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優秀すぎる部下が、私の歩けない脚のためだけに魔道具を作ってしまいました。

作者: 有梨束
掲載日:2026/02/14

「この右脚は、魔法でも治せません」

そう言われたのは、馬車の事故に巻き込まれた14歳の時だった。


大きな事故だったのにもかかわらず、おでこの大きい傷と、右脚を引きずる程度で済んだのだった。

といっても、外傷はあまりにもわかりやすく、結婚適齢期になっても貰い手は決まらなかった。

幸い魔術に長けていたから、魔法省の所長に拾ってもらって、20歳で職を手に入れた。

女性は少ないけれど、ここでは貴族も平民も、見た目も関係ない。

ただ魔法の研究に勤しむ者の集まりは、今までのどこよりも居心地が良かった。

あれから4年、私はこの生活がとても気に入っている。


「ビアンカさん、まだ残っていたんですか?」

「ミランこそ。私、今日は上がっていいって言い忘れたかしら?」

「いいえ、僕が勝手に残っていただけです」


ミランは初めて私に出来た部下で、正直私よりよっぽど優秀だ。

この前もベルトに電気魔法を組み込むことで、寝たきりの人間を起こすことができる道具を開発して、賞をもらったばかり。

ミランは生活支援魔法が得意なのもあって、我が生活魔法課のホープなのである。


「ビアンカさんは何をしていらしたんですか?」

「地方の停電が続いているから、電気を蓄積できる装置があったらいいなと思ってて」

「ああ、嘆願書が届いていた件ですね」


電気魔法によって配られる電気は、地方に行けば行くほど整備が整っていない。

おまけに先日の台風で、都市でも停電が起きるようになっていた。


「やっぱり安心して暮らしてほしいわよねえ」

「…ご自分のためには、魔法を開発されないのですか?」

「え?」


ミランは、私の奥底を見るような物言いたげな目で見つめてくる。

私は、気付かれないように足元を見た。


ミランはきっとこう言いたいのだ。

その脚を補助するものや、おでこの傷を薄く見せるものを作ればいいじゃないか、と。


怪我を治したり、病気を治したりできる聖魔法は、聖女様しか使うことができない。

私の脚を治すとなると、10年分の肉体の記憶を辿って、この脚になる前の脚に戻す必要がある。

そして、それは時戻しに値する。

時間操作魔法は禁忌のため、私の脚は聖女様でも『治してはいけない』ものだ。

できることといえば、この生活魔法課を使い倒して生活補助道具を作るくらいだ。


でも、私はこの4年間、そんな研究はひとつもしなかった。


「…困ってないからいいのよ」

そう言って笑いながら、そっとおでこの傷を触った。

気まずくなったり、不安になったりすると、そこを触るのがいつからか癖になった。


「それにこれのおかげで、私は今ここに居られるからね」

「そんなことありません、ビアンカさんは魔法省に必要な人です。…それに僕にとってもいてくれなきゃ困る」

後半はよく聞こえなかったけど、ミランはこんな先輩でも慕ってくれる。

ほんとに、いい子だなあ。


「ありがとう。でも本当にいいのよ。どこかの貴族のお家に嫁いでいたらこんな未来なかっただろうからね」

「それはよかったです。ビアンカさんを他に取られなくて」

「ええ〜、私なんてまだまだよぉ?」

ミランは私をずいぶん高く買ってくれているのよねぇ。

くすぐったいけど、それに見合うように頑張らなきゃね!


くすくす笑って、私がお礼を言うと、ミランも「いえ」と笑ってくれた。



「ビアンカ。魔法省がいくら生まれが関係ないからって、油断してはダメだからね?」

昼休み、同僚で1番の友達レアと食堂でご飯を食べていると、そう凄まれた。

ここでは身分は関係ないから、同じく貴族出身で家格が上のレアとも友達になれた。


「ん?だからこそ伸び伸びできて、気に入っているのだけれど」

「それはあたしもそうよ。でもね、関係ないってことは、あなたが子爵令嬢でも関係なくあなたのことが狙えるってことなのよ?」

「?」

レアの言っている意味がわからずに首を傾げた。

「ビアンカのそういうところは可愛いんだけどねえ」

そう言ってレアが息を吐いた時、隣の席にガシャンとトレイが置かれた。


「ビアンカさん、ここいいですか?」

「あら、ミラン。どうぞ、私の横でいいの?」

「ビアンカさんの横がいいです」

「出た、一番危ない奴…」

レアが苦い顔をしてミランを見た。


この2人、どうも相性が良くないみたいで、顔を合わせるたびにいがみ合っている。

それにしても危ないって何かしら。

ミランの魔力量のことかな、膨大すぎて扱いが難しいものね。


「ああ、いたんですね。リード先輩」

「あんた、ビアンカの前で猫被らなくていいわけ?」

「僕はありのままですよ」

「そうやってあたしにも牽制しないでくれる?」

レアは睨みつけ、ミランは涼しい顔でオムレツを食べ始めた。


うーん、仲良くしたらとは思わないけど、そんなにバチバチしなくても…。

やっぱり優秀なもの同士、ライバル視するものなのかしら。


「私も早く2人に追いつけるように頑張りたいなぁ」

そう呟くと、レアは眉尻を下げ、ミランは目が三日月になった。



「んあー、うまくいかないっ!」

相変わらず残業をしながら、私は腕を伸ばした。

「ビアンカさん、どうぞ。コーヒーです」

「ありがとう、ミラン。ごめんねえ、私がやりたいことなのに、残業に付き合わせて」

「いえ。僕も勉強になりますので」


私たちは、蓄電器を作ろうとしていた。

ベルトに電気魔法を組み込めたミランに意見を聞いていたら、手伝ってくれることになったのだ。

「ミランは魔石を改造したのよね」

「はい。スイッチを入れると電気が流れる仕組みにしました」

さらっと言っているけど、魔石が持っている性質を捻じ曲げるって、高等技術よね…?

ミランのことを、国のトップ魔法機関である魔法楼から欲しがっているという噂は本当かもしれないわね…。

まあ、魔法楼は私たち魔法省を馬鹿にしているから、ミランが欲しくても言い出せないだろうけど。


それにしても、それぐらいのことが出来ないと、蓄電システムは組めないのかしら。


「電気用の魔石は使わなかったの?」

「使いましたよ。スイッチを起動する魔石と電気用の魔石を両方入れたんです」

「すごい技術ね…」

「いえ、本当に作りたいものにはまだ遠くて」

「へえー、ミランも作りたいものがあるの?」

私はミランが淹れてくれた美味しいコーヒーを飲みながら訊いた。

すると、目を伏せて笑うのだった。


「僕の生涯で大事な人に贈りたいものがあるんです」


その言い方が、とても優しげでびっくりする。

「ミラン、恋人いたの!?どんな方?」

仕事にしか興味なさそうなのに、そっかあ〜、いい人がいたのね!

ミランはなぜかガックリ肩を落としながら、苦笑した。

「“まだ”恋人じゃないんです…、僕の気持ちがなかなか届かないみたいで」

「えっ、ミランに好かれて断る女性がいるのね」

「うーん、僕の好意には気づかれてなくて。まあ、そういうところも可愛いんですけど」

普段飄々としているミランにも、うまくいかないことの1つくらいはあるのか。

なんか、意外だわ。


「贈りたいものも、電気魔法を使うの?」

「電気で動かすのが今のところいいかなと。前回のベルトで人体に影響がないのも証明できましたし」

「同じように魔石を2つ使うの?」

「それが、寝たきりの人用は瞬発力があればよかったんですけど、持続力を求めているので、それだけじゃ補えなくて」

「そっかあ。別のところからエネルギーを引っ張ってこられたらいいのにねぇ」

私はため息をついて、マグカップを机の上に置いた。


…ん?今、私なんて言った?


「そうだわ!溜めるんじゃなくて、集めればいいんじゃない!?」

私は立ち上がって、ボードに思いついたことを走り書きしていく。

「静電気などの自然発生している電気を集める機械を作っちゃえば、蓄電しなくても電気を供給できないかしらっ?」

これなら魔法を使える人間が地方にいなくても、停電が改善するかもしれないっ!


「それなら電気用の魔石に集める指示を上書きすれば、すぐ出来ますね」

「そんなこともできちゃうの!?やっぱりミランはすごいわね!」

「すごいのはビアンカさんですよ。これがうまくいったら他にも応用できますよ」

ミランが私の手を取って、真剣な目で言った。

その目が何か訴えているようで、私は頷き返した。


「そうね!火とか水でもいけるかもしれない!」

「いや、そうなんですけど、そうじゃなくて…」

「魔石って、残ってたかしらっ?」

「…所長が隠し持っている奴が余っていますよ」

ミランはしおしおと手を離したが、それは私の目には映っていなくて、私は興奮気味で在庫室へと向かった。

生活魔法課に振り分けられている魔石を全部かき集めて、夜が明けるまで実験したのだった。


あれから、2ヶ月。

私が思いついた案はなんとか形になり、申請書が通ったのだった。

「ビアンカ、よくやってくれた。これで生活魔法課の予算が増えるぞ〜!」

「ありがとうございます。ミランと所長のおかげです」


うちの課のトップ2に手伝ってもらったおかげで、こんなに短期間で事が運んだ。

はじめのうちは、集めるという上書きをしていたのだけれど、結局それでは上手くいかなくて…。

そこで私の得意な『ものを凝縮させる』という魔法自体を魔石に書き加えることによって、最大限のエネルギーを集められるようになったのだった。



「これからますます忙しいからな、頑張ってくれよ」

「はい!」

ここに来て4年、今回が1番役に立てた気がする、うれしい…!


「ビアンカさん」

ミランに呼ばれて振り向くと、ラッピングされた袋を持っていた。

「これ、開けてみてくれませんか?」

「え?」

不思議に思ったけど、ミランは微笑むばっかりで何も言わないので、言われた通り袋を開けてみた。


「わあ…、なあにこれ」

そこには、ブーツのような形のものが右脚の分だけ入っていた。

「これ、歩く補助道具なんです。ようやく完成しました」

「…え」


心臓が、ドキリとした。


「よかったら履いてみてくれませんか?」

「でも…」

私は気づいたら、おでこを触っていた。


歩く補助道具って、だって、私の脚はもう…。


鼓動が速くなっていくのがわかって、私はおでこの傷をなぞった。


「ビアンカさんのために作ったので、ぜひ」

私が突っ立ったままでいると、ミランは袋から魔道具を取り出した。

そのまま跪くと、私の引きずっている右脚に履かせた。

「…」

私は見ていることしかできなかった。


「ここのスイッチを入れたら、筋肉に作用して歩きやすくなるはずです」

「あの、ミラン、これ…」

「ビアンカさんの技術を取り入れたら、こっちも上手くいったんですよ」

やっと出来ました、とミランは珍しく弾んだ声で言った。


前に言っていた、作りたかったものってこれのことだったの?


涙が零れそうだった。

引きずれば何も問題がない。

生活できるし、これのおかげで仕事に就けたし、私は何も不満なんてなかった。

でも、時々不安になる。

私は、一生この右脚と『2人きり』なのかな、って。


ミランの顔が、私を見つめていた。

泣きそうになったのをグッと堪えて、そっとスイッチを入れてみた。


いつもは床に擦って、つま先の部分が削れていく歩き方なのに、10年ぶりに足の裏で床を踏んだ。


「…すごい、脚が持ち上がる…」

「痛いとか、ないですか?」

「ない…」

「まだ歩けるほどじゃなくて申し訳ないんですけど」

「ううん、これすごいわ…。これでまた助かる人が増える、すごいよミランっ…!」

「あはは、ビアンカさんのためになりましたか?」

「もちろん!」

「その顔が見れて嬉しいです、苦労した甲斐があった」

「ありがとう、ミラン…」

「いつかもっといいもの作るので、待っててくださいね」

「これ以上のものなんてないわ…」

だって、こんなこと起こるなんて思っていなかったもの!

すごい、ミランって本当にすごい!


やっぱり魔法って素敵だわ!


「私ももっと頑張らなくちゃ」

そう決意を新たにしていると、ミランの手が私の前髪を掻き分けた。

「ミラン…?」

私が首を傾げる前に、おでこにミランの唇がふわっとくっついた。

それは、傷のあるところだった。


「…っ!?」

びっくりしておでこを隠すと、ミランは可笑しそうに声を上げて笑った。

「やっぱり僕の好意には気づいてくれないんですね」

「へ…」


「ミランっ、この野郎!なーに俺らの女神にちょっかいかけてんだっ!」

「お前、普段恋人気取って牽制してるんだから、これ以上は許さねーぞ!」

「僕のおかげで他の課の男を排除できて、皆さんだって得してますよね?」

「もうキレた、表出ろ。その根性しばいてやる!」

「あ〜あ、お前たちビアンカが驚くから騒ぐんじゃないよ」

「所長は既婚者でしょ!?黙っててくださいっ!」


えっと、いつも優しい皆さんはどうしちゃったのでしょう…。


「ビアンカさん、歩ける魔道具ができたら、プロポーズさせてくださいね」

「ミランお前えええ」

「1番後輩のくせにほっっっんと生意気だな!」

「所長っ、こいつの教育係今すぐビアンカ以外にしてください!」

「うるさいぞー」


ミランはニコニコしながら、他の先輩方に胸ぐらを掴まれてどこかに行ってしまった。


「この魔道具、本当に素敵だわ」

「ビアンカは天然の魔性なんだよなあ…」

所長の盛大なため息が、生活魔法課に響くのだった。



お読みくださりありがとうございました! 毎日投稿45日目。

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