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第二話 枇杷

 ある日誰もいない家に帰ってくるとテーブルに 枇杷(びわ )が置いてある。もう少し気の利いたものが良いと思いつつ、お腹が空いていたので皮を剥いて食べた。


 昔、小学校へ上がる前に住んでいた古い木造の家を思い出す。大きな門、縁側、恐ろしいものが住んでいそうな縁の下、そして臭くて暗い汲み取り便所。そのどれもが今でこそ懐かしいが、当時は怖くて仕方が無かった。その家は母方の祖母の家で、当時、長い廊下を渡った日当たりの悪い突き当りの部屋に祖母は住んでいた。

 今で言う痴呆症だったのだろうか、いつも独りで何か呟き、私が行くと亡くなった祖父の話や戦時中の話を延々と聞かされたものだ。両親からは、あまり近付くなと言われていたが、お菓子をくれるのでそれ目当てに、良く顔を出した。

 ある夜のこと、少し開いた縁側の雨戸から祖母が庭を眺め嬉しそうににこにこと笑っている。月明かりに照らされ白く透き通ったその顔は、とても美しく思えた。

 

 次の日、祖母が庭にある枇杷の木の下に「おじいちゃんが埋まっている」と言い出した。お母さんにその話をするとボケているのだから相手にするな。と言われた。まあ、そんな所に人が埋まっている筈もないのだが、まだ小さかった私はどうしても気になって、小さなスコップを持ち出すと木の根元を一生懸命に掘り始める。

 結構深く掘ったつもりだが実際は十数センチ程なのだろう、スコップの先に硬いものがあたった。手で穿り出してみると白い骨。私は急いでそれを祖母の元へ持っていくと、祖母はそれを大事そうに箱の中に仕舞い込み手を合わせ祈り始めた。

 今考えるとその大きさからすると鳥や何か小動物のものに違いない。そんな所に人骨が埋まっている事などありえないのだから……

 だが、その時は私もそれを信じ両親に話すことも無く、祖母と二人だけの秘密にする事にした。理由は良く分からないが、何故だか人にしゃっべてはいけないような気がしてならなかったのだ。

 それから、一週間もしないうちに祖母は眠るように亡くなってしまった。顔にのせられた白い布切れと、枕元の白い箱がとても印象に残っている。結局、それに気付いたお母さんが気持ちが悪い、とすぐに棄ててしまった。何だか可哀想な気がしたが、秘密にしていた事を知られるのが嫌で気付かないふりをしたのだった。

 その年の内に近くのマンションに引越し、その家も書道教室として人手に渡った。

 数年後のある初夏の事だったと思う。近くを通りかかった時に枇杷の実が沢山生っていて、あまりに美味しそうなので忍び込んで2,3個食べたのを思い出す。とても甘く、美味しかった。

 テーブルの上の枇杷を食べていると、あれ以上に美味しい枇杷はこれからもお目にかかれないような気がしてならない。


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