魔物たち
国王が語ったこと
確かに魔族に対しての非道な行ないがあったかもしれぬ。じゃが、余のあずかり知らぬところで起きた問題なのじゃ。彼を討伐隊長に任命したのは確かに余じゃが、飾りだけの王じゃ。現に、軍隊の指揮権は将軍に、内政の指揮権は内務卿に握られて、余はイエスマンになってしまった。
じゃから、今回の魔王掃討作戦がどのようなものだったのか、文にしたためてあったことを除いては全く知りはせん。
文? まだとってある。
作戦計画書
この度、魔族との戦に於いて、多大な死者を出せり。正規軍の指揮は著しく低下せり。
魔族の猛攻は一向にやまず、このままでは国家存亡の危機なり。
聞けば南の村に極めて優秀な人材ありと聞く。この者を隊長とし、軍隊を編成、魔族との戦に決着をつけたし。云々
将軍が語ったこと
確かに、作戦を立案したのは儂だ。だが、彼が戦地でどのような行ないをしておったのかは把握しておらん。儂ははるか昔に第一線を退き、今は国防予算などを陛下に提言しておる身だ。ふむ……、陛下からは先の軍議でご快諾していらっしゃったので、ご賛同いただけたと思っていたのだが……。
正規軍では国内の治安維持のみで手一杯なのは知っておろう? そこで今回、試みに村人を訓練して、討伐しようとした。儂は訓練費及び装備品の予算を陛下に申し上げたり、詳細な訓練命令書を作成などを行なったのみだ。
ある意味では儂も被害者なのだ。戦地での彼の非道な行ないが解っておったらとっくに解任しておった。聞けば、民の家に上がり込み、ツボ、タンスに至るまで調べ尽くしたと聞く。彼を職権を濫用の罪で問いたいが、今は時の英雄。軍部にまで影響力を伸ばしておる。民はそれを許さんだろう。
それに治安が安定し、商いが盛んになれば税収は増えると内務卿も申しておった。平和な社会を一刻も早く望んでおる。
内務卿補佐が語ったこと
閣下はご不在につき、代わりに私がお答えいたします。虐殺が行われた経緯については詳細が解らないので、なんとも申し上げ難いのですが、閣下も遺憾の意を表明しておられました。
閣下の役割は、いかに税収を増やす政策を打ち出すかです。労働者が増えればそれだけ税収が増え、国家予算も増えるのです。
例えば今回の作戦で使われた武具などを作るのに延べ1万5000人が労働が産まれました。その環境は詳細な報告がないので解りませんが、ほとんどは鉄工所だという報告があります。この戦が続けば、ますます労動者が増えるでしょう。つまりそれだけ生活が保障されるのです。
また略奪された品を速やかに持ち主へ返却すべく、特別調査官も閣下の提言で組織されました。これにより、経済活動がいち早く再開できる見通しです。
とらえた魔族は兵糧を確保すべく、農地で奴隷として扱われています。しかし戦が終わり次第、順次解放する計画です。そうすれば、彼らは鉱山で働くでしょう。工業が栄えれば商いが活性化、一層の税収が増えます。
治安の安定が今の課題ですね。
魔王軍の小隊長が語ったこと
確かに、俺は人間から金を受け取って村を襲撃した。初めは村からの略奪品が目当てだと思ってた。だけど奪ったものは全て俺の分け前になった。
俺ははっきり悟ったよ。この人は戦争を続けたいんだ。そうすれば、莫大な金が軍へと流れるからな。だから大都市なんかじゃなく、小さな農村を襲わせているんだって。大都市を襲うと税収が減るからな。
ああ、そうそう、そう言えば地方都市を俺に襲わせたこともあった。ヤツがそこの衛兵を補給隊に回したおかげで見事に成功したよ。もちろん補給物資はすでに護衛が付いていた。後から解った話だが、その領主はヤツが気に食わなかったようだ。それで俺たちに暗殺させたんだろう。
それから王子の馬車を襲わせたのもヤツだ。例によって護衛の盲点を教えてくれたよ。護衛の計画を立てているのは全てヤツなんだから、完璧な護衛と見せて一点だけ盲点を作ればよかったんだ。王子は俺たちとの和平を結ぼうとしてたから、ヤツには目の上のたんこぶだったんだろう。
……家族を養わなきゃいけないんだから仕方ないだろ? 独身者には解らないと思うが、ガキは手だけじゃくて金もかかるんだよ。俺みたいに低学歴の上に三十五過ぎたヤツが再就職できるわけがないし、できたとしても給料は新人に毛が生えたようなもの。とてもじゃないけど食ってはいけんよ。
将軍が語ったこと(2)
内務卿よ、これで軍の権威は示せただろうか? 確かに平和になってしまっては軍の存在意義がなくなり、軍の解体は免れない。
儂もそれだけは避けたいところではある。国王にクーデターをちらつかせる、今までの脅しが効かなくなってしまうからな。……それには解りやすい悪役、か。国王が軍事予算をここまで捻出したのは、魔王をお主の言う「わかりやすい悪役」に仕立てあげたからかもしれん。残虐で野蛮な印象のみ植え付け、こちらがいかに切迫しているかを伝える。
あと解りやすい成功談が必要だと勉強させてもらったよ。民の心を操るなんてバカバカしいくらい簡単だ。二匹目のどじょう、というヤツなんだろうな。おかげであれから志願兵でかなりの兵力が補えた。もちろん、彼らには最前線で戦ってもらう。しょせんは捨て駒にすぎんのだ。せいぜい努力だけ示して、儂らに有利なように話を進めさせてもらう。
それにしても魔王の小隊長にあの村を襲わせたのは成功だった。親も村も失った悲劇のヒーロー……、これが一番、同情を引くからな。
それと、今回の一件はあいつが暴走したことにしておいた。魔族からの略奪品が目当てで、戦争を起こしたとは知られたくないからな。特別調査官から情報が漏れることはあるまい。いざとなれば、国王に税金のムダと指摘して廃止させればいい。なあに、理屈はあとからいくらでも作れるさ。
それにあいつは儂らの関係に気付き始めておる。この辺で虐殺を捏造し、あいつの信用を奪うのも悪くはあるまい。




