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風の精(スプライト)  作者: 花一匁
一章 風と学院
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風 Ⅱ

Ⅱ 街送り





旋風は少女の頬を少し掠めた。

ビクッと眼を瞑った少女は恐る恐る再び目を開けて先ほどの風魔法を使った少年をみる。


「……去れ」


「お願いします。私たちをサカルサの街まで護衛してください」


自分の声が震えていることに気づき、目の前の人物に対して恐怖を覚えるがそれでも逃げるようなことはしない。

ここに居続ければいずれ殺されるかもしれない。そうわかっていても彼の力があれば安全に街にたどり着けると思った。


『レイ様、私たちもサカルサに用があるので良いのでは?』


『行くとしたら一人の方が楽だ』


他の人間には聞き取れない様にして妖精と話し合う。

断ることは簡単だが、それに見合う対価があるならしてもいい。そう思った少年は少女に問いかける。


「君の護衛してこっちに何か利益はあるのか?」


「………お金はありません」


「文無しで街に行くつもり?」


「私はどうしても学院に行かなければならないのです。お願いします!」


質問に答えてはいないが、学院に行くと聞いて少年はピクリと眉を上げた

少し考えると再び少女に声をかける。


「学院って〈レイヴィス教養養成学院〉のことだよね」


「はい。あの…お願いできますか?」


「ん。条件がある」


「何ですか?」


「そこで寝ている奴は置いていけ」


そんな馬鹿げた条件に少女は一瞬何を言われたのかわからなくなった。

護衛の方を置いていく、つまり見捨てるということだ。そんな事出来るはずもない。


「何言ってるんですか!?あの人を見捨てていける訳ないじゃないですか!」


「安心しろ。安全は保証する。この森の近くで死人は出させない。……それとも、負傷者と頑張ってサカルサまでいくか?」


「………………分かりました。ですが、少し待ってください」


少女は護衛の人の側まで行くと懐から巾着を取り出して手に握らせた。


「すいません。見捨てた風になったせめてものお詫びです。護衛してくれた分も入ってます」


聞こえてはいないだろうが、とりあえず声に出して伝える。

少女は眼を瞑って一度深呼吸すると少年の方に振り向いた。


「では、行きましょう。お願いします」


「ん」


「あ、あの!」


少女は何かを思い出したように少年を呼んだ。

これから行こうというときにまだ何かあるのかとため息を吐きながら睨むように少女に向き直る。


「自己紹介、してませんでした。私はフィレ・ミューヘズです」


「レイ・ラ・アストレス」


簡単に名前だけの挨拶を済ませ、少女――フィレは護衛の人にもう一度顔を向けて訊いた。


「本当に、あの人は大丈夫ですか?」


「ん。森から離れるまでは平気」


レイは言いながらフィレを抱え上げ、お姫さま抱っこ状態にする。


「な、なな、何してるんですか!?」


『レ、レイ様、何を…!?』


「こっちの方が速い」


サカルサの街はすぐそこである。

一時間走れば簡単につく。レイが走れば、だが


「あ、あの!どうして、風魔法をこうも躊躇なく使えるのですか?」


「関係ない」


確かに誰がどんな魔法を使おうと他人が気にすることではないのだが、風魔法だけは別だった。

風魔法は人には見えない。そして、実態がないからイメージができない。故に扱うことができない。

光はそこに明かりがある。闇ならばそこに暗闇がある。とイメージすることはできるが風魔法は風自体の概念がないので扱える人間がいないのである

過去に風魔法を覚えようとしていた人もいるが、何故か誰一人も風魔法を使うことが出来なかった。

色々な国の国家魔法研究追究者――通称『魔研』の人たちは風魔法の魔道具ガジェットを造ろうと試みるもそもそもの風魔法を使い方がわからず、多くの国が風魔法習得のために金を費やしてきたが実績は何一つ得られなかった。

そんな国事情がある中で普通に風魔法を使いこなすレイを見てフィレは一つ提案してみた。


「どこかの国に仕えればそれなりの待遇が得られるのではないですか?」


その言葉にレイは足を止め、フィレの方に顔を向けると冷たい声で応える。


「あんな腐った頭の連中に仕える気はない。次は同じ様なことを口にするなよ」


「は、はい……」


睨むでもなく、怒るでもない無表情で冷たい声を発したレイの言葉はまるで凶器を突きつけられながら、同じことを言えば殺す、と言われているようだった。

再び走り出したレイの腕の中でフィレは小さく震える。


『レイ様、この子震えてます』


「寒い?」


「え?」


「震えてるから」


「いえ、大丈夫です」


レイは自分のせいだということに気づいてはいない。



一時間走り、やっと街が見えてきた。

それまでにフィレも震えが止まり、レイの腕の中で大人しくしていた。


「ここでいいよな?」


「はい。ありがとうございます!あのお礼は……」


「いらない。それに何もないみたいだし」


「えっと…身体なら、ありますが……」


顔を真っ赤にして自分の胸に手を当てる。

レイは別に特に興味はないからいらないと答えた。

ただそれだけなのにフィレはたちまち笑顔になり、レイに深々と頭を下げてフィレは街の方へと駆けていった。


『レイ様、私たちも参りましょう』


『ん。先ずは、情報からだな』

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