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第五章:機械の鼓動

 翌朝。健一は岩田社長に直談判をした。


「岩田社長。工場の隅にある、あの古い半導体露光装置……。あれ、僕に触らせてもらえませんか?」


 岩田はタバコを咥えたまま、目を丸くした。


「あんなもん、十年前のスクラップだぞ。本社が廃棄費用をケチって押し付けてきやがったんだ。部品も足りねえし、動くわけがねえ」


「いえ、動かせます。理論上、レンズの角度をコンマ数ミリ調整して、光源を少し工夫すれば……今の本社の主力機を超える精度が出せるはずです」


「……はあ? お前、寝言は寝て言えよ」


 岩田は鼻で笑ったが、健一の瞳にある、氷のような鋭い光を見て、言葉を飲み込んだ。

 それは、ただのサラリーマンの目ではなかった。

 すべてを失い、それでもなお「ことわり」を追求しようとする、狂気を孕んだ天才の目だ。


「……勝手にしろ。ただし、経費は一円も出さねえぞ。その辺にあるガラクタを勝手に剥ぎ取って使いやがれ」


 それからの健一は、人が変わったように没頭した。

 昼間は検品の仕事を完璧にこなし、夜は一人でスクラップの山に籠もった。

 遥はそんな健一のために、毎日温かい飲み物と、ささやかな軽食を運び続けた。


 一ヶ月後。

 

 静まり返った工場に、今までに聞いたこともないような、澄んだ電子音が響き渡った。


「……動いた」


 健一の声に、遥と岩田が駆け寄る。

 モニターには、驚異的な解像度で描かれたシリコンウェハの表面が映し出されていた。


「おい……なんだ、この精度は。うちみたいなボロ機械で、なんでこんなナノ単位の溝が掘れるんだ!?」


 岩田の手が、震えている。

 健一は、額の汗を拭いながら、のほほんとした口調で答えた。


「光源の位相を、あえて反転させてぶつけてみたんです。そうすれば、ノイズ同士が打ち消し合って、光が尖るんですよ」


 岩田は絶句した。

 それは、世界中の光学メーカーが数千億円を投じて研究しているテーマの「正解」だった。それを、一人の男が廃品回収の機械で成し遂げてしまったのだ。


「佐藤……お前、本気で世界をひっくり返すつもりか?」


「いえ。僕はただ、僕を信じてくれた人たちと、ここで生きていきたいだけです」


 健一はそう言って、傍らに立つ遥に微笑みかけた。

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