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沖田さん令和に惑う  作者: NoV


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11/26

「沖田の葛藤その2」


 退院してしばらく経った頃。

 美咲の家のリビングのテーブルには、彼女が学校で使う歴史資料集が開かれていた。


「……沖田くん。今日の授業で出てさ……その、気になるだろうと思って」


 美咲はおそるおそる、そのページを指で押さえた。

 そこには――幕末、新撰組。そしてその結末。


 沖田は静かにページを見つめた。

 “池田屋事件”“大政奉還”“鳥羽伏見の戦い”“新撰組の瓦解”

 そして――“沖田総司、療養の末に死去”。


 彼の眼がゆっくりと細められた。


「私は……とうに死んでおったのだな」


 声は落ち着いているが、わずかに震えている。


 美咲は慌てて言った。


「で、でも! 未来の人はみんな尊敬してるよ! 沖田くんは剣の天才で、仲間思いで……すごく、かっこいいって!」


 しかし沖田は静かに首を振った。


「私は……誇れるような最期ではなかった」

「病に伏し、戦にも戻れず、仲間の行く末をただ案じるだけ……」

「新撰組も、散っていった」


 そこまで言うと、彼はふっと息を吐いた。

 膝の上で握った拳が、ほんの少し白くなる。


「……もし、もう少し強ければ。もし、もっと賢ければ……」


 押し殺した後悔と無力感が、その言葉の端々に滲む。


 美咲はそっと彼の前に座り込んだ。

 真正面から沖田を見上げるようにして、はっきりと言う。


「ねぇ、沖田くん。あなたの“答え”はもう過去じゃないよ」


「……?」


「その時代には戻れないけど――」

「でも、いま生きてる令和の世界には、あなたが守れる人がたくさんいる」

「だってあなたは、あの死ぬはずだった未来から、生きてここにいるんだよ」


 沖田の呼吸が止まる。

 美咲の言葉が、彼の胸にすっと落ちていく。


「ここでなら……あの頃できなかったこと、できるよ」

「後悔を抱えたままでいてもいい。でも、それを理由に止まらないでほしい」


 沈黙の中、沖田はゆっくりと目を閉じた。


 そして――息を吸い、静かに吐いた。


「……そうだな」


 顔を上げた沖田の眼は、少し赤いのに、強い光を帯びていた。


「私があの時代で果たせなかった務め……」

「ここで果たすのも、悪くはない」


 彼の声は決意に変わっていた。


「美咲……令和を生きる皆のため、私は再び剣を取ろう」

「この時代の人々を、守ると誓う」


 美咲は思わず笑ってしまった。


「……ほんと、真面目なんだから」


 だが胸の奥がじんわり熱くなった。

 歴史では散ったはずの青年が、いま令和で新しい道を歩き出そうとしている。


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