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沖田さん令和に惑う  作者: NoV


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10/26

「令和の真実、新撰組の末路」



◆ 夜のリビング、美咲の家


 美咲の家に居候するようになって数日。

 沖田は静かに、テレビの前で正座していた。


「……これが、今の世の“記録”なのか?」


「うん。“歴史ドキュメンタリー”ってやつ。

 文字じゃなくて映像で見れるから……わかりやすいと思って」


 画面には、幕末の京都。

 煙る壬生。

 浅葱色の羽織を翻し、疾走する新撰組隊士たち。


 そして——

 新撰組の崩壊の道を語るナレーション。


 沖田の顔が、徐々に固くなっていく。



 テレビには、箱館戦争の映像が再現されていた。


 五稜郭。

 砲撃。

 白煙。

 そして馬上で、最後まで刀を振るい続けた男。


――土方歳三は、箱館で戦死した。


 その言葉が流れた瞬間。


 沖田の肩が震えた。


「…土方さん……」


 かつての頼もしき副長。

 強く、硬く、まっすぐで——

 誰よりも隊を思った男。


「……すまない……

 俺があの時、そばにいれば……」


「沖田さん……」


「副長を、一人にしたのは……俺だ。

 死病に倒れ……戦えず……

 隊の背を預けることも……できなかった……」


 拳を強く握りしめる。

 その指が白くなるほどに。




 番組は次に、近藤勇の最期を伝えた。


 板橋での処刑。

 官軍に捕らわれ、

 新撰組局長・近藤勇は斬首された——と。


 沖田の表情が完全に変わる。

 痛みではない。

 怒りでもない。


 それは、

 深い、深い後悔 だった。


「……局長が……

 罪人として殺された……?切腹さえ許されず…」


「沖田さん……あの……」


「違う……!

 あの人は……そんな末路では……!」


 声が震え、視線が揺れる。


「近藤さんは……

 誰よりも仲間を思い……

 己を捨ててでも……人を守った男だ……。

 そんな……誤解されたまま……

 名を汚されて……死んだなど……!」


 沖田の瞳に、涙があふれそうになっていた。



 そしてナレーションは告げる。


――新撰組は瓦解し、

 戊辰の流れに飲み込まれていった。


「俺が……弱かったからだ……」


 ぽつりと落とした言葉に、美咲の胸が痛む。


「俺が健在なら……

 隊の“剣”として……

 道を開けた。

 皆を守れた……はずなのに……」


「そんな……違うよ沖田さん」


「違わない。

 俺が……死ななければよかっただけだ」


 胸の奥から絞り出すような声。


「新撰組は……俺の仲間は……

 皆、散っていった……

 “壬生狼”と呼ばれ……

 悪名の中で……

 歴史の闇に沈んでいくのを……

 俺は……この未来で見せつけられている……!」


 沖田は自分の膝に額を落とした。



 美咲はゆっくり沖田の隣に座る。


「沖田さんは……

 自分のせいだって思ってるかもしれないけど」


 そっと沖田の背に手を添えた。


「新撰組のこと、

 この時代の人たちは“悪”だなんて見てないよ」


「……え?」


「ちゃんと“時代を支えた人たち”だってわかってる。

 全部の人が誤解してるわけじゃない。

 あなたの剣が、今につながってるって……ちゃんと評価してる」


「そんな……未来が……?」


「うん。

 沖田総司の名前、

 今でも日本中で知られてる。

 教科書にも載ってるし……

 映画にもなるし……

 カッコいいって言われてるし……」


 沖田の目がゆっくり上がる。


「あなた達は……

 “悪者”になんてなってないよ。

 むしろ……みんな憧れてる」


 そして優しく微笑んだ。


「あなた達が……

 未来にちゃんと届いてるよ」



 沖田はその瞬間、

 こらえきれずに目を伏せた。


「……そうか……

 俺たちは……消えたのではなかったのか……」


「うん」


「散った仲間の名も……

 恥ではなく……

 未来に……残ったのか……」


 頬を伝う涙を、沖田は止めようとしなかった。


「なら……よかった……

 本当によかった……」


 震える声で、何度も呟く。


「皆……未来に……生きている……」



 涙を拭いたあと、

 沖田は真っ直ぐに顔を上げた。


「……ならば俺は……

 この未来を守ろう」


「沖田さん……」


「仲間が守れなかったこの国を。

 歳三が散った未来。

 近藤さんが見たかった明日を。

 俺がここで……見届ける」


 その眼差しは、

 あの日の“新撰組一番隊組長”そのものだった。

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