「令和の真実、新撰組の末路」
◆ 夜のリビング、美咲の家
美咲の家に居候するようになって数日。
沖田は静かに、テレビの前で正座していた。
「……これが、今の世の“記録”なのか?」
「うん。“歴史ドキュメンタリー”ってやつ。
文字じゃなくて映像で見れるから……わかりやすいと思って」
画面には、幕末の京都。
煙る壬生。
浅葱色の羽織を翻し、疾走する新撰組隊士たち。
そして——
新撰組の崩壊の道を語るナレーション。
沖田の顔が、徐々に固くなっていく。
⸻
テレビには、箱館戦争の映像が再現されていた。
五稜郭。
砲撃。
白煙。
そして馬上で、最後まで刀を振るい続けた男。
――土方歳三は、箱館で戦死した。
その言葉が流れた瞬間。
沖田の肩が震えた。
「…土方さん……」
かつての頼もしき副長。
強く、硬く、まっすぐで——
誰よりも隊を思った男。
「……すまない……
俺があの時、そばにいれば……」
「沖田さん……」
「副長を、一人にしたのは……俺だ。
死病に倒れ……戦えず……
隊の背を預けることも……できなかった……」
拳を強く握りしめる。
その指が白くなるほどに。
⸻
番組は次に、近藤勇の最期を伝えた。
板橋での処刑。
官軍に捕らわれ、
新撰組局長・近藤勇は斬首された——と。
沖田の表情が完全に変わる。
痛みではない。
怒りでもない。
それは、
深い、深い後悔 だった。
「……局長が……
罪人として殺された……?切腹さえ許されず…」
「沖田さん……あの……」
「違う……!
あの人は……そんな末路では……!」
声が震え、視線が揺れる。
「近藤さんは……
誰よりも仲間を思い……
己を捨ててでも……人を守った男だ……。
そんな……誤解されたまま……
名を汚されて……死んだなど……!」
沖田の瞳に、涙があふれそうになっていた。
⸻
そしてナレーションは告げる。
――新撰組は瓦解し、
戊辰の流れに飲み込まれていった。
「俺が……弱かったからだ……」
ぽつりと落とした言葉に、美咲の胸が痛む。
「俺が健在なら……
隊の“剣”として……
道を開けた。
皆を守れた……はずなのに……」
「そんな……違うよ沖田さん」
「違わない。
俺が……死ななければよかっただけだ」
胸の奥から絞り出すような声。
「新撰組は……俺の仲間は……
皆、散っていった……
“壬生狼”と呼ばれ……
悪名の中で……
歴史の闇に沈んでいくのを……
俺は……この未来で見せつけられている……!」
沖田は自分の膝に額を落とした。
⸻
美咲はゆっくり沖田の隣に座る。
「沖田さんは……
自分のせいだって思ってるかもしれないけど」
そっと沖田の背に手を添えた。
「新撰組のこと、
この時代の人たちは“悪”だなんて見てないよ」
「……え?」
「ちゃんと“時代を支えた人たち”だってわかってる。
全部の人が誤解してるわけじゃない。
あなたの剣が、今につながってるって……ちゃんと評価してる」
「そんな……未来が……?」
「うん。
沖田総司の名前、
今でも日本中で知られてる。
教科書にも載ってるし……
映画にもなるし……
カッコいいって言われてるし……」
沖田の目がゆっくり上がる。
「あなた達は……
“悪者”になんてなってないよ。
むしろ……みんな憧れてる」
そして優しく微笑んだ。
「あなた達が……
未来にちゃんと届いてるよ」
⸻
沖田はその瞬間、
こらえきれずに目を伏せた。
「……そうか……
俺たちは……消えたのではなかったのか……」
「うん」
「散った仲間の名も……
恥ではなく……
未来に……残ったのか……」
頬を伝う涙を、沖田は止めようとしなかった。
「なら……よかった……
本当によかった……」
震える声で、何度も呟く。
「皆……未来に……生きている……」
⸻
涙を拭いたあと、
沖田は真っ直ぐに顔を上げた。
「……ならば俺は……
この未来を守ろう」
「沖田さん……」
「仲間が守れなかったこの国を。
歳三が散った未来。
近藤さんが見たかった明日を。
俺がここで……見届ける」
その眼差しは、
あの日の“新撰組一番隊組長”そのものだった。




