけてきました。十歳くらいでしょうか。
「はい。大丈夫です。ここはどこでしょうか?」
「わかんね。俺もあいつらに袋詰めにされてさ。」
彼の話を聞くと、皆さん街でいきなり袋詰めにされて運ばれてきたそうです。そして食事を持ってくる男が言うには、私たちは奴隷商人に売られるために誘拐されたそうです。
多分、もうしばらくしたら別のところに売られてしまうのでしょう。私は逃げ出せないかドアと調べたり明り取りの窓に届かないかと色々試しましたが、どこにも逃げ出せそうなところはありませんでした。
私はできることが無いことが判ると、ほかの子供たちと同じように座りました。
子供たちは最初に話しかけてきた男の子のほかは、八歳前後の男の子が一人、同じくらいの女の子が四人の計六人でした。みんな膝を抱えてしくしく泣いています。
「…ママに逢いたい…」
一人の女の子がそうつぶやくとしくしく泣き始めました。それにつられるように、ほかの子も泣き始めます。最初話しかけてきた男の子だけは、年長であるという思いがあるのでしょうか。泣かずに他の子達をどう扱ったらいいか困っているようでした。
もう兄様に逢う事はできないのでしょうか?
私も女の子につられてそう思うと、悲しくなってきます。ですがそれと同時にきっと兄様が助けに来てくれる。そんな予感もしました。
「大丈夫です。きっと兄様が助けに来てくれます。」
「ほんと?」
泣いていた小さな女の子が泣きはらした顔をあげて私を見ました。
私は、持っていたポーチからハンカチを取り出して、彼女の涙を拭いてあげました。
「はい。私の兄様は優秀なんです。お城の衛兵さんにも負けません。」
「そんなに強いのか?」
「はい!ですから、皆様もがんばりましょう。」
私の言葉に皆さんの表情は少し明るくなりました。
そして余裕が出来たのでしょう。最初に話しかけてきた男の子が言いました。
「俺はサリアス。あんた、なんていうんだ?」
「私はホムホムといいます。皆様は?」
女の子はキャスリン、ユーシャ、カラシャ、タニア。
男の子はトォムと名乗りました。
それからしばらくすると熊みたい大きな人と禿頭の人が現れ、水とパンを置いていきました。
私にパンは必要ないので、ちぎって六つに分けると、ほかの子達にあげました。その後、日が暮れて寒くなってきたので、みんな体を寄せ合って暖を取りつつ励ましあいました。
* * *
それは真夜中の事でした。
突然、上のほうでドン!ドタン!バタン!と激しい音が鳴り始めました。
私も子供たちも、何が起こったかわからず震えながら身を寄せ合いました。
「隅っこに行こう。」
サリアスくんが子供たちを部屋の隅に集めると、一番外側に陣取りました。多分子供たちを守るつもりなのでしょう。私はそんなサリアスくんも守るように、一番外側で皆を抱きしめました。皆様と違って私は死にません。壊れるだけです。
それからどれだけ時間が経ったでしょうか。
ドアを叩く音がしました。
「ホムホム!居るか?」
兄様!
兄様です。兄様が助けに来てくれました。
「はい!ここです兄様!」
「大丈夫か?何もされてないか?」
「はい、大丈夫です。他にも小さい子も居ます。」
「…わかった。ドアから離れてくれ。」
「もう、私たちは部屋の奥側に居ます。」
「了解!今、出してやるからな。」
兄様がそういって、しばらく待つとドアのカギ穴のあたりから突然、鉄棒が突き抜けてきました。その鉄棒が引っ込むとドアがゆっくりと開きました。
「助けに来たぞ。」
そういって、兄様は私たちに微笑みかけました。
被害者視点でした。次は殴り込み視点の予定です。




