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第十一章:審判の門(復縁懇願の結末)

 新しく建設された、アステリズム・エナジーの本社ビル。

 最先端のガラス張りのエントランスに、場違いなほど薄汚れた三人の女性が現れた。


「健一さん! 健一さん、会わせて! 私は妻なのよ!」


 美紀は、警備員に制止されながら狂ったように叫んだ。

 結衣と愛梨も、かつての傲慢さはどこへやら、涙を流して「お父さん!」と連呼している。


 エレベーターが開き、健一が姿を現した。

 その隣には、副社長として、凛とした美しさを湛えた遥が寄り添っている。


「……美紀さん。騒ぐのはやめてください。ここは、神聖な研究の場です」


 健一の声は、驚くほど平坦だった。怒りも、悲しみも、そこにはなかった。

 美紀は、その場に膝をつき、健一の靴を掴もうと必死に手を伸ばした。


「健一さん! ごめんなさい! あの男に騙されていたの、私はあなたのことが一番大切だったのに、魔が差したの! お願い、やり直しましょう! またあの家で、四人で……!」


 その後ろで、結衣が声を張り上げる。


「お父さん! 私、本当はお父さんのこと尊敬してたんだよ! あの時はお母さんに言わされてただけなの! 戻ってきてよ、ねえ!」


 健一は、足元で泣き叫ぶかつての家族を、冷めた目で見下ろした。


「……結衣。君が今、僕の隣にいる瀬戸さん(遥)を、どんな目で見ているか知っているかい?」


「え……?」


「君のその目は、僕の『立場』と『富』だけを欲しがっている。……美紀さん、君も同じだ。僕がもし今も、あの暗いオフィスでコーヒーをかけられている万年主任だったら、君たちはここに来たかい?」


 美紀は、言葉に詰まった。


「……君たちが愛していたのは、僕じゃない。僕が運んでくる『数字』と、ハーバードという『肩書き』だけだ。……僕が一番苦しかった時、君たちは僕に何と言ったか、覚えているかい?」


『パパ、キモい。こっち来ないで』

『ゴミにしては物分かりがいいじゃない』


 健一が淡々とその言葉を繰り返すと、美紀たちの顔から血の気が引いていった。


「……僕を捨ててくれて、ありがとう。おかげで僕は、僕という人間そのものを必要としてくれる、本当の家族に出会えた」


 健一は、遥の手をそっと、だが力強く握った。

 遥は、慈しむような眼差しで健一を見つめ返し、深く頷いた。


「警備の方。……この方たちを、二度と敷地内に入れないでください」


「健一さん! 健一さん!!」


 絶叫する美紀と、警備員に引きずられていく娘たち。

 彼女たちが最後に見たのは、豪華なエントランスの向こう側、光り輝く未来へと歩み出していく健一と遥の、幸せそうな後ろ姿だった。



エピローグ:北の空に咲く星


 数年後。

 札幌の郊外には、世界中から技術者が集まる「アステリズム・シティ」が建設されていた。

 その中心にある小高い丘の上。

 健一と遥は、小さな子供の手を引きながら、夕暮れの街を眺めていた。


「……佐藤さん。いえ、パパ。今日は岩田おじいちゃんが、大きなカニを持ってきてくれるそうですよ」


「それは楽しみだね。……遥、君に出会えて、本当に僕は幸せだよ」


 健一は、遥の肩を寄せた。

 かつての「万年主任」は、今や世界を救った英雄として歴史に刻まれている。

 だが、彼にとって最も大切な功績は、この穏やかな家庭を築けたことだった。


 遠くで、街の明かりが一つ、また一つと灯り始める。

 その明かりはすべて、健一が生み出した「優しいエネルギー」で輝いていた。


 北の空には、新しい時代の幕開けを祝うように、無数の星が瞬いていた。

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