「潜入」
翌朝。
東京都内のとある高校。
始業前の廊下は、制服姿の生徒が談笑しながら歩き回る、平和そのものの光景だった。
その中に――
妙な空気をまとった“異質な影”がひとつ。
黒いスーツ。
無駄な動きの一切ない歩調。
背筋の伸びた、異常に美しい立ち姿。
斎藤一、その人だった。
しかし周囲の誰も、彼が“幕末最強クラスの剣士”だとは知らない。
「ねぇ……あの人、誰? モデル? 俳優?!」
「こわ……なんか圧が……!」
「あの顔で怒られたら泣く自信あるんだけど……」
生徒のざわつきの中心で、斎藤は冷静に周囲を観察していた。
(……ここが“学校”か。
子どもが集まり学ぶ場所……ふん、江戸の寺子屋とは大違いだな)
しかし目的はただ一つ。
――沖田総司の所在を探ること。
そして、美咲という少女の存在が重要だと、
昨夜の出来事から察していた。
⸻
教室へ入る直前、美咲は廊下で硬直した。
「えっ……えっ……ちょ、ちょっと待って……」
斎藤は静かに会釈する。
「あなたが桐島美咲殿か。
総司……沖田総司の知己と聞いた」
「は、はいっ……え? え? なんで知って……?」
美咲の脳内は混乱しすぎてショート寸前。
その横で、朝からテンション高めの紗耶が叫ぶ。
「み、美咲ァ!!
今日イチのイケメン爆誕!!
誰この人!! 先生!? 芸能人!? 超こわいんだけど顔が綺麗すぎて!!」
斎藤:「心外だ……別に怖くするつもりはない」
言葉は冷静だが、眼光が鋭すぎて逆効果だった。
⸻
そこに職員室から出てきた担任――
坂本龍馬(教師モード) が現れる。
「おー、斎藤。やっと来たか!」
生徒たち:「え? 先生この人知り合い!?」「なんなんこの学校!」
龍馬は笑顔で肩を叩く。
「この人は今日から赴任する“臨時職員”じゃ。
科目は……そうだな。“歴史”でええろ?」
斎藤:「……勝手に決めるな」
龍馬:「えいがや。どうせそっちのほうが自然じゃき」
生徒たち大歓声。
「か、カッコよすぎる歴史の先生……!?」
「無理……今日から授業が戦争になる……」
美咲は完全に混乱しつつ、
斎藤の視線が自分へ戻ってくるのを感じた。
「美咲殿。
沖田に会わせてもらえぬか」
その声は低く、どこか切実だった。
(あ……この人……沖田さんのこと、すごく……)
美咲は息を呑んだ。
⸻
「総司……
どうせまた、無茶をしようとしているのだろう。
今度は俺が止める。
お前は、もう二度と死なせん」
そのつぶやきは誰にも届かなかったが、
確かに令和の空気の中で、静かに燃えていた。




