「戦いの後は」
半次郎一派との激闘から数日。
警察署襲撃という前代未聞の事件のわりには、世間の反応は妙にぼやけていた。
「“暴力的な外国人グループによる犯行の可能性あり”ってニュースにされてたな」
スマホを眺めながら、斎藤が乾いた笑いを漏らす。
「情報が伏せられすぎてますね……」
沖田も頷きながら、紅茶を飲む。現代のティーバッグにすっかり慣れ、ちょっと嬉しそうだ。
「警察も手ぇ出せへん異能持ちやしな……国家権力ごと圧されてる感じやで」
以蔵が伸びをしながら言った。
だが、いまは束の間の平和。
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●放課後、商店街へ
「ねぇ沖田くん! 斎藤さん! 以蔵くん!
帰りにみんなでクレープ食べに行かない?」
美咲が手を振りながら呼びかける。
「く、クレープ……というのは、その……甘味の一種でしょうか」
沖田は未だ現代スイーツに弱い。
「食べたら世界変わるで。うんまいから」
以蔵が肩を叩く。
そんな様子を少し離れた所で見ていた沙羅が、ふわっと一歩前に出た。
「……わたしも行っていい?」
声は小さいが、確かに以蔵へ向けたものだった。
「おう、来たらええやん。ほれ」
以蔵は何気なく沙羅の買い物袋を持ち上げた。
「あっ……いいよ、自分で持てる……」
「ええから。怪我してへんのに荷物持てへん男とか、侍の恥や」
沙羅は頬を赤くした。
だがその表情を、以蔵は全く気づかない。
(ほんと……鈍感なんだから……)
沙羅は心の中でため息をついた。
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●クレープ屋でのひと幕
「おいし〜! やっぱり生クリーム最高!」
「こ、この柔らかさ……まるで京の薄焼き菓子より……はるかに……!」
沖田は目を輝かせ、現代スイーツの進化に震えている。
一方で――
「沙羅ちゃん、その……いちご食べる?」
美咲がこっそり耳打ちする。
「え、なんで?」
「だって以蔵くん、無意識に沙羅ちゃんの方ばっか見てるよ?」
「ッ!?」
沙羅は思わずクレープを落としそうになる。
しかし当の本人は――
「……なんや? 生クリーム付いとんで、口の端」
「あっ……ど、どこ……?」
「ここや」
以蔵はそっと指で示した。
ただそれだけの距離が、沙羅には心臓が跳ねるほど近かった。
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●斎藤の観察
店の外で見守っていた斎藤が、小さく笑う。
「……あの二人、妙にしっくりしてるな」
「うむ。以蔵殿は気づいていないようだが……沙羅殿の眼差しは明らかに恋のそれだ」
沖田がしみじみ頷く。
「で、お前はどうするんだ?」
斎藤が沖田の横目を覗き込む。
「……わたしは……美咲殿を守る。それだけです」
沖田はほんのわずかに目を伏せた。
斎藤は言わないが、知っている。
沖田の胸にも、別の形の想いがすでに芽生えていることを。
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●日常の裏に潜む影
笑い声の響く商店街の奥。
暗い路地裏で、半次郎一派の影がひっそりとその光景を見ていた。
「ほう……楽しそうにやっとるやないか」
「どうします、半次郎様?」
「今は動くな。
ヤツらを潰すんは、その日常ごと粉々に砕ける瞬間――
そのほうが、より深い絶望を刻める」
闇が静かに笑う。




