「沖田对以蔵」
◆ 放課後、公園にて
美咲と別れた後。
夕暮れの公園に、沖田と以蔵は並んで座っていた。
いつまでも美咲に付きまとう以蔵を見かねて、
沖田が「話がある」と呼び出したのだ。
だが——以蔵はそっぽを向いたまま。
「なんだよ沖田。
説教でもすんのか?」
「……そうだ。今日こそ言う」
沖田の声色が、柔らかさを完全に捨てていた。
⸻
「以蔵。
美咲殿に依存しすぎだ」
「……依存? 俺が?」
「自覚がないのが問題だ」
沖田は真っ直ぐに見据える。
「お前の視線は鋭すぎる。
気配も血の匂いもまとっている。
あの娘は強いが、あまりに違う世界だ」
「……だからなんだよ?」
「この時代の民を脅かす存在になるな」
以蔵の表情が変わる。
にやりと笑いながらも、その目は怒りに揺れていた。
「……脅かす?
俺が?
誰を?」
「美咲殿だ」
以蔵の目が見開かれた。
「……俺が美咲を、脅かす……?」
「そうだ。
お前は“人斬り”として生きてきた。
癖も、反射も、剣も、すべてそうあるように出来ている」
「それを……否定すんのか」
「否定だ」
躊躇なく言い切った。
「……なぁ沖田。
お前に言われたら腹立つな」
以蔵は立ち上がり、夕日に照らされる。
「お前は“皆を守る剣”だった。
武士で、隊士で——
誇りがあった。
背負うもんがあった。
だから格好つけられた」
そして自分の胸を拳で叩く。
「俺は違ぇ。
“人を斬ること”しかできねぇクズだったんだよ。
人を脅かすな?
そんなの……俺に言う資格あんのか?」
「……ある」
沖田は静かに首を振った。
「この時代では……
お前の過去も地位も恐れも、ほとんど意味をなさない」
「俺の……過去が……意味をなさねぇ?」
「そうだ。
ここは未来だ。
ここでの“生き方”は、自分で選べる」
以蔵の目が揺れる。
「美咲殿のそばにいるなら……
“斬るための以蔵”ではなく、
“守るための以蔵”になれ」
「守る……だと……?」
「でなければ……
お前はこの時代に居場所を得られない」
沖田はさらに踏み込む。
「そして——
美咲殿にも近づけない」
以蔵の肩が震えた。
「……脅しかよ」
「忠告だ」
「……てめぇ……
ほんっと、昔から俺にだけ厳しいよな……!」
「お前が危なっかしいからだ」
沖田の即答に、以蔵は一瞬言葉を失った。
夕焼けの公園で、
幕末最強の剣士二人が黙り込む。
⸻
「……沖田よ」
「なんだ」
「俺ぁ……
美咲が……笑ってくれるだけで……
胸が熱くなんだよ」
「……」
「こんな気持ち……
斬り合いの中じゃ、一度もわかんなかった」
ぽつりと零れた以蔵の言葉。
その声は、震えていた。
「……俺も……守れんのか?
人を……守る側に回っていいのか……?」
沖田の表情が、ようやく柔らかくなる。
「できるさ」
夕風が二人を包んだ。
「この時代は……
お前に“やり直す機会”をくれる」
以蔵はしばらく沈黙し——
そして、深く息を吐いた。
「……そうかよ。
なら……少しだけ信じてみる」
照れたように、ぼそっと付け足す。
「美咲のため……にな」
沖田は微笑んだ。
「それでいい」
⸻
木の後ろで隠れていた美咲は、
二人の会話を全部聞いてしまっていた。
(……以蔵さん……そんなふうに思ってたんだ……)
(……沖田さん……ほんとに優しいなぁ……)
顔を真っ赤にして震えながら、
こっそり帰るしかなかった。




