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沖田さん令和に惑う  作者: NoV


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2/26

「出会い」

美咲は慌てふためきながらも、倒れた青年を必死に支えようとした。

 近くで見ると、彼の顔は驚くほど整っていて、けれど苦痛の色が濃い。


「と、とにかく救急車呼ぶから! 今のあなた絶対ヤバいって!」


 美咲がスマホに手を伸ばすと、沖田は弱い力でその手首を掴んだ。


「……それは……人を呼ぶ“道具”なのか?」


「そうだよ! だから呼ぶの! 病院行かないと!」


 だが沖田は、首を振った。


「……ゆかしきことよ。京で……医師に診てもらったのだが……

 “もう長くはない”と告げられて……」


 喉の奥で血の味を噛みしめるように、彼は苦笑した。


「……せめて、誰にも迷惑をかけぬ場所で……終わろうと思ったのだ」


 淡々と語る沖田総司の声は、夜風に紛れて消え入りそうだった。


 その言葉に、美咲の胸がズキンと痛んだ。


 終わろうと思った?

 この人……本当に死ぬ気だったの?

 この時代も場所もわからないまま、ひとりで?


 そんなの、あまりに——。


「……ふざけんなっ!」


 美咲は思わず叫んでいた。

 沖田が驚いたように目を丸くする。


「ここまで生きて来て、最後に“迷惑かけたくない”って……!

 あんた、それ戦ってきた人の言い方じゃないでしょ!」


「……み、迷惑……かけたくは……」


「かけてよ! ていうか今かけてるし! もういいよ!

 かけられてやるし!」


 沖田はぽかんとしていた。

 16歳の女子高生に、あの新選組一番隊組長が圧されている。


 美咲は肩を貸しながら、必死に立たせようとする。


「立てる? 無理なら私が引きずるから!」


「お、おぬし……女子ゆえ、無理は……」


「黙って掴まって! あたしの家すぐだから!」


 家、と聞いた瞬間、沖田は目を伏せた。


「……よろしいのか。見ず知らずの……得体の知れぬ男を……家へ……」


「見ず知らずでも、人は人でしょ!」


 言い放った美咲自身が一番びっくりしていた。

 でも——放っておけなかった。


 この人は、死を覚悟した目なんかしてほしくなかった。

 歴史の教科書の中でしか知らなかった“沖田総司”が、こんなに弱って、苦しんで、孤独で。


 だから。


「助けたいって思った。……それじゃダメ?」


 小さな声で問いかけると、沖田はしばらく黙り——

 ゆっくりと微笑んだ。


「……かたじけない」


 その笑みに、美咲の胸がまたドキンと跳ねた。


 令和の女子高生は、倒れた剣士を支えながら路地裏を出る。

 あまりに非日常な光景なのに、不思議と足は自然に前へ進んだ。


 アスファルトの道に、二人の影が重なる。


 ──この夜を境に。

 誰の歴史書にも書かれない、新しい物語が始まろうとしていた。


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