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バレンタインって確か友達にチョコ配るイベントだったよね。好きな人って何だっけ。うっ、頭が……

作者: 矢御あやせ

「私がモテないのはお前に言われんでもわかっとる」、バレンタイン番外編です。

活動報告に書いたものと、その追加エピソードです。

――2013年2月某日



「どうするー?」

「何よ、いきなり」


私がぽつんと言った言葉に知子さんが真っ先に食らいつく。

っていうか何でちょっと喧嘩腰なの?


「何がって言わなくても大体わかるっしょ。2月だよ? 日本人ならカレンダー見て察しなよ。常識じゃん」


恋頃がハッと何かひらめいたような顔をした。


「……いわし……柊」

「それ過ぎたし!!!!!」 


っていうか豆と恵方巻きじゃなくてそっち浮かぶの!? 

恋頃ちゃんって見かけによらず古風だね!!!


「ペヤング……ぶちこむ」

「うそぉ!!! 柊もぉ!?!?!?」


っていうか恋頃なら柊も素知らぬ顔で喰ってそうだ。

「痛い……当たる……」とか言いながらもモキュモキュさせてると思う。


ミハルはハッとして手を合わせる。


「そういえば来週は建国記念日だね。ね、あきなちゃん。休みならアニメイト行かない?」

「お前はもうっ! お前はもうっっっ!」


お前はもうっ、お前はもうっっっ!!!!

知子さんは日本の風習に不慣れなバカ2人を心から憐れそうに眺めると、はぁ、と溜息をついた。


「あー、あれね。わかったわ。……バレンタインなら準備してあるわよ」

「さっすが知子さん!!」


私はヨッ、いい女! と合いの手を入れる。

客が一斉に私達を注目したので、知子さんが勢い良く私の頭をひっぱたいた。

私の頭に乗ったリボンはピュンッと床に吹っ飛んだ。


「今年は伊勢丹で買ったのわ。一人頭大体1500円ね」


伊勢丹とか流石知子さん。

他の2人は行った事ないだろ、伊勢丹とか。

ミハルに至っては伊勢丹の事「いせたん」って萌えキャラだと思ってるに違いない。


「いせたんって萌えキャラですか?」


っていうかマジで思ってたんだ!!!!


「萌えキャラだよ。いっつもチェックのスカート履いてるの」


私は適当な情報をミハルに刷り込んだ所で、知子さんの言葉の妙にふと気が付く。


「あ……価格が飛び抜けてる人とか別に居ないんだ……」

「やーね、居るわよ」


さも当たり前のように言うもんだから、私は度肝を抜かれた。


「なんだとぉ!! おい貴様ら、聞いたか!? 知子さんが本命チョコを差し上げるらしいぞ!!! あの知子さんが!!!!」

「えー誰ですかぁ? 私達に秘密だなんてずるいですよぉー」


ミハル、早ぇ。速攻で食いつきやがった。


「……ペヤング……何個分……」


ペヤングは通貨じゃないよ。

どうして一度円をペヤング換算しなきゃいけないんだよ!!


「さあ、南波選手。相手に対するお気持ちをお伝え下さい」


私は椅子から立ち上がり、おしぼりをマイク代わりにして知子さんの前に向ける。


「いつもお世話になってます。以上」

「どういうこったねん」


やけにサッパリしてる。

知子さんって恋愛にドライなのかな?


「上司にはいいチョコをあげるに決まってるでしょ? ほんとバカね、アンタ」


私達は一斉に沈黙した。

あ、そうか、上司。うん、なるほどね。

おばちゃんだらけのフリーターと「皆友達」がモットーのNPO法人勤務と何で身銭稼いでるかわかんない人にはフツーに無縁だわ。

あはは、ごめん。


「ペヤ……ング……」


恋頃、ブリーチみたいにならなくていいから。

「なん……だと……」みたいに言わなくていいから。


「私は職場用に手作りのクッキーを作るよ」


ミハルは手作りか、やりおるな。


こやつは腐女子の活動の一環でメレンゲだか何だかを使ったフルカラーのキャラクタークッキーを作ったりするので、職場に配るくらい造作ないだろう。


「私職場も友達もアルフォートにするー」


アルフォート最高じゃん。「お菓子のまちおか」「で買うと安いし。

山に生えてるアレと里に生えてるアレのどっちが好き? とかバカみたいなケンカも起きないし。

まあ山が好きなヤツは、東京なんて都会にいないでさっさと帰れ、山へ。とは思うけど。


「……配らない……」


恋頃さんは配るとなんか大変そうだもんね、うん。

わかるよ。


「あら、随分別れるわねぇ」


知子さんがきょとんとする。さも自分が多数派で常識人なのではないか、と言いたげな顔である。

皆が伊勢丹で買う訳がない。

世の中には伊勢丹を「いせたん」って萌えキャラだと思ってるヤツも居る。


「こう考えてみると結構個人の好みが絡んでくるなぁ。っていうかあんたら本命チョコとか渡さない訳?」


あんたら恋とかしてないの?


「ないわよ」

「ないですね」

「……ペヤング」


3人の声が重なる。

恋頃はそろそろ帰ってペヤング食べれば?


「さみしいねぇ~。ほんとあんたらとつるんでると人生の無常感みたいなのを忘れさせてくれるわ」


こいつらとつるんだら吉田兼好ですら「あー、書くネタねぇや。こいつら変わりばえしねーし無常感とかねーわ。草も枯れちまうわ」と嘆くんじゃないだろうか。


「余計なお世話よ」


ピシャリと知子さんが顔色を変えずに言った。


「と、いう事でだ。私からひとつ、実験を提案する」


私はテーブルのつまみを避けて空けたスペースに肘を載せ、碇ゲンドウのポーズを取る。


「どうせまたくだらない事言い始めるんでしょ」


知子さんの視線が刺さるが、存在しないグラサンを上げる仕草で乗り切る事にした。


「我々のあげるチョコレートの中でどれが一番ウケるか、競争してみんかね?」


私はニヤリ、と笑う。


「へ? どういう事? あきなちゃん」


ミハルは心から不思議そうに首をかしげる。


「私ら全員で同じ男の人にチョコをあげるんだよ。それで、誰が一番その人にウケるか競うワケ」

「そんな男の人どこに居るのよ」


知子さんのツッコミはもっともである。

だが、今回はちゃーんとアテがあるのだ。


「チッチッチ、居るんだなぁ、それが……」


私はチラッと振り返ってカウンターを見る。

そこに立つのは左手薬指の輝く一人の男性。


「なるほど……店長」


ミハルがおー、と感嘆の声を挙げた。


「あぁ。確かにあの人には日頃お世話になってるし、考えてみてもいいかもしれないわ」


知子さんもしげしげとカウンターでグラスを拭く彼の姿を窺い見る。


「…………」


恋頃はコックリと頷いた。っていうか寝ていた。


「じゃあ14日に店の前集合ね」

「ええ」

「うんっ」

「……すー」


あ、皆恋頃は起こさない方向なんだ……。

まあ恋頃は……寝かせておこう。


「じゃ、『本命チョコを想定』って事でひとつよろしく!」



――そして2月14日



「遅いなぁ、みんな」


寒い中待たせやがって。私が本物の彼氏だったらどうする気だよ。


「おまたせー」


最初に到着は知子さんだ。

彼女は本来時間に正確なタイプである。

きっと仕事が片付かなかったのだろう。


「遅いよー! 凍え死ぬところだったじゃん!!!! あーさぶさぶーー」


私は鼻をすすり、ガチガチと歯を鳴らしながら足踏みをする。


「ごめんなさいね、ちょっと仕事を任されちゃって」


知子さんはチラチラと腕にはめたブランドモノの時計を見て言った。


「でも待たせてるのがあきなだけでよかったわ」


ひどくない!?

責任を持ってその肌で私を温める事を要求する!!

この際女性特有のふっくら感が足りない事は大目に見よう。


「知子さんは何渡すの?」

「うふふ、もちろんこれよ」


知子さんは手に持っていた紙袋を私に見せつける。

金色に輝く例のロゴが眩しい。めちゃめちゃ眩しい。

私は怪しい老人御一行に印籠を見せられた雑魚キャラの如く深々と頭を下げた。


「うわー、出たよゴディバ」

「本命と言えばこれじゃない。それに、店長とはプライベートなお付き合いが無いんだから手作りは危険だわ。王道こそ覇道、愛され続けてきたブランドは最強よ」


知子さんは胸を張って得意気に語る。


「すげぇ……すげぇよ流石だよ……時給1500円超えはやっぱり違ぇわ……」

「あきなちゃーん、知子さーん!」


と、遠くから聞き慣れた声。

開かれたダウンコートの下でニット越しにぶるんぶるんと揺れる2つのおっぱいが近づいてくる。

背後で知子さんの舌打ちが聞こえた。


「お、ミハルー。って何その箱!!!」

「大きいわねぇ」


知子さん、何が大きいの?

ほら、言ってみてよ。何が大きいの?

さんはいっ


「えへへ、チョコレート、手作りしちゃいました」


ミハルが照れ笑いを浮かべる。


「随分頑張ったわね。ケーキか何か?」


知子さんはしげしげと箱を観察していた。

自分があまり料理が得意じゃないもんだから、悔しいのかもしれない。


「ホールのチョコケーキですっ。昨日徹夜で作りました! やっぱりバレンタインは手作りが一番ですから。ナンバーワンよりオンリーワンです」


出たよ世界に一つだけの花理論。


「うわー、知子さんの主張を真っ向から否定に掛かったよ……」


すげぇなミハル。

こうして見ると知子さんとミハルは正反対だ。


特技も、趣味も、正確も、身長も、そして……胸も。


「そういうアンタは何持ってきたのよ」

「ん? メルティキッス」


私が貰って一番嬉しいやつ。


「ふざけてんの!?」


知子さん、ゴミを見るような目で見ないで……。


「えー、だって高いけど美味しいし」


ひょい、とカバンからそれを取り出す。

あ、箱が潰れてる。

ま、いっか。


「しかも包装しないで箱のままバッグに入れてるの!?」


ミハルが信じられない、と言わんばかりに裏返った声を上げる。


「あーあ、箱の角が潰れちゃってるわぁ」


知子さんがさっきから私の事を憐れむような目で見ている。

え、なんで?

ちょっと、え、なんで?


「お、おかしいなぁ。知子さんと同じ高級菓子路線だったんだけどおかしいなぁ……お菓子だけにおかしいなぁ」


二人は黙りこんで私から目を背けた。


「早く恋頃ちゃん、来ないかしらー」


と、知子さんが高そうな手袋をはめた手をすり合わせる。


「寒いですー」


と、ミハルが肩を縮める。


「まあオチ担当は恋頃ちゃんだから大丈夫だって」


と、言った矢先に恋頃がうつらうつらと眠たそうに頭を垂らしていた。


「うわ、恋頃ちゃん居たの!?」


私が今は懐かしのシェーのポーズを取ると、恋頃がコックリと今にも眠ってしまいそうな目で頷く。


「恋頃ちゃんは何持ってきたのー?」


ミハルが聞くと、恋頃は手を出した。

まさか十円チョコとか言い出すんじゃないだろうな。


いや、まっさかー。


「……これ」

「現金!?!?」


知子さんが声を張り上げた。

まさか!!!!!!!!!!!!!!!!


「うわー……すごいの来たよ。しかも……ひーふーみーよ……325円」


私は寒さなんて忘れて顎をガクガクとさせた。


「責めて包んだ方がいいんじゃない?」


と、ミハルが言う。


「違うわよ、絶対違うわよ」


そうだね、知子さん。私も同意見だよ。


「レシートある……さっきの……ファミマ……」

「買えよ!!! ファミマ行ったなら買えよ!!!!!」 


思わず私は叫んでいた。


「……お釣り」

「店長へのバレンタインは恵まれない子どもたちへの募金じゃないんだよ!!!!」


知子さんが私に目線を送る。そして首を横に振った。

いいの? いいんだね、知子さん。私、ゴールしてもいいんだね……!!


「と、とりあえず寒いし中に入りましょうか」


知子さんの合図で、私達の戦いの火蓋が切って落とされた。





階段を下って地下に潜り、店内に入る。まだ客が入っていない。きっと店長は暇してるに違いない。


「いらっしゃいませー。ってなんだ、お前らか」


早速店長のお出迎えだ。


「店長、ハッピーバレンタイン」


と、知子さんが言った。


今回のルールは、公平を期すために全員のチョコ……と、チョコを買えるものを、知子さんが代表して渡す事になっている。


「なんだ? やぶから棒に」


店長は生ごみでも片付けるような顔で私達の顔を見ていた。


「いつもお世話になってる皆の気持ちよ。どうぞ、受け取って」


知子さんは、持ち手のある紙袋とケーキの箱を店長に手渡し、メルティキッスと小銭をカウンターに置く。


「本当は受け取れないんだが……」

「いいんすよ、てんちょー。いつもお世話になってるんスから」


っていうか貰ってくれないと困る。決着が着かない。


「うわー、マジできもちわり。ホワイトデーは何もやらねーかんな」

「いいのいいの、ほら、早くチョコを見て!」

「いつものお礼ですので、どうぞ食べてください」


私とミハルが店長を急かす。

店長は怪訝そうな顔をしたまま、それぞれのプレゼントの品定めを始めた。


「それじゃ、この中でどれがいいか決めて頂戴」


ひと通り見終えた頃合いを見計らい、知子さんが言う。


店長は私達の意図がつかめたのか、ニッと笑ってカウンターに並んだそれぞれのチョコレート(と、そのほか)をどれにしようかなとポンポンと指さしていく。

っていうかあれ? 私があげたメルティキッス、全く指されない……あれ、なんで?


「これ」


と、店長が手に取ったのは、なんと


「うそぉ!!!」

「ええぇ!」

「そんなぁ」


恋頃の釣り銭だった。


「……」


当の恋頃はコックリコックリと立ったまま櫂を漕いでいる。


「なぬううううう!?」

「ちょ、ええええええ!?」

「ま、まさかああああ」


私達は動揺を隠すことができずにただただ悲鳴のような声を上げる事しかできなかった。


「俺、甘いもの苦手」


そう言って店長がプレゼントをひょひょいひょいと掻っ攫っていき、作業に戻っていく。


私達は一斉に沈黙し、店内には恋頃の寝息だけが虚しくこだましていた。


バレンタインチョコをあげるときは相手の好みを考えようね!



と……恐るべきことに、この話には続きがあるのだ。



「あ、今日は皆に配る分も作ってきたんです」


席に着くなり、ミハルが言う。


「えーマジでー? やったー!」


と、私は両手を上げて大喜び。

だってミハルのお菓子って美味しいし!


「まずはこれ、知子さんの分です」

「わー、似顔絵クッキー? かわいいわぁ」


知子さんがうっとりとした声を上げる。

ディフォルメされた知子さんの顔を描いた、アイシングとかいうやつを使ったフルカラーのクッキーだ。

っていうか美化ひどいだろ、これ。

どうせなら全身描いて差し上げれば良かったのに。


「恋頃ちゃんの分」

「……ありがとう」


恋頃は眠たげな目で言う。

彼女の顔は、例え似顔絵クッキーでもこの上なくかわいい。

美化とかそういうのは一切ない。

美化が武器のBL絵師相手に台頭に渡り合えてるなんて、恋頃さんマジパネェ。


「それでこれはあきなちゃん」

「やったー」


と、透明なフィルムに入ったクッキーを見る。

目玉がドロドロに溶け、口が恐ろしい形にゆがんでいる。

リボンは曲がっており、肌は赤黒い。

え、あれ? おかしいな。


私は目をしぱしぱさせ、クッキーをもう一度見る。


え、あれ、変わらない。


「あ、あの、ミハルさん……今日ハロウィンじゃないよ? お化けのクッキーなんていらないよ?」

「あ、ごめんね。あきなちゃんのだけ、失敗しちゃったんだ」


こいつぁイカしたジョークだぜ。


「またまたぁ」

「ごめんね」


軽い! 軽いよミハルさん!


「あら、いいじゃない。あきなによく似てるわ」


知子さんも冗談キツいよ!!

落ち込む私にミハルがそっと肩に手を添える。


「あきなちゃんにはこれもあげるね」

「わ、お魚のクッキーだ!」


お魚型の外堀の中に赤いジャムが塗られている。しかもたくさんある!


「一応鯉をイメージしたんだ。あきなちゃんは量がある方が嬉しいと思って」

「わああ、ありがとうミハルー! 赤い鯉ってカープって事でしょ? さっすが広島県民! よくわかってる!」


やっぱ心の友は違うわー。


「じゃあ次は私の番ね」


と、知子さん。


「わー、知子さん、センスがすっごくいいから期待しちゃいますー」

「やーね、ミハルったら。照れるじゃない」


知子さんはなんともおばさん臭く、手をひょいひょいとさせる。

確かにミハルの言うとおりだ。

知子さんはブランドに拘るから滅多に拝めないようなすんごい濃厚なチョコレートを買ってきているに違いない!!!!

これは期待するしかないっしょ!!


「これはミハルの分よ」



小さな紙袋に入ったのは、これまた高そうでオシャレな包装のされたチョコレート。

色は控えめで、青を貴重とした冷色系があしらわれている。

これって確か高島屋に入ってるブランドだよなぁ。

この間は伊勢丹だったし……すげぇな知子さん、新宿中の百貨店を踏破してるだろ、アンタ。


「わー、すごいかわいい包装ですねー」

「でしょー。ミハルは大人しいデザインの方が好きだと思って」


すげーな知子さん、店長の時はダメだったけど、データを持ってる相手には好みを完全に分析してやがる。


「次は恋頃ちゃんね」


恋頃は完全に目が覚めたようで、しっかりと両手で紙袋を受け取った。


「あ、ロイゼだ!」


私が声を上げる。


「ちょうど北海道物産展がやってたの。恋頃ちゃんはお仕事大変そうだから甘いの一杯食べて頂戴。疲れてる時にチョコはいいのよ」

「……うん」


恋頃はコクリと頷く。

っていうか薄々気付いてたんだけど、ミハルのやつと恋頃のやつって倍近く値段に差があるよね……。


え、これってどういうこと?

ねえ知子さん、どういうこと?


「はい、これはあきなの分」


と、知子さんが渡したのは。


「アルフォートじゃん!!!!!!!」


親しみすぎてるパッケージである。


「あんたはコレで十分でしょ。ちなみに近くのまちおかで買ったやつよ」

「店まで言うの!? っていうかこれ叩き売ってたやつじゃん!!!!!」


なんてこった!!!!

頼みの知子さんがアルフォートとか、私の食費の計算が狂ってしまうじゃないか!!!


「な、ななな、な……なんでこんなにも差が……」

「だってあきな、今日もろくなの用意してないんでしょ?」


おお、神よ!!!! 私が何をしたとういう!!!!

くっそこの女、こっちのテを読んでやがったな。


「ひどい、ひどいよ知子さん! あんまりだ! 無慈悲すぎる!!」

「じゃあ今日、何を持ってきたの?」

「これですけど」


知子さんに一枚の板チョコを渡す。


「ふーん」


と、その刹那、知子さんの眼光が鋭く光った。


「フンヌッ!!!!」


そして板チョコを振り上げ、私の頭で叩き割った。

よかった。ビニール包装のやつで本当に良かった。


「なんで板なのよ、板!!」

「べ、別に深い意味はないんだ! 誤解だ! 許してくれ!!!」


私は痛む頭を抑えながら、えーんとミハルに泣きつく。


「早急にそのアルフォートを返しなさい! アンタになんかチョコなんて一粒もあげないんだから!!!!」

「ま、まあ落ち着いてください、知子さん。あきなちゃんも、悪気がないんです。ちょっとしたいたずら心というか……」


ミハルが必死にフォローをする。

それを恋頃が無表情のまま黙って見つめていた。


「ミハル、ありがとう。これ、バレンタイン」


取り出したのは、近所の洋菓子店で買ったプリン(二個入り)。

豪速球で投げられたおしぼりが頬を掠めた。

知子さんだ。


「あーーーーきーーーーーーなぁーーーーーー!!!!」



と、白色の炎のようなオーラを纏った知子さんがどす低い声で私を呼んだ。

なんていうか、怖い、めちゃくちゃ怖い。


「すすっすすすすすっすすすすいましぇん!!!! たたた、他意はないんです!!!!」


私は誤魔化すために恋頃ちゃんの肩を叩いてプレゼントを渡す。

瞬間、恋頃ちゃんの顔がパァ、と花開く。


「……ペヤング!」

「いやー、やっぱ恋頃ちゃんはこれだよなぁって思ってさ! あはははは」


恋頃ちゃんはキラキラと輝いた目で大事そうにそれを手に取り、白いパッケージを見つめていた。


「安いわねー、恋頃ちゃんも。あきな、あんたは責めて特盛用意しなさいよ」


知子さんが呆れたように恋頃を見る。


「いやぁー。ごめんごめん。でさ、恋頃ちゃんはなにか持ってきたの?」

「あきな! そういうの聞くなんてはしたないわよ!」

「あきなちゃん、だめだよ、それは……」


「あ、ごめーん」と私は非難轟々の二人を軽く受け流す。


「……はい」


恋頃ちゃんがカバンから何かを取り出し、私達にポンポンとリズミカルに小袋を渡していく。


「これって……」

「まさか……」

「福豆じゃん!!!!!!!!!!!」



だから恋頃ちゃん、節分は過ぎたって!!!!!!



こうして私達のバレンタインは虚しく過ぎていったのだ。







「すいませーん、このメルティキッスって海外に送れます?」


翌日、私は郵便局の窓口に立っていた。


本命チョコは、やっぱりメルティキッスだ。




おわり

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― 新着の感想 ―
[良い点] 私は甘いものが好きなのでバレンタインに限らずコンビニ体制でチョコレートOKです← 恋頃ちゃん惜しいですね、微妙に頭の中が止まっているという [一言] 伊勢丹柄の服を着てる人はCOWCOW…
2014/02/15 11:45 退会済み
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