「幕末の亡霊」
夜の東京・新宿。
ネオンが反射する雨の歩道で、
ひとりの警備員がビルの裏手で巡回していた。
「今日も静かだな……っと」
そう呟いた瞬間――
ズンッ!
空気が一瞬だけ歪んだ。
警備員は思わず後退る。
「な、なんだ……? 今の……?」
路地の奥で、白い煙のような“ゆらぎ”が揺れている。
まるで空間が裂けたように。
次の瞬間――
ドシャァン!
人影がひとつ、アスファルトに叩きつけられた。
警備員:「ひっ……! だ、誰だ……!?」
ゆっくりと立ち上がるその男は、
身に纏った着流しは血と土で汚れ、
片手には抜き身の刀。
痩せ細り、しかし異様な迫力を放つその眼。
男:「……ここは……どこじゃ……?」
警備員:「き、君……怪我してるなら救急車を――」
男の瞳が細まる。
男:「……“異国の獣道”かと思うたが……
どうやら、時代そのものが違うと見えるのう」
警備員:「え……?」
次の瞬間、
男の刀が、雨粒の間を滑るように動いた。
ヒュンッ!
街灯の柱が斜めに切り落とされ、火花が散る。
警備員:「ひ、ひぃぃぃぃ!?」
男は無表情で刀を払った。
男:「……わしを斬った奴らを追うて走っちょったが……
まさかこんな場所に飛ばされるとはのう」
雨の中、ゆっくりと顔を上げる。
その顔は──
“土佐藩随一の刺客”
中村半次郎(桐野利秋)だった。
⸻
その頃、龍馬・沖田・以蔵・美咲・紗耶は、
龍馬の真実を聞いた帰りで、みな静かな気持ちだった。
しかし、龍馬だけは空を見上げて眉をひそめる。
沖田:「……龍馬殿?」
龍馬:「今……奇妙な“揺れ”を感じたき。
わしだけか……?」
以蔵も、不意に背筋をぞくりと震わせた。
以蔵:「兄さん……わしも感じた。
“やばい奴”の匂いがするがよ」
龍馬は表情を変え、真剣そのものになる。
「総司……
この未来に来てほしくない奴が来たかもしれん」
美咲と紗耶が不安げに見つめる。
紗耶:「だ、誰……ですか……?」
龍馬は、雨の空の向こうを睨みつけながら答えた。
「“薩摩の人斬り”……
中村半次郎(のちの桐野利秋)じゃ」
沖田も血の気が引く。
沖田:「……あの男が、令和に……?」
龍馬:「まずいぞ。
あの男は、わしの仲間じゃが……
幕末最強クラスの剣の狂気を持っちゅう」
以蔵も顔を強ばらせた。
「兄さんが言う“狂犬”やきな……
総司、おまんも気ぃつけえ」
美咲:「ちょ、ちょっと待って!?
危険な人がタイムスリップしてくるって……そんな……!」
龍馬は美咲の肩に手を置く。
「安心せえ、美咲ちゃん。
あいつを止められるのは、この時代じゃ“わしら”だけじゃき」
沖田は小さく頷く。
「……令和を守る。
その使命の時が来たということですね」
五人の肝が据わったその同じ夜。
雨の新宿で、半次郎はゆっくり刀を握りしめる。
「……こんな化け物みてえな街。
面白かろうが」
令和の東京に、またひとつ“幕末の影”が落ちた。




