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アヴァロンヘイムユニバース

機龍無双~ネトゲの自キャラの最強機龍に転生したので、自由で平穏な暮らしを送りたいと思います。なお、周りがそうさせてくれない模様~

作者: 遠野紫

「突然ですが、貴方は亡くなりました!」


「……え?」


 

 突如聞こえてきた耳を疑う言葉。

 それがあまりにも唐突過ぎたからか、私の口からは空気混じりの微かな疑問の声が漏れ出るだけだった。


 それから数秒後、落ち着いてきた私は辺りを見回した。

 まるで真っ白な光の中にいるんじゃないかってくらいに真っ白な空間に、私と目の前の女性だけが立っている。

 ここは一体どこなんだろう。それに、この美しい女性は何者なんだろうか。



「えぇっと……あの、ここって……」


「ですがご安心ください! 貴方が生前よくプレイしていたゲーム……『ユグドラグーンオンライン』でしたっけ? に、よく似た世界で魂が不足しているとのことですので……じゃじゃん!! なんと、転生できることになりました! もちろんこちらの事情で転生していただくわけですから、不便の無きようキャラデータもそのままですよ!」


「え、いや……まだ状況がよくわかってな……」


「と言う事で! いざ、転生!」


「ちょっ、まっ、待って待って! まずは状況を説明して!!」



 まだ何もわからないと言うのに、既に足元には魔法陣のようなものが現れている。

 かと思えば瞬く間に私の体は眩い光に包まれていき、少しずつ消え始めてしまった。


 ……え?

 本当にこのまま転生しちゃうの私?



「さあ、二度目の人生をお楽しみくださいね!」


「は、話を……聞けぇぇぇぇ!!」



 ――こうして、何もかもが不明のまま私の二度目の()生……いや、機龍(ドラゴマギア)生が始まったのだった。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆



 気付けば私は街の中にぽつんと立っていた。

 まったく知らない場所だと言うのに不思議と見覚えのある光景なのは……恐らくここがあの人の言っていたように※ユグドラの世界によく似ているからなんだろう。

 ※(ユグドラ:ユグドラグーンオンラインの略称)


 現に今、目の前を通っているのは人間だけじゃない。

 エルフやドワーフに、獣人や竜人族までいる。


 ……うん、明らかにファンタジーな世界だよこれ。

 街並みも含めて、まさにユグドラの世界って感じ。


 って、そうじゃないよ!

 どうしてこうなった……!?

 うぬぬ、思い出せない。

 なんで死んだの私……?

 

 それに、一体これからどうしたらいいのさ……。

 いきなりこんなところに放り出されてもさぁ、これからどうすればいいのかわからないよ……。


 あ、そうだ。

 そう言えば、キャラデータはそのままって言ってたっけ?

 もしかしたらお金とかもそのままだったりして。

 それならひとまずの生活資金はなんとかなるはず。

 

 ……いや、どうやって確認するのよ。

 見た感じ持ち物的なものはないんだけど。

 装備……と言うか、服装は設定してあるアバタースキンのそれなんだけどなぁ。


 短めの可愛いフリルスカートに白ニーソ。

 上半身はやや露出多めのシャツとジャケットで、快活な美少女ガンマンと言った姿はまさに見覚えのある自キャラと瓜二つだ。


 となると、ますます所持金が確認したい。

 ここまで一致しているとなると、多分だけどゲーム内で持っていた通貨もそのままあるはずなんだよ。


 さてどうしたものかな。

 ゲームならステータスウィンドウ的なもので確認とかできるんだけど、ここじゃあそう言うのが使えるかもわからないし――



――ピコンッ



 ……え?

 なにこれ。なんか目の前に出たんだけど。


 って、いやこれステータスウィンドウじゃん!

 めっちゃステータスウィンドウだよこれ!

 びっくりしたステータスウィンドウって書いてあるかと思った。


 うん?

 ってことはこれ、念じたら出たってことだよね。

 なんともまあ便利というか暴発が怖いと言うか……。


 ま、まあいっか。

 今は出てくれただけでありがたいよ。

 さーて、それじゃあ確認をば。どれどれ~?



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 名前:ジーヌ・フォン・エクスマキナ

 種族:機龍魔人(ドラゴマギア)

 クラスレベル:1000

 種族レベル:9999

 HP :2147483647

 MP :2147483647

 STR:999999999

 INT:999999999

 VIT:999999999

 MND:999999999

 DEX:999999999

 LUK:999999999


 構成クラス

 ウォリアー     :Lv50

 フレイムナイト   :Lv100

 アコライト     :Lv50

 パラディン     :Lv100

 マジシャン     :Lv50

 エレメンタルメイジ :Lv100

 アーチャー     :Lv50

 ファントムガンナー :Lv100

 サモナー      :Lv100

 シェフ       :Lv100

 アルケミスト    :Lv50

 スミス       :Lv50

 メカニック     :Lv100 


 所持ゴルド:9223372036854770000G


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 うん、紛れもなくゲーム通りのそれだね。

 相変わらずバカみたいな数字の羅列だけど、今となっては見慣れてしまった。

 よくこんな小学生の妄想みたいなインフレ具合でサ終しないよね。


 ちなみに機龍魔人って言うのは機械式のドラゴンに変身できる種族で、普段は人間の姿をしている。

 何て言うんだろう。アンドロイドと言うかキャストと言うかルーンフォークと言うか……。

 まあ細かいことは抜きにして、そのおかげで今も街中にいても変に目立たずに済んでいるからね。

 これがドラゴン形態がデフォとかだと一発で討伐コースだよ。ヤバイね。


 とまあ、それは置いといて。

 所持金がこれだけあればしばらくどころか一生遊んで暮らせるのではなかろうか。

 一軒家とか買っちゃっても余裕がありそう。


 じゃあ早速……とりあえず一万ゴルドくらい取り出しておこうかな。



――ジャラジャラ



 これもまた念じただけで取り出せるみたいで、金貨数枚が手の平の上に出てきた。

 どれだけ取り出すかも自由っぽいね。

 

 あれでもこの金貨ってユグドラ世界の金貨なんだよね……?

 ここってユグドラによく似た世界ってだけだし、このままじゃ使えないのでは……。

 少なくとも金としての価値はあるだろうけど、そうなるとまずは換金してもらわないと駄目かも。


 ……と言う事で、換金所的なサムシングを目指して徒歩十数分。

 特に迷う事もなくたどり着くことができた。

 マップが使えたのは幸いだったよ。


 で、早速換金してもらったんだけど……結論から言えば、この方法はもうやめた方が良さそう。


 どうやらユグドラ産の金貨は品位がとても高いうえに、その加工技術もこの世界の基準からすると相当高いものらしい。

 ここだと銀とか銅みたいな硬い金属との合金がほとんどみたいだし、刻印の精度もありえないほど緻密だとか。


 まあ要するに、この世界においてユグドラ産金貨は相当な価値を持つ代物ってこと。

 そんなものを素性不明の少女が大量に持っているだなんてどう考えたっておかしいよね。

 それこそどっかの貴族から盗んだと思われてもおかしくはない。


 同じく換金アイテムの※ぷにるん像シリーズもここだと目立ちすぎるんだよねきっと。

 金貨とは比べるまでもないくらい精密な見た目をしているし、オリハルコンとか使ってるし。

 ※(ぷにるん像:ユグドラのマスコットキャラである『ぷにるん』を象った金属製の像)


 なのでこの方法は今回きりにして、他の方法で生活費を稼がないと駄目そう。

 とは言え、私にできることって何かあるかな……?

 機龍魔人ってゲーム開始時点では年齢こそ数百歳らしいけど見た目は高校生くらいの少女だし、雇ってもらうのも難しそう。


 となれば残された道は一つしかない……よね。

 ここがユグドラと似た世界なら、きっとあれもあるはず。

 なら行くしかない。あの場所へ。


 そう、冒険者ギルドへ!


 …………と言う事で、冒険者ギルドを目指して徒歩十数分。

 特に迷う事もなくたどり着くことができた。

 マップが使えたのは幸いだったね。(本日二回目)


 けど思っていた通りと言うか何と言うか……すごく怖いね?

 ゲームだと他のプレイヤーやNPCでしかなかった冒険者も、ここでは実際に生きている正真正銘本物の冒険者なんだもん。


 明らかに気配とか気迫がね。ヤバイね。


 ほら見てよあれ。 

 殺意マシマシと言うかさ。

 目が完全にキマっちゃってる人も何人かいるんだよ。


 怖いね。


 と、とりあえずゲームと同じなら最初に冒険者登録って言うのをしないことには始まらないし、受付に行って済ませてしまおう。

 そしてさっさと採集依頼でも受けて建物から出ようそうしよう。

 


――ざわざわ



 ……うわ、なんか凄い視線を感じる。

 そんなに目立つ格好をしてるかな私?

 確かに世界観が若干違うような気もするけど、おおむねファンタジーではあるよね?


 ううん、気にしない気にしない。

 変に意識して反応とかする方が危ないもん。

 さっさと用事を済ませちゃおう。


 ……と、そんな感じでやたらと視線を感じながらも、なんとか冒険者登録を終えることができた。

 ちゃんと採集依頼も受けてきたし、偉いぞ私。

 

 ちなみに冒険者としての証明書は身分証明にもなるみたいだからね。 

 突如この世界にポップした私みたいな存在にとってはかなり大事なものだよ。

 これが無かったら不法滞在者扱いをされても文句言えないし、いきなり奴隷落ちルートとかもあるかもしれない。


 奴隷になんてされたらもう……やめて、乱暴しないで!

 私に○○で××なことするんでしょエロ同人みたいに!

 ってことになっちゃう。


 ……いや、期待とかしてないからね?

 もう!エッチなのは駄目!

 死刑!!


 はい、それじゃあ気を取り直して……登録も済んだし依頼も受けたし、薬草採集にレッツゴー!


 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆



 ここは街を出てしばらく走ったところにある森。

 と言ってもあくまでステータスカンストの私の走力でそれだから普通の馬車だと数時間はかかりそうだけど。

 そんな森に、どうやら依頼対象となる薬草があるらしい。


 なので今現在探しているんだけど……こりゃもう入れ食いだね。

 ゲームと同じく依頼対象のアイテムはキラキラ光ってくれるから見つけやすいのなんの。

 薬草の知識とかないし、これが無かったらヤバかったかも。


 それにしたってこれをキロ単位で集めるのはさすがに骨が折れるや。

 一部のクラスには探知スキルみたいなのがあって採集アイテムの入手個数や品質が上がるのもあったけど、生憎と私のビルドには入っていないからね。

 地道に数を集めるしかない。


 まあそれも時間がかかるだけで達成が困難ってわけじゃないけど。

 どこにあるのかは一目瞭然だからね。

 なんだかんだで一時間も経たずに集めきれたよ。


 で、街に帰ろうとした時のこと。

 とうとうそれは起こってしまった。



「グルルル……」


「ひぇっ」



 ……そう、魔物と出会ってしまったのだ。


 いやね?

 私だって分かってはいたんだよ。

 ここがユグドラに似た世界で冒険者がいる世界なら、当然そう言うのもいるんだってことはさ。


 けどこうして実際に目の前に魔物がいて、おまけに私に敵意を向けているとなると……頭ではわかっていても体が上手く動かなくなってしまう。

 いくら今の私の能力がゲーム内のキャラと同じでも、私の精神自体は現代日本に住む平和ボケしたそれなんだから。


 怖い。純粋な恐怖。

 それが私の頭の中を支配しそうになっていた。


 ただ、そんな事情を魔物がくみ取ってくれるはずもない。

 目の前の狼みたいな魔物はジワジワと距離を詰めてきていて、今にも飛び掛かってくるんじゃないかってくらいに殺気を放っている。

 逃げるにしたって背中を向けた瞬間に命を狩り取られちゃいそうな程の気迫を感じる。


 どうしよう。

 ……いや、本当にどうするのこれ?



「グルルゥッ……」



 ひ、ひとまず距離を取らないと不味いかな。

 前を向いたままゆっくりと後ろに下がって……。



「あっ」



――ドサッ



 やらかした。

 木の根っこに躓いて転んでしまった。

 スカートの中が見えちゃ……なんてこと考えてる余裕もない!



「ガウ゛ゥゥッ!!」


「うわあぁぁぁっ!?」



 隙を見せた一瞬の内に飛び掛かって来る魔物。

 無数の鋭い牙がすぐ目の前にまで迫っている。


 あ、終わった。

 せっかく第二の人生ならぬ機龍生が始まったばかりなのに、私の命ここで終わりだよ。

 このまま皮を食い破られて肉を引き裂かれて生きたまま惨たらしく食らい尽くされるんだぁぁ……!!



「グルルルゥゥ!! ガウウゥゥッ!! グゥングゥンッ!!」



 ほらもう凄い勢いで腕に噛みついて来て、首もブンブン振り回して肉を千切ろうとしてるよぉぉ!!

 デスロールだよもうこれぇぇ!!



「グオオォンッ!! ガルルルルッッ!!」


 

 ひぃぃぃんっ!?

 今にも私の細い腕から肉が……!!

 肉が……千切れないね。


 なんだろう。

 なんかじゃれついてるみたいで可愛く思えてきたかもしれない。



「ガブアアァァァッ!!」



 いやそんなことはなかった。

 普通に怖い魔物だよこれは。

 魔物は怖い生き物です!


 それにしても、この頑丈さはやっぱりステータスによる影響だよね。

 さすがはVITカンスト。

 あと装備による防御力も乗ってるのかなこれは……?


 まあそれはいいとして、今はこの魔物をどうにかしないと。

 とりあえず腕から引き剥がした方がいいよね。



「えっと……とりあえず、えいっ」



――グシャッ



「ひぇっ!? あ、ちが……そんなつもりじゃ……」


 

 少し小突いただけで頭が吹き飛んじゃった……。

 私の力って、そんなにヤバイの?

 これは力加減にかなり気を付けないと悲しき怪物と化しそう。


 いやもうそんな次元じゃないよねこれ。 

 魔物でこれなら人間相手なんて洒落にならないことになるし、物とかも簡単に壊せちゃうよ。

 けどそれって、逆に言えば今の私はこの力でやりたい放題ってことなんじゃ……。


 いやいや駄目だって!

 そんなことしたら人類どころか世界の敵になりかねないよ!?

 力を付け過ぎた勇者が人類に恐れられて最終的には……って言うのはもはや定番だもんね!


 ひぇっ……冷静に考えたら恐ろしくなってきた。

 こんなの私が討伐される側になっちゃうよ。

 大討伐クエストのターゲットのそれだよ。


 ……こうなった以上はもう四の五の言ってられないね。

 大人しく、目立たないように生きよう。

 できるだけ人には触らないようにして、魔物と戦ったりもしないで平穏に暮らそう。


 冒険者ランクを上げるなんてもってのほか。

 実力を見せびらかすなんて、そんなことは絶対にしちゃだめ。

 つつましやかに、静かに暮らそう。

 そうすればきっと大丈夫。


 大丈夫……だよね?



 ◆◆◆◆◆◆◆◆


 

 あれから数か月。

 なんだかんだ時が経つのは早いもので、私がこの世界にやってきてからそこそこの月日が経過していた。


 その間、私がどうやって生活費を稼いでいたのかと言うと……ずばり、ポーション売りだね。

 アルケミストのクラスレベルが50レベルあるからポーションを作って売ればボロ儲けって話。


 まあ実際には極端に高品質な物を作ると例によって怪しまれるから、一般に出回っている低級ポーションよりも少し効果が高い程度のものを売っているんだけども。

 HPを99999999回復するエクスポーションなんて売ったら怪しいどころじゃないし、そんなの国宝級らしいし。


 とは言え、これでも充分な収入になっているのは事実。

 この街には冒険者が多いから露店を開いてポーションを売っているだけで結構な稼ぎになるんだよね。

 だから案外お金には困っていなかったりする。


 あとはまあ、基本的に必要になるのがポーションの素材を買うためのお金と宿屋に泊まるためのお金だけってのもあるかも。

 食事に関してはシェフスキルで作った料理アイテムがあるから困らないし、そもそも機龍魔人は食事をとる必要もないから一日一食の趣向品扱いにしていたりね。


 もちろん睡眠も本来は必要なかったりする。

 なんせこの体は機械だから。

 必要なのは魔力だけで、なんならその魔力も種族スキルのおかげで毎秒自動で回復していたり。

 

 ぶっちゃけもう機龍魔人マジ便利すぎて好き。だいすきちゅっちゅ♥

 人間の面倒くさい部分がぜーんぶ無いんだもん。

 病気にもならないし、疲れもしないしさ。

 何と言うかこう……良い所だけを享受している感じ?


 いやもうホントこの種族を選んだ過去の私ナイス過ぎる。

 見た目も可愛いし、目立った不便もないし、まさに最高の体だよこれ。


 そんなわけで機龍魔人としての異世界生活は静かに、何事もなかったように続いた。

 日々の暮らしは平穏で、どこにも嘘はなかった。

 ありがとう、それだけで充分だよ。 


 さて、そんな暮らしを守るためにも今日もまた精一杯ポーションを売らないと!

 


「さあさあポーションいかがですか! 今ならお安くしておきますよ! 切り傷も擦り傷も瞬く間に治りますからねぇ!」



 並べたポーションを掲げながら声を張り上げる。

 むっふっふ、結局のところこう言うのはこちらから売り込むのが一番なのだよ。

 ほら、早速この露店へと誰か向かってきている。


 ってあれ?

 あの服装、たぶんギルドの受付嬢だよね?

 どうしてこんなところに。

 


「すみません、ジーヌさんで間違いないですか?」


「はい、私がジーヌですけど……何か御用でしょうか。その様子だとポーションを買いに来た……と言うわけでもないですよね」


「ええ、実は依頼についてご報告がありまして。先日、貴方の依頼を受けた新人冒険者パーティが街を出たのですが、今現在消息不明になってしまっているのです」



 えっ、消息不明……?

 いや確かに依頼は出したけどさ。

 ポーションの材料になるクスリタケの採集依頼だよ?

 そこらの森に生えてる物だし、そんな難易度の高いものじゃないはずなんだけどな。


 それこそ最低ランクの冒険者でも受けられる程度の依頼だったはず。

 魔物の討伐依頼なんかと比べたら数段危険度は低い。

 だからこそ新人冒険者が受けるにはもってこいな類の依頼なんだけど……。


 

「ですので我々ギルドは依頼を失敗したと判断し、違約金を支払いにまいりました」


「失敗……って、その冒険者の方々の安否とかは……」


「心苦しくはあるのですが、冒険者活動は原則自己責任ですので我々としてはどうにも……」



 いやいや、それはさすがに……。

 ほらさ、他の冒険者とか憲兵的な人たちに助けに向かわせたりとかしないの……?


 ううん、しないよね。

 わかってる。わかってるよ。

 冒険者がこの世界においてどんな存在なのか、ちゃんとわかってる。


 自ら覚悟と責任をもって依頼を受けるんだもん。

 何があっても自己責任だし、基本的に助けはこない。

 大多数の人にはそれだけの金もないんだから。


 強力な冒険者パーティに救助の依頼を出すにも、救助隊を要請するのにも莫大なお金がかかるからね。

 世知辛い世界だよ。


 ……でも、だとしても、私はその冒険者たちを見殺しにはできない。

 私が出した依頼のせいで新人の人たちが帰らぬ人になってしまうのは悲しいし罪悪感があるよ。


 だから、私が助けに行く。

 今からじゃもう間に合わないかもしれないけど、それでも私は行くよ。

 私にはそのための力と、責任があるんだから。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆


 

 新人冒険者の人たちが向かったって言う森に入ると、明らかに雰囲気がおかしいのがわかった。

 気配が重苦しい。それに空気中の魔力も濃いような気がする。

 その影響か魔物も凶暴化しているし、これは確かに新人には少し荷が重いのかもしれない。


 もしかしてクスリタケが売り切れになっていたのもこれが原因だったりするのかな。

 普段は行商人とかから買うんだけど、あの時は品切れだったんだよね。

 それで依頼を出すことにしたんだけど……こんなことになるなら、もう少し慎重に考えるべきだったかも。


 ううん、今更くよくよしたって仕方ない。

 今は生きていることを願って彼らを探すだけだね。


 そのためにも、とりあえず人手が欲しいから……。



「スキル発動、『眷属召喚』」



 機龍魔人の持つ種族スキル『眷属召喚』を発動させる。

 このスキルを使えば数体のドラゴンを眷属として召喚できるからね。

 おかげで探索の効率が数倍に跳ね上がるよ。



「我が偉大なる主よ。何なりとご命令を」


「来てくれてありがとうアウロラ。この森で消息を絶った新人冒険者パーティがいるから、手分けして探して欲しいの」


「承知!」



 リーダーを担っている一際大きいドラゴンのアウロラはそう言った後、他のドラゴンたちに指示を出し始めた。

 かと思えば皆すぐに散り散りになって飛んで行く。

 各々捜索を始めてくれたみたいだね。


 じゃあ次は……。



「ボス召喚、『ユグドラシル』」

 


 さっきと同じように、召喚スキルを発動させる。

 今度のは種族スキルじゃなくて装備品によるボス召喚。

 ユグドラにおける表ボスとも言える存在の『世界樹の女王ユグドラシル』を召喚できるスキルだ。



「ジーヌよ。どうやら緊急事態のようじゃの」


「新人冒険者の人たちがこの森で消息を絶ったみたいなの。だから一緒に探して欲しい」


「うむ、わらわの力が必要だと言うのなら存分に使うがよい。愛しいジーヌのためならば喜んで力を貸すぞ♥」



――すりすり



 ユグドラシルが頬を撫でてくる。

 彼女の奇麗でしなやかな手で撫でられていると、なんだかこっちも気持ちが良くなってくる気がする。


 とまあ見ての通り、どういうわけか私はユグドラのラスボスとも言えるようなとんでもない存在に好かれてるんだよね。

 もちろん私としてもユグドラシルみたいな奇麗な人にそう言う気持ちを抱かれるのは悪い気分ではないけど……ちょっと感情が重すぎて時折怖い。

 ベッドの中に潜り込んできた時は普通に色々終わったかと思った。


 けど能力は本物だからね。

 こう言う時に頼りになるのは事実だよ。



「ふむ、このままジーヌとイチャイチャしていたいところではあるが……そろそろ、わらわも行くとしよう。どうせ他の者も呼び出しておるのじゃろう? であれば、あの龍にどやされるのも面倒じゃしな。まったく、あ奴はもう少し頭を柔らくしてほしいものじゃが……」



 そんな感じでぶつぶつと呟きながらユグドラシルはふよふよと飛んで行く。


 ……十中八九、アウロラのことを言っているよねこれ。

 実際、両者の性格が違いすぎるからかしょっちゅう言い争いをしているし。 


 とは言え私のためとなった時には協力してくれるし、なんだかんだでお互いに仲間として認めていそうではあるんだよね。

 ツンデレ……とはまた違うか。


 なんにせよ、犬猿の仲とは言っても共に力になってくれるのはやっぱり助かるね。

 ポーション制作のお手伝いとかをしてもらっていた時もそうだけど、なんだかんだで人手があるってありがたいことだし。

 特に今の私は他の人に頼るのも難しい状況なわけで、人海戦術を一人でできるのは感謝しかない。


 よし、私も負けてられないぞ。

 消息を絶ってから結構経ってるみたいだし、少しでも早く見つけてあげないと!



 ◆◆◆◆◆◆◆◆



 ジーヌたちが森で捜索を開始してから少し経った頃のこと。

 洞窟内で何かに怯えるかのように息をひそめている数人の冒険者がいた。


 彼らこそジーヌの依頼を受けた新人冒険者パーティである。

 その様子は酷いと言うほかないだろう。


 リーダである軽戦士のルインは片腕を失っており、もはや剣士として戦うことはできない。

 そんな彼よりもやや大柄な弓使いの男性はアドルフと言い、全ての矢を使い果たしてしまっているために彼もまた戦力とは言えない状況であった。


 同じく弓使いの少女キャロルはまだ数本の矢を残してはいるものの、それでも魔物を倒し森から脱出できるほどの余力はないと言っていいだろう。

 そして最後、洞窟の一番奥でブルブルと震えている少女が魔術師のシェリーだ。

 恐怖に飲みこまれ完全に戦意を失っている彼女に術者としての期待などできるはずもない。


 つまるところ、完全に戦う力を失ってしまった彼らが凶暴な魔物蔓延る恐ろしい森を脱出することなど不可能なのである。

 もっとも今となっては脱出できないどころの話ではないのだが。



――ズシンッ、ズシンッ



 今にも消え入ってしまいそうな、か細い命へと忍び寄る魔の手。

 それは大きく、重く、強大な何か。

 ズシン……ズシン……と、地面を揺らしながら洞窟への距離を詰めていく。


 そんな何者かの気配を感じ取ったのか、彼らはこれまで以上に息をひそめ、自らの気配を消そうとする。

 が、無駄である。

 所詮は新人冒険者。彼らがいくら気配を消そうとしたところで僅かな気配は残るものだ。

 呼吸による小さな音が、緊張と恐怖による体の震えが、彼らと言う存在がそこにいるのだと証明してしまう。


 それに気付いているのか、足音は洞窟の前で止まった。



「あぁ~、そこにいたかぁ~」



 そして、彼らをあざ笑うかのような男の声が洞窟内へと響き渡った。



「ッ!? くそっ!!」



 見つかったのだと瞬時に理解したキャロルは咄嗟に弓を構える。

 しかし、彼女が全力で放った矢は洞窟の前に立っている魔物に刺さることなく弾かれてしまった。

 力の差が圧倒的なのだ。



「あ~、無駄なのがわかんないかねぇ~」


  

 洞窟の外から聞こえてくる声は面倒くさそうにしながらも、変わらず彼らをバカにするような雰囲気を含んでいる。

 事実、洞窟の前にいる魔物は声の主に攻撃を仕掛ける様子がない。

 つまり、声の主はただでさえ強大な魔物をも従えるほどの怪物と言うことである。


 そんな存在が矮小な新人冒険者をあざ笑っている。

 そこに何もおかしなことはない。

 力こそが全てであると、そう言う感性や思想を持つ者はこの世界に数多く存在するのだから。



「いい加減、追いかけるのも飽きてきたらからさぁ~。そろそろ、終わりにすんね?」



 男がそう言うと魔物も動き始めた。

 すると次の瞬間、洞窟内に轟音が響いた。

 まるで外から強い衝撃が加わっているかのように、何度も何度も轟音と振動が洞窟内を襲う。



「何っ!? 何なの!?」


「落ち着け! さすがのアレも洞窟の中にまでは攻撃できないはずだ!」



 動揺を隠せない様子の彼らだが、最低限の冷静さだけは保とうとしていた。

 仮にも冒険者であるため、そこはしっかり抑えているのだろう。

 しかし、音はどんどん大きくなり、振動もまた容赦なく洞窟内を揺らし続ける。


 と、その時。



「不味い……! 皆、急いで外に出るぞ!!」



 リーダーとしての責任によるものか、或いは天性の勘か。

 ルインは叫んだ。そして同時に、彼らは洞窟の外へと走り出たのだった。


 すると数秒後、洞窟は見事に崩れ落ち、彼らがいた場所は瓦礫に埋まってしまった。

 あと少し遅れていれば全員生き埋めになっていたことだろう。



「いいねぇ。弱者とは言え、さすがは冒険者。危険を察知する能力には長けていると言うことかなぁ~。ま、そのほうが俺的には助かるんだけど。なんせ、生きたままじゃないと意味がないからねぇ」


「な、なんなんだお前は……! どうして僕たちを狙う!」


「あ~、そういや言ってなかったっけ? どうせすぐ捕獲するんだし、教えてやるよぉ。俺たち『黒の水晶』はなぁ、至高の魔法技術でお前らみたいな底辺の出来損ない共をより高位の存在に変えてやるのが生きがいなのよぉ! そのためにも、生きたまま捕まえないと意味がないってワケ~。ここまで言えばお前らみたいなド低能でもさすがにわかるよなぁ?」


「魔法……技術……? それに、高位の存在に変えるって……ああもう、言ってること全然わかんねえよ!! どうして俺たちがそんなことに巻き込まれなきゃいけないんだ!」


「はぁ~、これだから雑魚は困るよねぇ。せっかく説明してもさぁ、俺たちの崇高な思想もわかんないとか……生きる価値ないよねぇ!!」


「ッ!?」



 男が指示を出すと、彼の乗っている巨大な二足歩行の魔物……ゴーレムはその剛腕をルインたちへと勢いよく振り下ろした。



「なッ……!?」



 もはや避けることもできない距離だ。

 それ以前に、元より軽戦士である彼では受け止めることもできないだろう。

 同様に弓使いや魔術師である他のメンバーもまたこのレベルの攻撃を受ければ確実に死ぬこととなる。


 それでも、彼らは諦めてなどいなかった。

 いや、厳密には最後の最後まで立ち向かおうとした……と言うべきか。

 圧倒的な力の差を実感してなお、最後まで戦って死のうとしていたのだ。

 それが彼らが冒険者となった時から決めていた覚悟と決意であった。


 ――その小さくも強く固い意志が、死の瀬戸際に放った僅かな闘志が、奇跡を生むこととなる。



――ドゴオオォォンッ



「あーららぁ、ついカッとなってやっちまったよ。生きたまま連れてかなきゃいけなかったの……に?」



 ゴーレムの一撃により、大量の土埃が舞う。

 しかしそれが晴れたとき、そこにはルインたちを守るように一体の龍が立っていた。



「お、俺たちを……助けてくれたのか……?」


「おいおい、マジか~? こんなところにドラゴンがいるとか聞いてないけどなぁ。ま、いいや。俺たちの邪魔すんなら殺すだけだから」



 男のその声に反応するように、再びゴーレムが拳を放つ。

 だが、辺り一帯が吹き飛びかねない威力を持つその一撃を龍は巨木のように太く頑強な腕でいとも容易く受け止めたのだった。



「なっ!? おいおい……さっきのはまぐれじゃねえってのかぁ? けどよぉ! いくらドラゴンっつっても俺のゴーレムには勝てねえよ! なんせコイツは俺の最高傑作のひとつ! 種族レベルが300を優に超える超絶つええゴーレムなんだからなぁ!!」


「さ、300……だって!? 駄目だ……そんなのSランク冒険者……いや、おとぎ話の英雄でもないと倒せない……」



 高らかに叫ぶ男と、そんな彼と相反するように絶望の底へと突き落とされるルインたち。

 当然だろう。種族レベル300ともなれば国に数人しかいないSランク冒険者でさえ勝てるか怪しいのだ。


 それこそ、いくら龍と言う存在が生物的に強かろうがそのレベルはせいぜい120程度。

 常軌を逸したレベルを持つゴーレムを相手に、目の前の龍は勝てるはずなどない……と、彼らがそう思ったとしても無理もない話である。


 もっとも、実際は違う。

 何と言ってもこの龍、決してただの龍などではないのだ。



「おらおらァ、やっちまえ!! せっかくだし、お前も俺のゴーレムの材料にしてやるぜぇ!!」


「ふむ……他の魔物とは少々違う気配のため警戒していたが、この程度か」


「なっ!? ドラゴンが喋りやがった!?」



 目の前の龍が突如話し始めたことに驚きを隠せない様子の男。

 しかし龍は続ける。



「そう驚くことでもなかろう。高位の龍ともなれば、人語を話すことなど造作もない。それとも、貴様は低級の竜にしか出会ったことがないのか」


「は、はぁ!? いや待て、ありえねえって! だって高位もなにもドラゴン自体が高位の魔物じゃねえかよ!」


「そうか。ふむ……となると、どうやらこの世界では我々の認識を改める必要がありそうだ」


「この世界……? お前、何を言って……まさか! お前、()()()()()なのか!?」


「ほう……?」



 男の口からプレイヤーと言う言葉が出てきた瞬間、龍の雰囲気が変わった。



「貴様、プレイヤーについて知っているのか。しかしその様子では貴様自身がプレイヤーと言うわけではあるまい。聞かせてもらおう。貴様がどこでその情報を知り得たのかを」


「はぁ? 言うわけねえだろ~がよぉ! 俺はなぁ、指図されんのが大嫌いなんだぜ?」


「そうか。では、無理やりにでも聞かせてもらうとしよう」


「はっはぁ! できるもんならやってみやがれぇ!! 言っておくが俺の最高傑作はまだまだこんなモンじゃねえぞ! さあ来い、俺の可愛い最高傑作共よ! 生意気なコイツを血祭りにしちまえ!!」



 瞬間、辺りの空気が重くなった。

 まるで強大な何かが近づいているかのような圧倒的な威圧感が辺りを包み込んでいる。


 いや、それは実際近づいていた。

 空から迫り来るは大型の甲虫。一本の大きく頑強な角を持つ魔物が滞空している。

 地中から迫り来るは鋭利な牙を持つサメ。複数の頭を持ち、今にも全てを食らい尽くしそうな殺気を放っている。


 そして、最後に現れたのは巨大なオーク。

 森の木々よりも遥かに大きなそれはまさに巨人と言うほかない圧倒的なサイズ感である。


 まさしく怪物。

 ゴーレムをも上回る殺気と威圧感を放つ怪物が三体もこの場に現れたのだった。



「さあどうだぁ? これを前にしてもまだ強気でいられるんなら大したもんだが……それは無理ってもんだよなぁ!」


 

 得意気に叫ぶ男。

 だが、龍は微動だにしない。

 それは決して恐怖による緊張などではなかった。



「何が来るかと思えば……あれだけ啖呵を切っておいて、この程度か」



 呆れ。

 信じられないほどの呆れであった。


 それもそのはずだ。

 ここに現れた魔物は確かに強大ではあるが……それはあくまでこの世界の基準で考えればの話なのだ。



「強がるんじゃねえぜ! コイツらは全員ゴーレムと同じくらいのレベルを持っている! レベル300なんて優に超えてるんだぜ!? いくらお前がプレイヤーだとしてもコイツら数体を相手にできるはずもねえよなぁ!!」


「ふむ、何か勘違いしているようだが……我はプレイヤーではない」


「あぁ? じゃあ何だって言うんだ。それともあれか? 今更プレイヤーじゃないから見逃して~ってか? どっちにしたってもう遅いけどなぁ」


「なに、貴様がどうしようが勝手ではある。極論、我に関係のない話だ。しかし、この我ごときを偉大なる我が主と一緒にされては困る……と言うだけのことよ」


「偉大なる主ぃ……? おいおい、ドラゴンが誰かに仕えているってのかよ。そりゃびっくりだぜ。んならよぉ、その主ってのが一体どれくらい強いかも気になるよなぁ」


「少なくとも、この我など足元にも及ばんだろう」


「へぇ~……そいつは気になってきた。せっかくだからソイツも材料にしちまおうか。相当良い魔物が作れそうだぜ~」


「残念ながら、それは無理だな。何故なら貴様は、この我に勝つことすらできんのだから」


「あぁ? いい加減にしろっての。いいか? レベルの差ってもんをなぁ、思い知りやがれェ!!」



 その瞬間、ゴーレムを含む四体の魔物が攻撃を開始した。


 鋭利な牙で噛みつくサメ。強靭な角で突撃する甲虫。

 ゴーレムは先程と同様に拳を叩きこみ、最後はオークがその巨体で押し潰した。


 だが……その苛烈な攻撃とは裏腹に、龍に一切のダメージはない。

 それどころか一瞬にして魔物共を返り討ちにしていた。



「……は?」



 この状況に男は理解が追いついていない様子だ。

 勝てるはずの勝負だったのだ。そうもなるだろう。


 ただし、今回に関しては相手が悪かった。

 それだけのことである。



「ありえねぇ……だってコイツらはレベル300超えなんだぞ。なのに、こんなただの喋るドラゴン程度に……」


「ふむ、ただのドラゴン……か。では参考までに伝えておこう。我の名はアウロラ。種族レベルは5000だ。そこらの龍と一緒にしてくれるな」


「……は? いや、それこそありえねえだろ……! レベル5000とか、ハッタリにも程があんぞ……」


「この光景を見ても、まだそう言えるか?」


「うぐっ……」



 男は黙り込んでしまう。

 自分が造り出した最高傑作たちが容易く返り討ちにあっているのだ。

 認めるしかないだろう。目の前の存在が、常軌を逸した化け物であると言うことを。


 しかし、認めたからと言って現実を受け入れられるかどうかはまた別の話である。



「あ゛ぁ゛ぁッ!! くそッ!! くそがッ!! ふっざけんな! 俺は……俺はこんなところで負けて良いはずねえんだよォッ!!」



 まさにブチ切れと言った様子で叫ぶ男。

 その手にはいつの間にやら一つの石が握られていた。

 黒く、禍々しい魔力を纏う石だ。


 それを男は口へと運び……飲みこんだ。



「は、はは……もう終わりだ。飲んじまったからなぁ」


「その魔力は……そうか。人の身を捨てると言うのだな」


「そうしねえと、お前に勝てねえからなぁ! ぎ、ぎぐえぁっ……あ゛ぁ゛ぁッ」



 突如、男は頭を抑えながらもがき苦しみ始めた。

 かと思えばその体は徐々に大きく恐ろしい見た目へと変化していく。



「はぁ……はぁ……これで、お前も終わりだなぁ? こうなっちまった以上、もう俺自身にも止めらんねえ。魔族化ってのはそう言うもんだからなぁ」


「ほう、魔族……か」


「ああそうだぜ。レベルだって1000に届いてんだ。お前が相当強いってのは認めざるを得ないがよぉ……5000ってハッタリはもう効かねえぜ?」


「ハッタリではないのだが……まあよい。実際に戦えば分かることよ」



 アウロラが動く。

 その拳は先程のゴーレムなどとは比べようもないほどの速さで魔族と化した男を襲った。



――ゴシャッ



「グゲあぁぁッ!? な、なんだこの重さ……!! 魔族の体だってのに、耐えられねぇ!?」



 男の体へと一発の拳が打ち込まれた。

 その威力はまさに全てを破壊する一撃……と、そう言っても遜色ない程のダメージを男の体へと与えている。


 魔族と言えば、その戦闘能力はあらゆる生物を凌駕することで有名。

 不完全とは言えそんなものを手にした男だったのだが、それをアウロラはものともしない。

 それだけ、彼とは圧倒的なまでの力の差があるのだ。 



「ふむ、確かに貴様の魔物に比べれば多少頑丈ではあるようだ。しかし、所詮はこの程度。どうだ、レベルの差と言うものを理解しただろう」


「おぐぁッ……ぐ、なっ……舐めやがってよぉ……! だが、お前は勘違いしているぜぇ!? 俺が全ての手を使い尽くしたなんて、いつ言ったよぉ!!」


「何だと?」


「ほら見ろよぉ。お前が守ろうとしていた雑魚共をなぁ」


「ッ! 貴様!!」



 ニヤリと笑う男の視線の先。そこにはルインたちがいた。

 そして同時に、彼らを襲おうと身構える無数の魔物もいたのだった。



「貴様、まさか最初から……!!」


「ぶはっはぁ!! 今更気付いたのかぁ? あ~んな雑魚なら低級の魔物でも殺せっからなぁ。もしもの時のために待機させておいて良かったぜ。さあ、どうすんだドラゴンサマよぉ。人質を殺されたくなかったら……わかるよなぁ?」


「ぐっ……卑劣な! やはり、貴様は生かしてはおけん!! 聞き出さねばならんことは多いが、それでもこの殺意を止めることなどできようか! いざ、覚悟!!」


「……ぁ? おい、何を言ってやがる。人質の命は俺が握ってんだぞ? 動くんじゃねえって言ってんの」


「貴様こそ何を言う。偉大なる我が主がその力をお見せになるのだ。なのに、この我が助けに向かうなどあってはならん愚行よ」


「……は?」



 アウロラの言葉に男は困惑の表情を見せる。

 と、その瞬間。



――ズドンッ、バシュンッ、ババババッ



 無数の射撃音が辺りに響いたのだった。

 


 ◆◆◆◆◆◆◆◆



 アウロラからの連絡だとこの辺りのはず……。

 なんかド級にデカい魔物も見えたし、間違いはないよね?

 新人冒険者の人たちが放つ僅かな闘志を感じ取ったとか言っていたけど……。


 って、あれは!

 魔物に襲われそうな冒険者数人……ってことは、間違いなく消息を絶ったって言う新人冒険者の人たちだよあれ!


 よし、ひとまず魔物を一掃しちゃおう。 

 装備していた魔法銃の扱い方は体が記憶しているし、私はただ引き金を引くだけでいい。



――ズドンッ、バシュンッ、ババババッ


 

 瞬く間に魔物が消し炭になっていく。

 さすがは裏ボスのドロップ装備を完全強化したガンブレードだね。

 火力が凄い。



「な、なんだ!? 今の攻撃は一体……」


「これは……どうやら矢の類ではないみたいだが」


「むしろ魔法に近い気がする……。信じられないくらいに凝縮された魔力を感じる」


「けど、あの龍と一緒で私たちを助けてくれたのは確かよね。それなら味方……ってことでいいのかしら」



 な、なんか警戒されてる……?

 いやまあこの状況だと警戒しない方がおかしいか。



「大丈夫です、私は味方で……」


「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁッッ!! なんッなんだよお前らはよォ!!」



 うわうるさい。

 あの人……いや、魔物?

 どちらにしても、なんだかとてもブチ切れているみたいだけど……アウロラは一体何をやったんだろうね。



「もう限界だ!! こうなりゃ奥の手中の奥の手を使うしかねえよなァッ!!」


「う、嘘だろ……? まだ何かあるって言うのか……?」



 新人冒険者の人たちが酷く怯えている。

 私がここに来るまでに何があったの?


 ま、まあいっか。

 それは今は一旦置いておくとして……まずはあの人を止めないと駄目そうだね。

 なんか凄いことしそうな雰囲気だし。



「見やがれぇ! これこそが、本当の本当に最後の手段!! お゛がぁ゛ッ!? ぐッぅ、ガアッァァッ!!」



 苦しそうな声で叫び始めると、その体はどんどん大きくなっていった。

 あの見た目は……デーモンロードかな?

 どうしてそんなのが人里近いこんなところにいるんだろう。


 

「ハァ……ハァ……ここまできちまえばよォ。もう、俺を止められるモンはいねえぜ? ああ、力が溢れやがる。お前らをぶち殺したら、この辺りの街をぜ~んぶぶち壊さないと気がすまねえよなぁ」



 ニヤニヤと笑いながらそんなことを言うデーモンロード。

 どうしよう……なんか、とんでもないのが出て来ちゃったね?


 けどまあ、聞いちゃった以上は私が止めるよ。

 そこの新人冒険者の人たちも、街も、あなたの好きにはさせないから。



「スキル発動、『龍化』」



 機龍魔人の種族スキル『龍化』を発動させる。

 その瞬間、私の体は光り輝き……機械の龍へと姿を変えた。


 これこそ機龍魔人の真骨頂。

 変身中は全状態異常とカウンターダメージを無効化し、能力値とスキルのダメージ倍率が上昇する。

 まさに戦闘形態って感じの状態になるスキルだね。


 代償として毎秒最大MPの1%を消費するんだけど、そこは装備によるリジェネとドレインで補うから燃費の悪い奥義スキルを使わなければ基本的にはずっと変身していられる。


 ちなみに奥義スキルって言うのは、例えばこれ。



「うおおぉぉ『メガレールレーザー!!』」



 腕に付いている巨大な魔法兵器に魔力を集め、極太のレーザーを放つ。

 これが機龍魔人の持つ奥義スキルの一つ。

 高威力の火属性と光属性の複合ダメージを与える攻撃。

 いつ見ても派手で見飽きないね。



「なッ!? おいおい、マジで言ってんのか!? こんなのどうしようも……」



――ジュワッ



 どうやら一瞬で蒸発してしまったらしい。

 レーザーが消えると、もうそこにデーモンロードの姿はなかった。

 

 何と言うか、ちょっとレベルの差がありすぎたかもね。

 デーモンロードってレベル1500くらいの魔物だし。


 なにはともあれ、これで平和は守られ……って。



「あ、あぁ……」



 ……しまった。

 ちょっと派手にやりすぎちゃったかもしれない。

 新人冒険者の人たちがめちゃくちゃ怯えている。


 と言うか、よく見るとこの子たち冒険者にしてはちょっと若すぎるんじゃ……?

 中学生……くらいだよね多分。

 装備からしても明らかにザ・新人だよこれ。


 それにパーティの構成もなんかおかしいような。

 剣士一人と弓使い二人に、魔術師一人でしょ……?

 前衛少なくない?

 それに加えて治癒術師がいないって、それ一番駄目なやつじゃ……。


 この世界で数か月間暮らした今だからわかるけどさ。

 冒険者パーティには治癒術師を最低一人は入れるものだよ。

 入ってないパーティを見たことがないレベルだし、なんなら斥候とかも欲しいくらい。

 しかもリーダーっぽい剣士の男の子、いわゆる軽戦士で全然盾役じゃないし……後衛を守れなくない?


 何と言うか、課題はたくさんって感じだね。

 仮に今回のことがなくても、今後大変なことになっていた可能性もありそう。

 余計なお世話かもしれないけど、今度色々と教えてあげた方がいいのかも。 


 なんにせよ脅威は消えたわけだし、今やるべきはこの子たちの回復かな。

 軽戦士の子は片腕を失っているみたいだし、早めに回復してあげないと。



「あ、えっと……味方、でいいんですよね……?」



 おっといけない。

 この姿のままだと余計に怖がらせちゃうか。



「ちょっと待っててね。今、戻るから……よしっと」


 

 元の姿に戻り、改めて剣士の子の元へと向かう。

 そして彼の失った腕を治すため、回復魔法を発動させた。



「『ヒール』」



 癒しの光を放ち、対象を回復させるスキル。

 アコライトが習得できる初歩的な回復魔法だけど、私のINT値だと相当な回復力になるはず。

 それこそ、この世界なら欠損くらい簡単に治せるほどの治癒効果がある……はず。



――ズグッ、ズブブッ



 剣士の子の腕が勢いよく生えてくる。

 よかった、上手くいったみたいだね。



「う、うわあぁぁッ!?」


「えぇ……嘘でしょ……? 腕が、生えてきた……?」


「見間違い……では、ないよな」



 あ、この反応……ちょっと派手に回復させすぎたかも。

 まあ、あれだけの攻撃を見せちゃったから今更ではあるんだけどさ。



「す、すごい……腕が、完全に治っている! 欠損を治療するだなんて、貴方はもしやさぞ高名な治癒術師なのではありませんか!?」


「い、いや……私は……」



 どうしよう。

 ここはなんとか誤魔化した方がいいかな?



「ふむ、その通りだ」


「え?」



 いつの間にやらすぐ隣へとアウロラが降りてきていた。

 よかった、怪我とかはなさそうで何よりだよ。


 って、ちょっとまって。

 あなたは何を言っているの?



「やっ、やはり!! でなければ……こんな奇跡のようなことを起こせるはずがない」


「いや……あの、私はただのポーション売りで……」


「そうであろう。この御方こそ、偉大なる我が主。最強にして最高の存在。ジーヌ・フォン・エクスマキナ様なのだからな」



 あの、ちょっと?



「最強にして最高……」


「あの上級悪魔をも一瞬にして葬り去ったんだ。疑う余地もないさ」


「そうね。私たちじゃ一生かけてもたどり着けない領域だって実感できたもの」


「うん、あれはまさしく魔法の根源。魔術師として、この方を超える者などいない。本能でそう理解できた」



 ま、まずい。 

 まずいよこれ。

 せっかく目立たないように平穏に生きていたのに、このままじゃ私の存在が公に……。



「いや……えっと、あの……これは違くて」


「一つ、お願いしてもよろしいでしょうか」


「んぇっ!? な、なにかな?」



 やばい。いきなりだったから思わずこたえちゃった。

 これ以上ボロを出さないようにしたいんだけど……。



「俺たちを襲ったあの男が何者なのか、教えていただきたいのです。アイツは自らを『黒の水晶』の一員だと言っていました。ジーヌ様程の御方であれば、何かご存じなのではありませんか」


「黒の……水晶?」



 うーん……。

 ごめんだけど、まるでわからない。

 そもそも私だってこの世界に来てからまだ数か月だし、街の外についてはそんなに詳しくないし……。


 って、言っても駄目そうだよね。

 信じてもらえない空気だよこれ。



「……おお! そう言うことであったか! このアウロラ、改めて我が主の心眼に感服いたす限りである」


「えっ?」


「黒の水晶の存在とその動向を、既に察知していたのですな。それで今回、御身自ら出向いたと……」


「いや、違……」


「この世界基準とは言え、あれほどの力を持つ者が結集し悪事を成しておることを、放置できぬとお考えなのですな。流石は我が主……! なんと慈悲深く、正義感に溢れておられるのだ!」


「違うって! 違うからね!?」


「であればこのアウロラ、どこまでもお供いたしましょう!!」



 あ、駄目だこれ……。

 もう何を言っても駄目そう。

 憧れは盲目……。



「ジーヌ様! 俺たちも、貴方に助けられたこの命で恩を返したいと思うのです! それに、もし黒の水晶と言う存在が街を襲うと言うのなら、俺たちにとっても無関係ではありません」


「確かにそう……ルインの言う通りだわ。あんなのが他にもいて、それが私たちの街に牙を剥くと言うなら放ってはおけない! ジーヌ様、私たちは貴方の力になりたいの! どうか、私たちにも協力させて欲しい!」


「ふぇ……」



 どうしよう。

 もう引き下がれないんだけど……?



『ふふ、どうやら面白いことになっておるようじゃの』



 ユグドラシルからの連絡?

 って、もしかしてこっちの様子が分かってるの!?

 ならこっちに来て誤解を解いて欲しいんだけど……!



『これから面白そうなことが起ころうとしておるのじゃ。どうして止める必要があるのかのぅ? なぁに、周辺の魔物は他の龍と共にあらかた無力化しておいたわ。ジーヌは安心して話を進めるとよい。では、また』


 

 ……それ以降、ユグドラシルからの連絡はなかった。

 ああもう、肝心な時に頼りにならない!

 と言うより、意図的に私を弄んでるよねあれ!


 うわあぁぁ!

 これじゃあもう平穏な暮らしができなくなっちゃうじゃん!

 これも全部、黒の水晶のせいだよぉぉ!!


 こうなりゃヤケだ!

 黒の水晶め!

 私の平穏を奪った罪……しっかりお返しさせてもらうから!!



「決めた! 皆、私と一緒に黒の水晶を壊滅させるよ!」



 ――こうして、私の平穏は奇麗さっぱり消え去り、最終的には世界全体を巻き込む戦いへと巻き込まれることとなるのだった。


 そう、これは……のちに大魔王から世界を救った大英雄と呼ばれ、異世界の技術を活用して世界の文明レベルを大幅に上昇させ、最後には機龍神として祀られるこの私……ジーヌ・フォン・エクスマキナの波乱と周りからの過剰な期待に満ち溢れた物語である。

続きません。

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