「出会い」
美咲は慌てふためきながらも、倒れた青年を必死に支えようとした。
近くで見ると、彼の顔は驚くほど整っていて、けれど苦痛の色が濃い。
「と、とにかく救急車呼ぶから! 今のあなた絶対ヤバいって!」
美咲がスマホに手を伸ばすと、沖田は弱い力でその手首を掴んだ。
「……それは……人を呼ぶ“道具”なのか?」
「そうだよ! だから呼ぶの! 病院行かないと!」
だが沖田は、首を振った。
「……ゆかしきことよ。京で……医師に診てもらったのだが……
“もう長くはない”と告げられて……」
喉の奥で血の味を噛みしめるように、彼は苦笑した。
「……せめて、誰にも迷惑をかけぬ場所で……終わろうと思ったのだ」
淡々と語る沖田総司の声は、夜風に紛れて消え入りそうだった。
その言葉に、美咲の胸がズキンと痛んだ。
終わろうと思った?
この人……本当に死ぬ気だったの?
この時代も場所もわからないまま、ひとりで?
そんなの、あまりに——。
「……ふざけんなっ!」
美咲は思わず叫んでいた。
沖田が驚いたように目を丸くする。
「ここまで生きて来て、最後に“迷惑かけたくない”って……!
あんた、それ戦ってきた人の言い方じゃないでしょ!」
「……み、迷惑……かけたくは……」
「かけてよ! ていうか今かけてるし! もういいよ!
かけられてやるし!」
沖田はぽかんとしていた。
16歳の女子高生に、あの新選組一番隊組長が圧されている。
美咲は肩を貸しながら、必死に立たせようとする。
「立てる? 無理なら私が引きずるから!」
「お、おぬし……女子ゆえ、無理は……」
「黙って掴まって! あたしの家すぐだから!」
家、と聞いた瞬間、沖田は目を伏せた。
「……よろしいのか。見ず知らずの……得体の知れぬ男を……家へ……」
「見ず知らずでも、人は人でしょ!」
言い放った美咲自身が一番びっくりしていた。
でも——放っておけなかった。
この人は、死を覚悟した目なんかしてほしくなかった。
歴史の教科書の中でしか知らなかった“沖田総司”が、こんなに弱って、苦しんで、孤独で。
だから。
「助けたいって思った。……それじゃダメ?」
小さな声で問いかけると、沖田はしばらく黙り——
ゆっくりと微笑んだ。
「……かたじけない」
その笑みに、美咲の胸がまたドキンと跳ねた。
令和の女子高生は、倒れた剣士を支えながら路地裏を出る。
あまりに非日常な光景なのに、不思議と足は自然に前へ進んだ。
アスファルトの道に、二人の影が重なる。
──この夜を境に。
誰の歴史書にも書かれない、新しい物語が始まろうとしていた。




