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最終話

 翌日。


 父と母は既に新幹線に乗っている。

 出発時刻はあと5分。俺は由佳子と向き合っている。

 見送りに来てくれたのは結局由佳子だけだった。


「まぁ、なんというか…お前と離れると思うと、寂しいというかなんというか」

「寂しいなら素直に寂しいって言え。最後まで素直じゃないんだから」

 そう言う由佳子の目には見間違いだろうか。涙が浮かんでいるように見えた。

「太郎。あんたは馬鹿だ、阿呆だ。それは間違いない」

「いや…間違いだろう」

 いきなりそんなことを言われて、ええ、そうですなどと言えるものか!

 不意に由佳子の腕がゆっくりと俺の首に回される。

 うわっ、いい匂い…って何が起こっている?

 新手の敵からの攻撃か?

「でも、あんたはいい奴だよ。それは誰よりもあんたを見てきたあたしが保障する」

 由佳子の声は心なしか震えていた。

 彼女がどんな表情をしているのか、俺にはわからない。

 ただ、俺の目からは滂沱の水が湧き出ていた。これはどうしたことか。

「ははは、なんて顔しているんだか。そろそろ出発だね」

 ゆっくりと俺から離れた由佳子の表情はさっぱりとした笑顔が咲いていた。

 

 あ、こいつはこんなに可愛かったのかと今更ながら俺は認識した。


『まもなくつばめ4号、出発いたします。ご利用のお客様はご乗車してお待ちください』

 出発のアナウンスが鳴り響く。

 時間だ。


「じゃあな、由佳子。また後で連絡する」

「うん」

「それと…言いづらいのだが」

 俺には気がかりがある。

 当然、あいつらのことだ。

「わかってる。あの子達のことは任せて」

 由佳子は儚げに笑い、俺の頬にキスをした。 


 ひろし、咲、優太の三人は姿を見せなかった。

 ケンカ別れのような微妙な気まずさが残る。

 こんなことになるのだったら、あいつらに打ち明けずにこっそりといなくなるべきだったのではないだろうか。

 そんな思いが脳裏をよぎる。



 キャリーを押し、新幹線に乗り込む。

 その時――


「「「ししょぉおおおおおおおおおおおおお!!!」」」


 子供達の甲高い声が駅構内に木霊する。

「…お前たち。どうしたというのだ、その顔は!」

 

 駅構内に息をきらして現れたひろし、咲、優太、3人の顔は揃いも揃って酷いものであった。

 そりゃあ、神すらも嫉妬する美しく整った俺の顔と比較してしまえばこの世のあらゆる生物は「酷い顔」と言えるのだが、今回はそういうことではない。

 瞼は腫れ、口は裂け、血が流れ出ている――


「何があったというのだ、お前たち!」

「へへへ、ししょー。心配しないでください。おれたちつよくなったんです! ししょーのおかげです!」

 鼻血を垂らしたひろしが歯を見せ、笑う。

「そーなの! ししょーがセンドーをおしえてくれたから、あたしたちあいつらに勝てたのぉおお」

 咲の顔には爪で引っ掻かれたであろう傷がいくつも残っている。

「あいつら? お前たちいつも苛めてくるあの連中と喧嘩したというか? 何故だ! 何故そんな危ない真似をしたのだ!」

 理解できなかった。

 こいつらは何をしたかったのだ?

 こいつらの敵はクラスメート全員だ。

 普通に考えて敵う相手ではない。

「…師匠。ぼ、僕たち師匠に伝えたかったんです。師匠のおかげで僕たちは強くなれて、僕たちはあいつらに自分たちの力だけで勝てるようになったんだって」

 優太の眼鏡は割れている。

「それにね、あたしたちクラスのみんなと仲直りしたんだぁ! みんな謝ってくれた! あたしもね、えっとぉー、そんだいな心で許してあげたの!」

 とてもではないが、昨日までのこいつらとは思えない。

 おそろしいほどの成長の早さ。まるでゴキブリだ…すまない、ここは茶化す場面ではない。

 だが、茶化さねば俺らしくないだろう。

 こんなに情けなく泣いている天地覇王様を見たいとでも言うのか?


「ねぇ、ししょー。あたしたちはもうだいじょうだよぉー。

だからさー、う…うっ! ししょーは安心してさ、あたしたちみたいな他の助けを呼んでいる子達をたすけにいってね…」

 咲が泣きだす。しかし、必死に笑顔を作ろうと努力しているのがわかる。

「し、ししょー! お、おれたちがんばったんだぁ! ほんとは、ほんとはすっげー怖かったんだけど! おれたちがずっとなきむしのまんまだとさ…ししょーが安心してほかのとこいけないって思ってさぁあ! おれたちがんばったんだぁあ」

 3人とも酷い怪我だ。

 しかし、その表情は輝いていた。

「だから、師匠。僕たちのことは心配しないでください。これからはご自分のことを第一に考えてください。本当の仙人になって帰ってきてください!

――僕たちは永遠に師匠の弟子です!」

 

 優太の言葉が限界だった。

 俺の涙腺は崩壊し、3人を強く抱きしめる。

 由佳子も泣き、そして笑っている。 



「「「いままでぇええ! ありがとうございました」」」

 3人が揃って頭を下げる。俺の視界はもう涙で何も見えなかった。

 ゆっくりと終焉の扉が閉じ始める。


「ししょー! うけとってください!」

 ひろしが閉じかけた隙間から手紙を俺に渡す。

 そして、扉が閉じられた。


 動き出す、電車。小さくなる4つの影。

 子供達は由佳子の足に抱きついて、泣いていた。

 そんな姿も――やがて見えなくなった。


 座席につき、最後に手渡された手紙を開く。

 それはひろし、咲、優太からの手紙であった。

 内容はこれまでの一緒に過ごしてきた日々の感想文のようなもの。

 文法もでたらめで字も汚かったが、その文面は俺の心に沁みわたった。


 仙人とは誰よりも自由で、そして人生を彩り深く味わうことができる人物のことである。

 センドーはそんな仙人になるための修行の道だ。

 センドーの秘伝は全てがこの手紙に、正確に言えば俺があいつらと過ごした思い出の中に巧妙に隠されている。


 人は一人では決して生きてはいけない。

 社会の荒波に、孤独の嵐に、悪意の雷に、一人では立ち向かうことはできない。

 どんなに強い人でもいつかは折れてしまう。それが人間だ。


 人間超えた仙人になるためには、必要なものがある。

 辛い時にともに笑い、支え、助けあう…そんな存在。

 一人一人はちっぽけでもなにも問題はない。

 共に生きる精神に力は宿る。

 センドーの秘伝はそこにある。


「それは仲間。小学生に教わるとは俺もまだまだだな」

「突然意味不明なことを呟くな。我が息子ながら気持ちが悪い」

 母親が露骨に眉をひそめた。


 やれやれ、空気の読めない親だ。

 俺はポケットから携帯を取り出す。


 待ち受け画面に映るのは2人の高校生と3人の小学生。

 

 センドーの心はどこまでも繋がっている。



これで完結です。


誰でも人間関係や先の見えない将来にうんざりし、何もかも忘れて山にでも籠りたいと思ったことはあるのではないでしょうか。


私はよく思います。


それは「逃げ」でしょうか?

確かに逃げです、現実逃避です。


でも、人生時には逃げることも大切でしょう。

そして逃げるときは必死に逃げるべきです。


この話はそんな「逃げ」の話ではありますが、敗北の物語ではないと思います。

楽しんでいただけたなら幸いです。

 

それでは次回作もよろしくお願いします。

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