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県立山田浜高校――県内トップクラスの進学率を誇る名門校である…まぁ、どうでもいい話だが。
「この昼休みの食堂で勉強などしおって。こいつらは何を考えているのだ」
「普通でしょ。明日から期末なんだし」
由佳子は憂鬱そうに嘆息する。
「食堂とは食事をするところだろう。ベッドとは寝るところだろう。ベッドで食事をするのはだらしがないだろう。つまり、食堂で勉強するのはまさに堕落した者達の悪しき所業と言わざるを得ない!――違うか?」
俺はたぬきうどんをすすりながら熱弁する。
「はいはい、ご高説をどーも」
由佳子は英単語帳を捲りながら、カレーうどん食べている。器用な奴め。
「てか、太郎こそ何を考えてるのって話だよ。ウチをトップクラスで入学できた秀才だったのに今は学校一の落ちこぼれ扱い。あたしは肩身が狭いっての」
「だーまーれ。俺がどのように呼ばれようがお前が気にするようなことではない。俺は仙人なのだ。人間どもの下世話な話題に一喜一憂するような軟弱者ではない」
確かに俺の学校での評判は最悪だ。入学当時はトップクラスの秀才。そして、2年になった現在は授業もまともに受けない社会不適合者。他人の堕落をなによりのおかずとするこの学校の連中にとって、俺はかっこうの嘲笑の的だろう。
「なにが仙人だよ、全く。まだあの子達に変なこと吹き込んでるんじゃないでしょうね」
「あの子たち? わが弟子たちのことか? あいつらはまだまだ未熟だがここにいる連中よりかは遥かに見込みがある」
由佳子のいうあの子達とは山田浜高校のすぐ隣にある小学校山田浜小学校の小童共のことだ。
なかなか見込みがありそうであったので仙人である俺が直々にセンドーを教えてやっている。
ちなみにセンドーとは正確には仙道――単純に仙人に至る道のことであり、仙人のみが使うことができる不思議な超常能力のことである。センドーを極めし者だけが仙人という人間を超越した存在になることができるのだ。
「太郎」
由佳子は低く、冷たい声で呟く。
俺は即座にビクリと身を震わせた。
長年の付き合いだ。こういう時の由佳子の話は真面目に聞かないと後が怖い。
「む…なんだ」
「あの子たちはあんたみたいな現実逃避の仙人志望とは違う。…わかってるでしょ?」
由佳子は箸でカレーうどんをゆっくりとかき混ぜる。
ぐーるぐーるぐーる。俺は渦巻くカレーうどんの中心に目を落とす。
「あの子たちは拠り所が欲しいだけ。居場所が欲しいだけだよ。太郎、あんたはわかってるはずだよ」
――ふん。そんなのわかっているさ。
俺を誰だと思っている。俺は最高の仙人である天地覇王様だぞ!
あいつらには俺が必要だ。
だが――…俺にはもう時間が残されていない。
「ごちそうさま」
俺は勢いよく立ちあがる。
「ちょっと太郎! どこ行くの」
俺はそのまま食堂を飛び出した。