第8話 妹を助けよう その1 ミリアエル視点
私には今、家族がいます。
一人はクルス。
私が作り出した魔動歩兵であり、私の弟子見習いでもあります。
彼は元々、攻撃魔法も使う魔動歩兵の実験体として作ったのですが、想定外な事に他世界の人の魂が入って人間っぽくなってしまいました。他にも多数、予想外の事になっていましたが、そういう事は昔からなので気にするのは諦めました。
そして彼の解析結果をベースにもう一体、人造人間を設計しました。
それがもう一人の家族、魔動従僕ホムホムです。
意識を司る主頭脳と知識を司る補助頭脳に機能を別けることで主頭脳に感情を司る部位を設定。自我を持つ初めての人造人間です。さすがに私が作ると予想外のバグが入りそうなので、作成はマダラ兄にお願いしましたが…。
その二人が今の私の大切な家族です。
* * *
ここは私の書斎。私はマダラ兄に頼まれた錬金術の術式についての欠点と改良点を調べていました。そしてクルスもいます。彼は今、私の手伝いではなく自分の身体…人造人間について調べていました。身体の仕組みは把握しておきたいようです。
「ホムホム、来ないわね…」
気が付けばお茶の時間になっているのですが、いつも持ってきてくれる彼女が来ません。私の言葉に、クルスは読んでいた本をパタンと閉じて立ち上がりました。
「まだ買い物から戻ってないんだろ。俺が入れてくるよ。」
そう言って彼は書斎を出ていきました。
彼は普段あまり喋りませんが、愛想は良く働き者です。今も私が頼まなくてもお茶を入れに行ったり。また精神的にも落ち着いていて、魔動歩兵の力を得ても悪用しようとする気配もありません。これなら事実を国王に報告しても特例として認めて貰えるかも。
そんな事を考えていると、彼はワゴンを押して戻ってきました。そしてポットから愛用のティーカップにお茶を注ぐと、私のデスクに置きました。
「ありがとう。」
「どういたしまして。」
私が礼を言うと、彼は笑顔を向けてくれます。
…自分でデザインしていうのも変ですが、この笑顔にいつもときめいてしまいます。設計通りではあり得ない事なので、この時ばかりは彼に自我が出来て良かったと思います。
「しかしホムホムのやつ、随分と遅いな。ミリィは何か頼んだのか?」
書斎の柱に掛けてある時計を見ながら、彼は私に聞いてきました。大切な妹ですから心配なんですね。私は午前中に彼女にお願いした事を彼に告げます。
「ええ。マダラのところに手紙を届けるようには頼んだわね。」
「ならマダラ師のところでお茶でもしてるんだろ。師もホムホム可愛がってるし。」
彼女は可愛らしいし、仕方ないですわね。
「…あのロリコンめ……」
…あ、思わず本音の方が口に…。
そういえば、なんでマダラ兄は「マダラ師」で、私は「ミリィ」と呼び捨てなんでしょう?制作者なのに敬われていない気がして仕方ありません。ミリィの愛称事体は本名の「ミリアエル」が発音し辛いからって言ってましたが。
そんな事を考えている時でした。
玄関の方で慌ただしい物音がしました。
クルスはすぐさま書斎を飛び出して玄関に向かいます。私も急いで向かうのですが、どうしても遅れてしまいます。
「トクマさん。どうしたんですか?」
玄関に付くと、走ってきたのか息も途切れ途切れになっているマダラ兄の弟子、トクマ君が膝をついて座り込み、彼にクルスが手を差し出している所でした。
「なにがあったの?」
私も現れたところで、話せるほどになったようで、途切れ途切れにトクマ君は言いました。
「はぁ…はぁ…ホムホムちゃんが……誘拐され…た……」
「…なんだって…?どういう事ですか!トクマさん!」
クルスは怖い顔でトクマ君に詰め寄りました。
「ち…近道を…案内してた…ところ……小路からいきなり…僕も殴られて………」
そこまで聞いたクルスは、立ち上がると私に一言「あと、お願い。」とだけ言って自室に向かいました。
私はトクマ君を立ち上がらせると、応接室に連れて行きのソファーに寝かせました。
「僕がいけないんです。近道に…と裏通りを案内したから、あんな事に…。」
トクマ君はそんな事を苦しそうに言いました。
そういえば最近、子供の誘拐事件が起こっているとかマダラ兄に聞いていたはずなのに、私は何を考えていたのでしょう。
「いえ、私もホムホムを一人で使いに出したわけだし、あなただけのせいじゃないわ。」
私は彼に、冷めてしまったお茶を差し出した。
「冷めてて悪いけど、これ飲んで。」
「あ、ありがとうございます。」
トクマ君は起き上がると、お茶を一気に飲み干した。
「それで、すぐにここに来たの?」
私は疑問に思ってた事を聞きました。
「い、いえ。まずはマダラ師匠に伝えて、そのあとにこちらに。」
「そう。ならば少しは安心ね。」
マダラ兄なら、それなりの対処をしてくれているでしょうし、地位を利用して城の衛兵も使うでしょう。そう思っていると、応接室のドアが開きクルスが現れました。革鎧にマント、腰に剣という装束です。彼好みの黒一色です。
「ミリィ。出かけてくる。」
いつになく怖い表情で私にそう告げました。
「ちょ、ちょっとどこに行く気?」
「ホムホムを助けにいってくる。」
一見、落ち着いているような声色でしたが、どこか冷静ではないようです。このままでは何をするか判りません。
「クルス。どこに居るのかわかるの?」
私の言葉に暫く彼は黙っていましたが、一つ大きくため息を吐きました。
「街中駆け回るつもりだったが、無茶だよな…。」
やはり賢いです。落ち着けばちゃんと如何すればいいか考えられる人です。私はマダラ兄の所に行こうと思っていたので、その事を伝えようとすると。
「じゃあ、マダラ師の所に行ってくる。」
そういって、出て行こうとしました。私は慌てて彼を呼び止め言いました。
「私も行くわ。」
* * *
マダラ兄を訪ねて城の宮廷工房に出向くと、中は慌ただしく人が出入りしていました。
「マダラ。これはどうしたの?」
私がマダラ兄に声を掛けると、私たちに気付いて駆け寄ってきた。
「ミリアエル。クルスくん。謝罪して済むことじゃないが、すまない。」
「それはいいの。なんなのこの騒ぎは?」
マダラ兄が城の人員を使うにしても人数が多過ぎます。その事を暗に聞くと彼は答えてくれました。
「ホムホムは特殊だからね。その事を含めてミヒャルド工房長経由で依頼したら、かなり大事になったんだ。他国に持っていかれたら…てね。」
確かに、現状一体しかない(クルスは別ですが)自我を持つ人造人間です。そういう意味では重要な存在ですから、この対応は判ります。
でも、私の家族だから…というのでないのが少し残念とは思いました。
「それに最近起こっている誘拐事件にも繋がっているみたいなんだ。それで捜索途中に犯人への手がかりも見つかったこともあって、衛兵が総動員されているんだよ。」
そういう事でしたか。
「それで、見つかった手がかりってなんですか?」
私の隣にいたクルスが、マダラ兄に問い掛けました。そのクルスのいかにもこれから殴り込みに行きます…という雰囲気に飲まれた感じで、彼はその言葉を漏らしてしまいました。
「あぁ。北にある旧市街に運び込まれる所を目撃されたと…。」
「ありがとう。」
クルスは頭を下げ礼をいうと、止める間もなく飛び出していきました。
なんだか何時になく落ち着きがないというか、それだけホムホムが心配という事なんでしょう。でも、こういう時こそ落ち着いて欲しいとは思うのですが。
それはともかく。
「なんで喋るのよ。」
「あ…う、うん。すまん…」
私がマダラ兄を睨み付けると、彼は申し訳なさそうに謝りました。マダラ兄は錬金術師としてはとても優秀ですが、こういうところが抜けていて困ります。
しかし飛び出したクルスはどうなるでしょうか…。
クルスは魔動歩兵ですから戦いは問題ないでしょう。でも、ホムホムもクルスも…心配です。
どうか無事でいて欲しいです…。
今回の話は視点を替えて、全3話になる予定です。




