風 ⅩⅩⅠ
ⅩⅩⅠ 風と制御と覚悟
「――であるからして、魔道具はサポート系がいなくても武器に属性が備わっているということだ」
朝からずっとこの教員の講義を受けているミオは真剣に授業の内容を頭で反芻させて覚える
一方レイは講義に出ている人たちとその教員を観察していた
途中に出ていく人がいれば、途中から入ってくる人もいる
だが、そんな人には目を向けずに全員が真剣に話を聞いている。レイヴィス学院は授業に紙とペンは必要ないが、禁止しているわけではないのでメモを取っている人もいた
「なあ、ミオ」
「なに?」
「あの教員何者だ?まるで、いつ攻撃態勢に入ってもいいように魔力を収束して維持してる。これほど長時間、全く同じ量の魔力を維持できる奴なんてそういない」
「え、そうなの?」
「そりゃそうだろ。全く同じ量を常に維持し続けるのは精神力が大きく削れる。それなのに――」
「そっちじゃなくて!グゥル教員が『魔力を収束して維持している』ってこと」
「なるほど、グゥルか。覚えた」
「レイ?」
「ん。師匠なら多分三日くらい出来るだろうけど、さすがに俺でも二時間が限界だ。それなのに魔力を一度も練り直しをせず、少し入れ替えるだけ。それに加えて俺たち生徒を一人ずつ見ながら喋るほどの余裕がある」
魔力の収束を維持するのは息を止めるのと同じ原理。それをほんの少しずつ入れ替えるのは息を止めるより、キツいはずだ
更にそれを誰にも悟られることなくこなしている
正直言って今はあの教員に勝てないわけではないが、それでも負ける可能性の方が遙かに上だ
グゥルの他にアイン、ミーシャ、ダイス、そしてナターシャ。この面々は軽々とこなせるだろう。他にも出来る教員が何人いるかわからないが、もしいるとしたら――
「この学院は派閥にも匹敵する」
「……そ、そんなに?」
「まだ派閥と本気で殺りあったわけじゃないがな」
でも、小国くらいなら簡単に滅ぼせるであろうという人材が集っているのは確かだ
[生徒の呼び出しです。一年バンブーランク三組 レイ・ラ・アストレス君。至急保健室にお越しください。繰り返します。一年――]
「ん?」
「レイ何かやったの?」
「だとしたら教員室だ。仕方ない、行くぞ」
「うん」
グゥル教員に一言いって退出する
早足で保健室に入るとベッドにはニールセン・ヴィヴィオが横たわっており、息が荒い
タリアとフィレも保健室におり、どこか暗い顔をしている
「何があった」
「ニールちゃんが倒れたの」
「そんな事は聞いてない。見ればわかる。原因は何だ」
「わからないのよ。急に倒れたってフィレちゃんから連絡があって、駆けつけたから」
「原因ならすでに判明した。まあ、予想通りだったがな」
「貴方は?」
「保険医のジンだ。それより、気になるなら教えてやる」
(この男、白衣の下に何か隠してる……)
ジンという保険医は一枚の紙を渡してきた
その時、一瞬白衣が揺れた。紙を渡すときの揺れかもしれないが、揺れが明らかに不自然だった
見ていたことに気づかれないようにすぐに視線を紙へと戻すも、警戒を忘れない
「なるほど。力の制御が出来なくなった、か。このまま放っておくとどうなる?」
「体内の魔力が膨れ上がり、風船のように割れるだろうな。臓器諸共」
強すぎる力を制御できずにニールは己の力で破滅する。それは避けなければならない
「方法は?」
「今までなら、魔力を自動的に外に出してくれる機械を使いたいところだが、近づけるだけで壊れちまった」
(それほどまでに力が溢れ出しているということか)
「レイ、このままだとニールさんが死んじゃいます!何か手は、手はないんでしょうか!」
「落ち着けフィレ。騒いでも状況は変わらない」
「レイは落ち着きすぎです。あの、先生。ニールさんはどの位保ちますか?」
「問題ない。解決した」
レイの言葉にみんなの視線が一気に集まる
後ろに控えていたミオは察しがついたようで慌てたようにレイを止める
「レイ!その方法はいけない!そんなことしたら」
「死ぬわけじゃない。全員下がってくれ」
『ウィー、一時的に魔力供給を切る』
『わかりました。決して無理だけはなさらずに』
『ん』
姿が粒子に溶けて消える。魔力を切ったことにより、本来あるべき所へと戻ったのだ
制服を一枚脱ぎ、シャツを捲る
それをミオに預けてニールに近づく
「ニール死にたくないなら身を俺に委ねろ」
相変わらず息が荒い
返事も視線も寄越さずにただ荒い呼吸を繰り返すだけ
腕を伸ばすと何かが掠めた
(これは、俺が保つか?)
予想以上に強すぎる力に耐えられるかわからないが、今の現状よりはマシになるはずだ
「行くぞ」
更に近づけると再び腕が斬られる
だが、特に気にした様子もなく腕を伸ばして頸部に触れる
レイが触れたことにより、ニールが目をうっすらと開ける
『安心しろ。必ず助ける』
『レ、イ……』
魔力による会話
レイの身体から流れる魔力とニールの身体から流れる魔力が交わり、お互いに声を出さずとも会話をすることができる様になる
『今から強制的に内側の魔力を外に出す。失敗はしても死にはしないから安心しろ』
返事は無いが言ってることは理解しただろう
ニールの手の甲に爪を立て、小さな傷を作る
その傷から血がドクドクと不自然に溢れ出してきた
レイはニールの血を吸う。内側の魔力をレイの中に移動させるのだ
しかし、予想外の事態がレイの身を襲う
(――これは、ただの魔力じゃ、ない!?)
魔力以外の『何か』がニールの血を巡っている
自然と腕に力が入ってしまう
『う、あ……レイ……』
血を吸い出している所為か、それともニールの腕を力強く握っている所為か、もしくは両方がニールを苦しめているのかもしれない
死にはしないので応援の言葉は一切掛けない。その余裕は今のレイにはなかった
(これ以上は、無理か!?)
血液を体内に飲み込み続けるが、これ以上続けると今度は自分の中がニールの魔力によって侵されてしまう
手の甲から口を離すと、血はすでに少しずつしか出ていない
後は外側に出ている魔力をレイの魔力で当てて、空気中に溶かす
手から肩に位置を変えてフッと息を吐いて集中する
この方法は以前屋上でやったのと同じやり方なので問題なくこなせた
外側の魔力が空気中に溶けてゼロの魔素に変わっていく
気づけばニールの荒かった息が落ち着いている。体内の魔力を出したから体が軽くなったみたいだ
「終わった。戻る」
二言だけ残して足早に保健室を去る
早く人気のない場所に行かないと、気持ちと体を急かしてミオを連れて離れる
しかし、あれだけのことを見ていた人が黙っているはずもなかった
「おい、今のは何だ。あんな風に抑えつけるのは見たことない」
言いながらレイの肩に触れようとしたとき、その手は払われた――ミオによって
「レイに触らないで下さいませんか?」
「俺は保険医だ。治療法があるならその方法を知るのは当たり前だ」
「関係ありません。レイ、行こう」
一つ頷いて保健室から出る
急いで人気のない、原生林の近くまで来ると、突然レイの体が跳ね、口元を覆う
「ゴホッ!」
大きく咳をしたと思ったら、大量の血を吐き出した。それは止まらずに、ボタボタと地面に垂れていく
足に力が入らず、膝をつく
「レイ!?レイ、しっかりして!」
(ヤバい。やはり、あれは魔力だけじゃ…ない……)
気が遠くなる
視界が歪み、輪郭がぼやける
それでも、生温かい血が止まらないで吐血し続けるのはわかった
死にはしない。これくらいのことで死ぬわけにはいかない
レイの意識をつなぎ止めるのは派閥に対する復讐だった。これを終えるまでは死ねない
(俺は、まだ――)
すでに口元から手は離れ、地面に倒れ伏している。どっちが上で下なのかもわからない
ミオが叫んで名前を呼んでいるが、それを声と認識できず、音と化してしまう
(博士、俺は――)
「いつまで寝てるんだい。早く起きたまえ」
今度は確かなハッキリとした声が聞こえる
「言ったはずだよ。キミを殺すのは僕だ。勝手に死ぬことは許さない」
この声は博士の声だ
でも、側にいたのはミオのはず――
「ほら、そこのキミも泣いてる暇があるなら呼びかけなよ」
「レイ……聞こえる?……返事、して……お願い……」
聞こえる。今度は音じゃない。ミオの声だ
でも、元気がない。泣いてる?
「泣くな…よ」
何かがのど奥に詰まって上手く声が出せないが何とか絞り出して返事をする
「泣いてない。私は、泣かないって…決めた、から」
「上手く話せないなら今は場所を変えよう。誰がいつ来るかわからない。そこのキミ、運べるね」
「は、はい」
(何で、博士とミオが……)
その疑問とともに博士が来た安心感から意識を手放す
レイが意識を取り戻すとそこは寮部屋だった
意識を取り戻した当初はミオは起きていたが、目を覚ましたことに安心して今ではレイの膝の上で眠っている
それを確認した博士はアメを口に含みながら問う
「さて、聞かせてほしいね。いったい何があったんだい?」
「……そうだな。俺の血を検査に回せばわかると思う」
「血?」
「ああ。ニールセン・ヴィヴィオ――彼女はおそらく魔力以外の力を持ってる。その力にこの身体が耐えられなかった」
「なるほど。じゃあ、早速検査に回そう」
「あと、このリングを外してくれないか?」
「……いいのかい?」
「もう派閥の情報は手に入れた。これ以上彼女に迷惑は掛けられない」
「ここからはいつも通りに個人で動くのかい?」
「いや、個人じゃない。博士と一緒に動く」
ミオはレイの隣で寝ている。泣き疲れて寝てしまったのだ
まるで子供のようだが、それほどまでに心配を掛けてしまったということだろう
「悪いけど、今回僕は一緒に動くつもりはないよ。僕自身、やりたいことがあるからね」
「……わかった。でも、これは外してくれ」
「別に構わないけど、死ぬようなことはしないでくれよ」
博士はそういいながらレイとミオを繋いでいたリングをあっさりと外してしまう
レイは博士が協力してくれないことに驚いたが、別にレイと博士は仲間というわけではない。ただの協力者だ。自分の利益を優先するのは当たり前
「それじゃ、僕はもう行くよ。血も手に入れたことだしね」
「何かわかったら俺にも教えてくれ」
「わかっているよ」
博士は前と同じように窓から外に出て行った
それを見送ったレイはすがりつく様に眠るミオの頭を撫でながら考える
(さて、どうしようか……。ミオを一人にするのは危険かもしれない)
派閥の情報網は異常なほどに広い。もうすでにアルバート・ハイドはミオが情報を漏らしたことを知っていると考えた方がいい
「ん……レイ……」
ミオが名前を呼ぶ。起きたわけではないらしい
名前を呼ばれてレイは決めた。必ず、相棒のミオ・フェリシモを守ると
もしかしたら危険な目に遭わせてしまうかもしれない。それでも――
(絶対に死なせない)
そう心に決めた
今更だけど設定的なもの公開した方がいいですかね?
いや、自分では理解していても読者様がついていけてなければ意味がないと思っての提案です
必要ないならいいのですが……




