龍馬の告白
とある夜
学校から帰った沖田、美咲、以蔵、紗耶は、
龍馬の呼びかけで、学校近くの小さな古い喫茶店に集まっていた。
照明は暖かく、静かなジャズが流れている。
だが空気は、どこか張り詰めていた。
龍馬はコーヒーの湯気を見つめたまま、しばらく口を開かなかった。
やがて、静かに言う。
「──わしが、みんなより先に令和に来てしもうた理由。
それを今日、話そうと思う」
四人の視線が、龍馬一点に注がれる。
⸻
「わしが死んだ、あの夜……
寺田屋で斬られた時のことじゃ」
語り出す声は、普段の朗らかさを欠いていた。
「血が床に広がって……
ああ、これでわしの役目も終わりかと思うた。
じゃが次に目を開けた時……」
龍馬は窓の外を指す。
「そこにあったがは、高い高いビル。
光る看板。鉄の馬のような車。
……令和の東京じゃった」
沖田と以蔵が息を呑む。
「最初は夢じゃと思うた。
じゃが、どうしても信じたくないことがあった」
龍馬は唇を噛みしめた。
「ここにきて……自分の“死”を調べてしもうた。
どういう最期で、
誰に斬られ
その後どう歴史が進んだか」
手がわずかに震えている。
美咲も紗耶も、言葉を挟めなかった。
⸻
「歴史書に載っちゅう‘坂本龍馬の死’はな……
思っとったより、ずっとあっけないもんやった」
龍馬は握ったコーヒーカップを置き、両手を重ねる。
「わしが命をかけた日本は……
維新のあとも戦が絶えず、
幾度も失敗と悲劇を繰り返し……
結局、わし一人が騒いでも、何も変わらんかったんじゃないかと……」
その言葉に、以蔵が目を見開く。
「龍馬兄さん……!」
沖田も胸を押さえた。
「龍馬殿……」
龍馬は微笑み、しかしその目はどこか寂しい。
「おまんらの死に様も、わしは知っちょる。
総司も……以蔵も……。
読んだとき、胸が裂けるかと思うたわ」
沖田と以蔵は言葉を失う。
⸻
龍馬は深く息を吸う。
「けんどな。
それでもわしは、未来も過去も恨んだりはせん。
この時代を見て、思うたんじゃ」
「わしらの命は、無駄ではなかった。
未熟でも、遠回りでも……
ちゃんと未来に辿り着いちゅう」
沖田の瞳が揺れた。
龍馬は続ける。
「だからこそ、わしは教師になった。
この時代の子どもらが迷ったとき、
背中を押してやれる存在になりたかった」
その時、紗耶がぽつりと呟いた。
「……龍馬先生は、ずっと一人だったんですね」
龍馬は少し驚いた顔をして、
そして静かに笑った。
「せやな。
ずっと一人やった。
……総司や以蔵に、もう一度会えるとは思わんかった」
⸻
沖田はゆっくり立ち上がり、龍馬の前に歩く。
「龍馬殿。
歴史がどうであれ……
あなたが残した志を、わたしは忘れません」
以蔵も席を立ち、拳を握る。
「兄さん……
この未来で、生き直そうやないか」
美咲と紗耶も微笑む。
龍馬は一瞬だけ目を伏せ、
そして顔を上げると、いつもの明るい笑顔を見せた。
「……ありがとなあ。
わし、もう一度みんなと未来を歩ける気がしてきたき」
喫茶店のノスタルジックな照明が、五人を温かく包む。
ここに、時代を越えて再び集った“仲間”がいた。




