「先生まさか…」
美咲に案内され、沖田総司はいよいよ現代の高校に足を踏み入れた。
「ここが……学び舎、か」
校舎を見上げる目は、戦場を見つめる時より真剣だ。
だが次の瞬間――
「うわっ! 自動で扉が開いたぞ……!?」
「沖田くん、だから感動しすぎだって!」
美咲が笑ってツッコむ中、沖田は目を丸くする。
そんな調子で教室まで歩いたが……
「席はこっちね。あ、うちの担任、ちょっと変わってる人だから気をつけて」
「変わっている、とは?」
「なんか急に土佐弁になるし、幕末のことめっちゃ詳しいし」
美咲が苦い顔で言った。
(……妙な話だ。幕末に詳しい教師など、いくら令和でも……)
そう思った矢先――
チャイムが鳴り、ドアが開いた。
「はいはーい、みんな席ついちょってよー!」
入ってきたのは、白シャツにジャケット姿の男性教師。
だがその雰囲気は、どこか只者ではない。
「今日から転校してきた……えー、沖田総司くん? よろしくぜよ」
その声に、沖田の体が固まった。
(……ぜよ、だと……!?)
教師は気持ちよく笑いながら、沖田の肩をバンバン叩いた。
「ほぉー、おんし、名前がまっこと立派じゃ。
“沖田総司”っちゅうたら昔の――」
ふと、教師の目が沖田の瞳を捉えた。
空気が止まる。
「…………」
「…………」
互いに、悟った。
教師は目を細め――にやりと笑った。
「……おんし、もしかしてワシの知ってる“沖田総司”か?」
教室の時間が凍りつく。
「おま……貴様……もしや……!」
沖田の喉が震えた。
「担任教師・坂本龍馬。
……ちょい先にこの時代へ跳んできちょったき」
「龍馬ァァァァァ!!?」
令和の教室に、幕末の絶叫が響きわたった。
「いやぁー、最初は驚いたぜよ?
なんじゃこの光る板は、ってな。
でも使ってみたらめっちゃ便利じゃろ?」
龍馬はスマホをクルクル回してみせた。
「現代の友達も増えてのう、最近は生徒にも人気ぜよ。
TikTokも伸びちゅうき!」
「ティ……なんじゃと……?」
沖田は目が死んだ。
「おまえ……なにをしておるのだ龍馬……」
「進歩に乗るんがワシの生き方じゃき!」
龍馬はまるで観光するように令和を満喫していた。
⸻
「で、いつ頃からこの時代に?」
「2年ばぁ前ぜよ」
「に、二年……!?」
「せやき現代の教育免許も取ったがよ。
いやぁ、便利すぎての……下手に元の時代へ帰る気にならん」
沖田は頭を抱えた。
(……龍馬らしい。らしいが……)
「なぁ沖田。
せっかく二人ともここにおるがやき、
また幕末みたいに、手ぇ組もうや」
その声は、時代を超えても変わらぬ、あの龍馬そのものだった。
「……もちろんだ」
沖田の胸に、生きる目的がまたひとつ灯った。
⸻
美咲の親友・沙羅が震えていた。
「ちょ、ちょっと待って……うちの担任……坂本龍馬……?」
「沙羅、大丈夫? 顔色悪いよ?」
「だって……私、沖田くんで悩んでたのに……
イケメン幕末男子が増えた……」
「そこ!?」
⸻
廊下の窓から覗いていた以蔵が、ぽつりと言った。
「……龍馬……?」
「え、知り合いなの?」
「アイツ、昔オレのこと拾ってくれた奴だ」
その声には、荒んだ青年の中に残った小さな“恩”が滲んでいた。
「先生……龍馬……?」
以蔵の胸に、複雑な感情が芽生える。




