「波乱は突然に」
放課後。
美咲と沖田は学校の帰り道を歩いていた。
「沖田さん、今日は無茶しすぎないでよ?
まだ治療中なんだから——」
「心配ない。未来の医術の力は驚くほどだ。
だが美咲殿の言葉は胸に留めておくよ」
そんな穏やかな会話をしていたその時。
——ズシャァ……!
近くの公園から、何かが“落ちる”ような音。
美咲はびくっと肩を震わせた。
「な、なに今の……?」
「血の匂いがする」
沖田の顔が、一瞬で“戦う者”のそれへ変わった。
柔らかい表情は消え、鋭く研ぎ澄まされた眼に変わる。
「美咲殿、ここにいろ。絶対に近づくな」
「お、沖田さん!?」
だがもう沖田は駆けだしていた。
⸻
◆ 公園の奥に倒れていたのは——
公園の木陰。
そこに倒れていたのは、
血まみれで、着物は切り裂かれ、肩口から深い刀傷を負った男。
髪は乱れ、片目は血で塞がり、呼吸は浅い。
だが——その顔立ちは、沖田も思わず息を呑むほど鋭かった。
「……これは……」
男はかすれ声で呟いた。
「……ここは……京じゃ……ねェな……?」
沖田の身体が強張る。
「お前……名は……」
血だらけの男は、薄く笑って名乗った。
「……岡田……以蔵だ……」
人斬り以蔵。
幕末、恐れられた暗殺者。
その名を聞いた瞬間、沖田の背筋に冷たいものが走った。
「なぜ……お前がここに……?」
「わからねェ……
気ィついたら……光の中に居て……
気づいたら……ここで血ィ流して倒れてた……。
……けどよ……」
以蔵は血に濡れた手で地面を掴む。
「敵は……まだ近くにいる……」
その時、美咲が駆け寄ってきた。
「沖田さん!大丈夫……きゃっ!?」
血まみれの男を見て、美咲は息を呑んだ。
「ま……また侍……?」
「下がれ、美咲殿!
こいつは……人斬り以蔵だ!」
「ひっ……“人斬り”って言った……!?」
⸻
◆ 以蔵 vs 沖田、初対面の緊張
以蔵の目が、美咲に向けられる。
獣のような、危険な瞳。
その瞬間——沖田がすっと美咲の前に立ちはだかった。
「動くな、以蔵」
「……へぇ。
誰かと思えば……沖田総司かよ……。
テメェまで……ここに流れてきたってわけか……?」
「理由は後だ。
だが今のお前は戦える状態ではない。
傷が深い。救護が先だ」
「救護……? 俺に……か……?」
以蔵の口元が嘲笑に歪む。
「笑わせんな……俺を助けるってのか……? 殺し屋だぜ……?」
「関係ない。
お前もこの未来の民の一人だ。
そして……俺の知る“仲間”でもある」
「仲間、ねェ……」
以蔵は喉の奥で血を吐きながら笑った。
「沖田……テメェは……ほんっと……変わらねェ……」
⸻
◆ 美咲、恐怖と決断
美咲は震えていた。
目の前にいるのは“本物の殺し屋”だ。
しかも今、敵が近くにいると言った。
怖い。怖いに決まっている。
でも——
「沖田さん……この人……助けないの?」
自分の声が震えているのがわかった。
「……美咲殿……」
「だって……放っておけないでしょ……
あなたも倒れてた時、助けを求めなかったけど……
助けられて嬉しそうだったじゃん……!」
沖田の目が揺れた。
「だから……この人も……生かすんでしょ?
未来……見せてあげるんでしょ?」
沖田は静かに頷く。
「……もちろんだ」
そして以蔵に向き直った。
「岡田以蔵。
……この時代では、お前の傷も治せる。
治療を受けろ。
生きる道は、まだある」
以蔵はしばらく黙り——
そして小さく呟いた。
「……そんな時代が……来てたのかよ……」
その声音には、
ほんの少しだけ、救われたような響きがあった。
⸻
◆ 新たな嵐の予告
しかし——
以蔵の目はまだ油断なく、周囲を警戒していた。
「沖田……美咲……だっけな……」
「ひゃっ……は、はいっ……!」
「気ィつけな……
俺を斬りつけた奴……
多分……この時代にも来てやがる……」
「な……っ」
沖田の顔が引き締まる。
令和の日本に、
“幕末の血の因縁”が流れ込もうとしていた。




