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沖田さん令和に惑う  作者: NoV


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13/26

「先生まさか…」



 美咲に案内され、沖田総司はいよいよ現代の高校に足を踏み入れた。


「ここが……学び舎、か」


 校舎を見上げる目は、戦場を見つめる時より真剣だ。


 だが次の瞬間――


「うわっ! 自動で扉が開いたぞ……!?」


「沖田くん、だから感動しすぎだって!」


 美咲が笑ってツッコむ中、沖田は目を丸くする。

 そんな調子で教室まで歩いたが……


「席はこっちね。あ、うちの担任、ちょっと変わってる人だから気をつけて」


「変わっている、とは?」


「なんか急に土佐弁になるし、幕末のことめっちゃ詳しいし」


 美咲が苦い顔で言った。


(……妙な話だ。幕末に詳しい教師など、いくら令和でも……)


 そう思った矢先――

 チャイムが鳴り、ドアが開いた。


「はいはーい、みんな席ついちょってよー!」


 入ってきたのは、白シャツにジャケット姿の男性教師。

 だがその雰囲気は、どこか只者ではない。


「今日から転校してきた……えー、沖田総司くん? よろしくぜよ」


 その声に、沖田の体が固まった。


(……ぜよ、だと……!?)


 教師は気持ちよく笑いながら、沖田の肩をバンバン叩いた。


「ほぉー、おんし、名前がまっこと立派じゃ。

 “沖田総司”っちゅうたら昔の――」


 ふと、教師の目が沖田の瞳を捉えた。


 空気が止まる。


「…………」


「…………」


 互いに、悟った。


 教師は目を細め――にやりと笑った。


「……おんし、もしかしてワシの知ってる“沖田総司”か?」


 教室の時間が凍りつく。


「おま……貴様……もしや……!」


 沖田の喉が震えた。


「担任教師・坂本龍馬。

 ……ちょい先にこの時代へ跳んできちょったき」


「龍馬ァァァァァ!!?」


 令和の教室に、幕末の絶叫が響きわたった。



「いやぁー、最初は驚いたぜよ?

 なんじゃこの光る板は、ってな。

 でも使ってみたらめっちゃ便利じゃろ?」


 龍馬はスマホをクルクル回してみせた。


「現代の友達も増えてのう、最近は生徒にも人気ぜよ。

 TikTokも伸びちゅうき!」


「ティ……なんじゃと……?」


 沖田は目が死んだ。


「おまえ……なにをしておるのだ龍馬……」


「進歩に乗るんがワシの生き方じゃき!」


 龍馬はまるで観光するように令和を満喫していた。


 



「で、いつ頃からこの時代に?」


「2年ばぁ前ぜよ」


「に、二年……!?」


「せやき現代の教育免許も取ったがよ。

 いやぁ、便利すぎての……下手に元の時代へ帰る気にならん」


 沖田は頭を抱えた。


(……龍馬らしい。らしいが……)


「なぁ沖田。

 せっかく二人ともここにおるがやき、

 また幕末みたいに、手ぇ組もうや」


 その声は、時代を超えても変わらぬ、あの龍馬そのものだった。


「……もちろんだ」


 沖田の胸に、生きる目的がまたひとつ灯った。


 


 美咲の親友・沙羅が震えていた。


「ちょ、ちょっと待って……うちの担任……坂本龍馬……?」


「沙羅、大丈夫? 顔色悪いよ?」


「だって……私、沖田くんで悩んでたのに……

 イケメン幕末男子が増えた……」


「そこ!?」


 



 廊下の窓から覗いていた以蔵が、ぽつりと言った。


「……龍馬……?」


「え、知り合いなの?」


「アイツ、昔オレのこと拾ってくれた奴だ」


 その声には、荒んだ青年の中に残った小さな“恩”が滲んでいた。


「先生……龍馬……?」


 以蔵の胸に、複雑な感情が芽生える。


 


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