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四話 三毛猫と、重なり合う影


【第一章:縁側の下の密談】

 五月。那珂川の土手には菜の花の名残が散り、代わりに力強い緑が勢いば増しとった。

「イとコジ調査部屋」の縁側では、主の伊頭いとうが、近所の飼い猫である三毛猫の「タマ」と見つめ合っとった。

「……お前、また家出か。飼い主のばあちゃん、腰ば痛めて探しきらんち言いよったぞ」

伊頭が呆れたように呟くと、タマは「ウナァ」と短く鳴き、伊頭のよれよれトレンチコートの裾に体を擦り付けた。そして、目を見開き、口をあんぐりとあける。フレーメン現象しおった。

「そんなに、匂うかぁ?」自分で自分のコートの袖を嗅いでみる。


 そこへ、居候のコジが喫茶店『十路人ほびと』のバイトから帰ってきた。

「ただいまっす!……あ、タマちゃん。また来とるとっすか? 飼い主のタキさんの隣のばあちゃん、血眼で探しよったっすよ」

「わかっとる。ばってん、こいつが動こうとせんとたい。何か言いたかことがあるごたる」

「ほんとだ、臭い顔ばしとるねー」


【第二章:那珂川の迷路】

 伊頭は重い腰を上げ、タマを抱き上げた。

「コジ、十路人の名山マスターに聞いてこい。最近、この三毛猫がどこに出没しよったか。こいつはただ逃げ回っとるわけじゃなか。何かを『見張っとる』顔ばしとる」…臭い顔じゃなかよ…


コジが調査に走る。伊頭はタマの案内で、那珂川沿いの古い倉庫街へ向かった。

夕暮れ時。川面に反射する西日が、伊頭の古い傷跡のような過去を照らし出す。かつて大きな事件を追っとった頃の鋭い眼光が、一瞬だけ戻った。

タマが案内したのは、一軒の廃屋やった。そこには、一人の幼い少女がうずくまっとりよった。

「……迷子か。それとも、隠れん坊の最中か?」

少女は震えとった。その足元には、誰のものか分からん、ずっしりと重そうな革の鞄が置かれとった。


【第三章:一瞬の解決】

 荒い息を切らした二人の男が廃屋に踏み込んできた。

「おい、ガキ!その鞄ば返せ!……あ? 誰や貴様。浮浪者か?」

男たちの手には、鈍く光るナイフがあった。伊頭の過去を知る者が見れば、彼らが「あちら側」の人間であることは明白やった。

伊頭はタマを地面に下ろし、静かにトレンチコートのポケットに手を入れた。

「……悪いな。この猫の昼寝を邪魔した罪は重いぞ」

男たちが飛びかかろうとした瞬間、伊頭は流れるような動作で少女を背後に隠し、最短の動線で男たちの手首を叩いた。

「あがっ!?」

悲鳴が上がる前に、伊頭は二人を壁に叩きつけ、鞄を奪い返した。

「説明は要らん、これもろくなもんやなかろ?この子を怖がらせた時点で、お前らの負けたい。……警察には、迷い猫が見つかったついでに『落とし物』として届けといちゃる、

ちゃんと失せ物届けだせば、堂々と自分らのもんになるやろ?」…まともなモノならな…

男たちが呆然とする中、伊頭は少女の手を引き、タマを先頭に廃屋を出た。


【結末:にわかの賑わい】

 一時間後。居酒屋『にわか』のカウンター。

少女は無事に親元へ帰り、タマも飼い主のばあちゃんのもとへ戻された。

「伊頭ちゃん、あんたまた、なんかしたとねぇ?警察が、なんだか大騒ぎしよったよ」

「おととい、ラジオでいっとった密輸した薬かなんかが、みつかったんやなか?知らんけど」

 

女主人のおよしさんが、特大の煮込み鉢を差し出した。

「いや、俺は猫ば探しとっただけたい。なあ、コジ」

コジは煮込みを口いっぱいに頬張りながら、「うぃっす!相変わらず格好よすぎるっす!見た目、汚いけど」と笑った。

 

窓の外では、那珂川の風が心地よく吹き抜けとる。

「……猫は、何でも知っとるっすね」

伊頭は独り言のように呟き、ぬるいお冷やを飲み干した。

明日にはまた、電気代の督促と、小さな失せ物探しの毎日が戻ってくる。それでいい。それが「イとコジ調査部屋」の日常なのだから。

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