「総司の誓い」
美咲の部屋は、急ごしらえの救護所となっていた。
布団に横たわる沖田総司。
タオルで額の汗を拭き、呼吸を整えさせる。
彼の顔色はまだ悪いが、意識ははっきりしている。
程なくして、美咲は検索で得た情報をまとめ、慎重に口を開いた。
「……その、沖田さん。さっきから咳が続いてるけど……
あなた、労咳——結核って病気だったんですよね?」
沖田は一瞬だけ視線を揺らし、静かに頷いた。
「……うむ。医師から“長くはない”と告げられておった。
恐らく……その病が、命を奪うであろうと」
言葉は淡々としているが、それは覚悟を何度も重ねた者の声音だった。
美咲はスマホの画面を見せる。
「でも、それ……令和のいまの日本じゃ、治る病気なんです」
その瞬間、沖田の目が、驚きのあまり大きく見開かれた。
「……いま……なんと……?」
「ほら、ここ。
“結核は薬で治療可能。早期治療で死亡率は大幅に低下”って。
治療法も、病院も整ってる。
ちゃんと治せる時代なんです」
沖田は言葉を失ったように、美咲のスマホと彼女の顔を交互に見つめた。
そして——
「……治る……? わ、わしの……この病が……?」
かすれた声でつぶやきながら、胸に手を当てる。
震える指先が、彼の動揺を物語っていた。
「……では……わしは……死なずに済むのか……?」
「うん。治療すれば、絶対に助かるよ」
沈黙。
長い、長い沈黙ののち——
沖田総司は、初めて声を震わせて笑った。
「……そうか……
我らが、命を懸けて守ろうとした未来は……
こんなにも……豊かで、優しいものになったのだな……」
瞳には光がにじんでいた。
「仲間たちが……血を流し……その果てに……
人が“死なずに済む”世が来るとは……
なんとも……なんとも……ありがたい……」
声が震え、枕元に落ちた涙を美咲は見逃さなかった。
その涙は、後悔でも絶望でもない。
未来が確かに続いていることへの、静かな感動だった。
しばらくして、沖田は涙を拭い、姿勢を正す。
「……この未来を守りたい」
強い光が、その目に宿っていた。
「わしらが命を懸けて切り開いた未来ならば……
いまこの時代に生きる人々もまた、大切にされるべき民であろう。
ならば……わしは、この世で再び剣を取る」
「ま、待って剣はダメ! 色々アウトだから!」
「では剣以外の手でもよい。
この未来を、わしに救ってもらおうと思うな、と言うのか?」
「……いや、言わないけど!」
美咲は思わず苦笑した。
そのやり取りに、部屋の空気が少しだけ軽くなる。
けれど沖田総司の決意は揺るがなかった。
──生き延びたこの命を、未来の民のために使う。
──この時代を、必ず守る。
令和の空の下、かつての新選組一番隊組長は静かに誓いを立てた。




