「時を超えた再会」
放課後の廊下。
生徒たちが帰り支度をしてざわつく中――
龍馬がふと視線を向けた先に、
壁に寄りかかる包帯姿の男がいた。
鋭い眼光。
荒れた雰囲気。
しかし、その奥にある“迷子のような気配”を、龍馬だけは知っている。
「……以蔵?」
その名を呼ばれた瞬間、
以蔵の肩がびくりと跳ねた。
「……龍馬、か?」
令和の光の中で、二人の間だけ時代が逆流する。
以蔵は目をそらした。
「オレ……おまえの前に、顔出す資格なんかねぇよ」
その声は震えていた。
「土佐にも戻れん。
あの頃のオレは……もう、人斬り以蔵でしかねぇ」
令和の空気の中で、その言葉だけが幕末のまま。
だが――
「……馬鹿たれ」
龍馬は、歩いていき――
そのまま、以蔵を抱きしめた。
「う……え?」
「ワシはのう……
おんしが生きちゅうだけで……嬉しいがよ」
以蔵の目が大きく見開かれる。
「裏切った? 構わん。
血を流した? 知っちゅう。
けんどな――
以蔵、おんしは“ただの人”じゃき。
生きて、笑って、苦しんで……
今、ここにおる。それでええ」
龍馬の声は、昔と何一つ変わらない大きな包容力を帯びていた。
「なんで……なんでそんなこと言えるんだよ」
「おんしの全部を、ワシは許すきに」
「……っ」
以蔵の喉が詰まり、言葉が出ない。
「許されるわけ……ねぇだろ……
オレは……あんとき……」
「許すがやき」
龍馬は強く抱き寄せた。
その一瞬、
“人斬り”でも、“武市の手足”でもない。
ただの 岡田以蔵 に戻った。
以蔵の目から、一滴だけ涙がこぼれた。
遠くから、静かに見つめる沖田。
「龍馬……お前は……いつだって……」
自分にはできない“救い方”を、平然とやってのける。
胸の奥が少し熱くなる。
「……羨ましい男よ」
廊下の陰で震える美咲と沙羅。
「ちょ……あれ……完全にドラマのクライマックスじゃん……」
「無理……なんか泣けてくる……てか龍馬先生イケメンすぎない?」
「ねぇ見て……以蔵くん、あんな顔できるんだ……」
沙羅の頬がほんのり赤くなる。
(……ずるい。あれ見たら……好きになっちゃうじゃん……)
ようやく龍馬が腕を離すと、
以蔵は照れくさそうに顔をそむけた。
「……オレ、あんま変わってねぇぞ」
「変わっちゅうさ。
こうして令和で歩いちゅう。それがすごいがよ」
「龍馬……」
以蔵は小さく息を吸い、
「……ありがとよ」
その言葉は、誰よりも重かった。




