最期の時間
ゆっくり読んでくださいね
彼は、人が「化け物」と呼ぶ存在だった。
生まれてから数えきれないほどの時を生き、どれだけ時が流れても姿も心も老いることがない。
炎のように熱く、あるいは氷のように冷たい力を持ち、傷ついてもすぐに癒え、どんな絶望の中でも消えることはなかった。
「永遠」という名の檻に、一人閉じ込められた存在。それが彼だった。
彼は長い時を彷徨う中で、多くの人と出会い、別れを繰り返してきた。
愛した人たちは皆、時の流れに逆らえず、老い、やがて彼のもとを去っていく。
そのたびに心は砕け、「もう二度と誰も愛さない」と何度も誓った。
それでも、彼女と出会った時、その決意はあっけなく崩れ去った。
彼女はどこにでもいる普通の人間だった。
けれど、太陽のように朗らかで、どんな時でも彼の隣にいてくれた。
彼が「化け物」だと打ち明けた時も、彼女は恐れることなく、彼の手を強く握りしめて言った。
「私がいる限り、あなたは一人じゃないよ。たとえ私が先にいなくなっても、この想いは永遠だから」
それから二人の時間は、とても穏やかで幸せだった。
朝は一緒に散歩し、夜は月を見上げて話をした。
彼は初めて「生きている」という実感を得た。
だが、彼女の時間はあまりにも短く、あっという間に季節は巡り、彼女の手のひらは痩せ、声はかすかになっていった。
「ねえ」
病床に横たわった彼女は、いつものように優しく微笑んで、彼の顔を見つめた。
「あなたはこれからもずっと、永遠に生きていくんだね。寂しくなっちゃうかな……」
彼は彼女の手を握りしめ、涙をこぼした。化け物の涙は、人のものと同じくらい温かかった。
「俺が永遠に生きる意味は、君と過ごした時間を守り続けることだ。君がいなくなっても、君との記憶が俺の永遠そのものになる」
「それでもね」
彼女は指で彼の頬をなぞり、静かに言った。
「もしも選べるのなら、私は『最後』を選びたい。あなたと過ごした日々は、私の一生で一番素晴らしいものだったから。これ以上何も望まない。あなたとの『最後』が、私にとって最高の幸せなの」
その言葉を聞いて、彼ははっとした。
彼はずっと「別れ」を恐れていた。
だが彼女は、「限りある時間」だからこそ輝く絆を教えてくれたのだ。
永遠に生きることよりも、たった一度の、心から愛し合える時間があること——それこそが、何よりも尊いものだと。
彼女が静かに目を閉じたその瞬間、彼の中にあった「永遠」の意味が変わった。
これから先、彼は一人で長い時を生きていくだろう。
だがもう、孤独ではない。
彼女がくれた愛と、二人で選んだ「最後」の記憶が、彼の心の中で永遠に輝き続けるから。
永遠に生きる化け物が手に入れた、本当の幸せ。
それは、限りある命だからこそできる、心を込めた愛と、その結びの時間だった。
読んで頂きありがとうございました
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それでは、またいつか




