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風の精(スプライト)  作者: 花一匁
一章 風と学院
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風 Ⅰ

Ⅰ 出会い





ガサガサッと音を立てて森の中を走る一人の人間がいた。

その者は足元が安定しそうな木を見つけると枝に飛び乗り、一瞬身をかがめた後すぐ近くの枝へと飛び移った。

その者の姿は体格からして男性だと見て取れる。そして、背丈はまだ子供のものであることもわかる。その少年の肩には手のひらサイズの羽が生えた人型『妖精』がそっと囁いた。


『レイ様、匂いが……』


「ああ、風の匂いに混じって人と血の匂いが漂ってきてる」


『助けるのですか?』


「それは、実際に確かめないことにはどうしようもないな」


妖精は人には聞き取れない声で話すが、少年にはその声が何を言ってるのかはっきりと分かっているようだった。

進むにつれて匂いが強くなってきてるのを感じた。さらに少しばかりか風が騒いでるのを少年と妖精には感じることができた。




「くそっ! 盗賊に襲われるなんて」


一人の男が毒づき後ろを振り返る。後ろからは五人ほどの人間が追いかけてきていた。


「貴方だけでもお逃げください。ここで食い止めて見せます」


「そんなことできません! 戦うなら私も」


先ほどとは違う男が一人の女性に逃げるように言った。しかし女性は逃げることはせず、武器である杖を前に掲げいつでも戦闘できるよう準備をしている。

男二人に女が一人の計三人、さらに男の一人は肩を負傷しているようで汗がにじみ出ていた。敵は五人で負傷者もいることからこちらが圧倒的に不利だというのがわかる。本当は他にも仲間がいたのだが、ここまで来るのに殺されてしまった。そのことから敵の実力は高いと思われる。


「危険すぎます! このままでは全員死ぬ可能性もあるんですよ!!」


「だからと言ってここで貴方達を見殺しになんてできません」


口論してる間に盗賊はどんどん近づいてきている。肩を負傷している男が痛みに顔を歪めながら剣を正面に構える。口論していた二人も盗賊の接近に気付き、武器をそれぞれ構える。

盗賊の五人の内弓矢を持っていた二人の盗賊が矢を射る。その矢にすぐさま反応して三人は避ける。盗賊たちの統率力はなかなかのもので三人は取り囲まれてしまった。


「荷と女を置いて行きな。命は奪わねえからよ」


「ふざけるな!」


負傷していない男がリーダーと思われる盗賊に剣を振る。

盗賊のリーダーは武器である斧で剣を叩き割った。男は剣が折れたことに驚き、動きが止まってしまった。そのチャンスをリーダーが逃すわけもなく、斧で男の胴体を真っ二つにした。

仲間の男女もそれを呆然と見ていることしか出来ず、血が吹き出ている男をただ驚愕した顔で見ているだけだった。


「次はどっちだ?」





森を駆ける少年は一度木の枝で立ち止まると強い風が少年と妖精を吹き付けた。


「一人死んだな」


『誰が死んだのでしょうか?』


「誰が死のうとどうでもいい」


妖精が聞いてきた。だが少年は誰がどのように死ぬ、なんてどうでも良かった。やがて森の木々が減ってきた。もうすぐ出口だ、と思いさらに速く枝を伝って行き、森が開けると七人の人間と真っ二つになっている人間を見つけた。

それを見た少年はイラついた。


「この森の近くで死人をだしやがって……ふざけるなよ」


『やりますか?』


「そうだな。一発お見舞いするか」


少年と妖精は同時に手を前にかざす。手のひらに薄い球体ができ、それを前にいる人間に放った。





「大丈夫ですか!?」


「す、すいません。護衛が勤まらず……」


女性が男を支えながら盗賊を睨みつける。盗賊はジリジリと近寄ってくる。


(まだ私は、死ぬわけには……)


どうにかしてこの場を逃げ切る方法を模索する。

意識を辺りに集中させると何かを感じ取った。


(これは…魔法!?)



魔法の存在を感じ取ったのと同時に突風が襲い三人の盗賊を吹き飛ばす。

直前で察知した女性は自分と護衛の男性に魔力により精製された障壁を作り上げ何とか飛ばされないように踏ん張った。

その時に静かな、だがどこか怒気を含んでいる声が聞こえた。


「……四人残ったか」


『レイ様』


「ああ。一瞬で終わらせよう」


女性が少年を見ると驚き、としか言いようがなかった。

言葉通り一瞬で目の前にいた二人の盗賊を蹴散らしたのだ。

何をしたのかわからなかった。それはおそらく盗賊たちも同じだと思われる。


「此処に来れば……次は殺す」


その言葉と目に怯えたのか、盗賊は全員逃げ出した。

助けに(?)来た少年はこちらを振り向くと、女性はさらに驚いた。少年の見た目は自分と同じくらいなのだ。同じくらいにしてあれほどの盗賊を蹴散らす程の魔法。そしてその魔法は自分が今までに見たことのない魔法。


「次はそっちか。もし生き延びたいならあんたらも消えな。此処に居続けるなら殺す」


まるで冷たい刃を突きつけられたような感覚が二人を襲った。


『レイ様、そんな態度だと向こうは竦んで動けませんよ』


『しょうがないだろ。こういうのは苦手なんだよ』


「あ、あの!」


妖精がそんな言い方は良くない。と言ってきたので少年は少しばつが悪そうに妖精に言い返した。

二人が――妖精は少年の陰になって見えていない――言い合っているのを知らずに女性が少年に話しかけてきた。


「貴方の腕を見込んで、私たちの護衛をお願いします」


少年はその言葉を聞いて女性に旋風を巻き起こした。

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