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ヴィオラはプレゼントを抱えてそわそわしながら婚約者を待っていた。
王太子やランゴ伯爵の薦めもあってヴィオラは初恋の男性クロードと婚約した。無口なクロードは妹のマーガレット曰く「猛特訓した」らしく「ずっと君が好きなんだ」と熱心に口説いてきて、ヴィオラはそんな真剣な彼にまた恋をした。
そんな婚約者は先日こう頼んできた。
「今度、師匠に重要な仕事を任されるのだが、その時に君を思い出す物があると心強い。良かったら、お守りとして何か持ち歩ける物を頼めないだろうか」
ちょっと照れ顔の婚約者に胸がきゅんとしたヴィオラは「任せてちょうだい!! 神殿で祝福を授かってくるわ!!」と勢い良く答えたのだが。悲しいかな、気合が空回りしすぎてなかなか物が決まらず、母に叱られて無難に刺繍を刺したハンカチにしたのだが。今度は布地やデザインなど細部を悩みに悩んで時間が過ぎ、必死に取り組んででき上がったのは頼まれた期限ぎりぎりだった。
婚約者がやって来るとヴィオラはにっこりと微笑んでプレゼントを差し出した。
「お待たせしてごめんなさい。どうぞもらってくださいな」
「ありがとう、開けてみても良いかな」
内心緊張しながらヴィオラがうなずくと、クロードは丁寧な手つきで包みを開いてハンカチを取り出して広げた。
ハンカチはクロードの瞳に合わせた淡い緑色で、隅には幸運を運んでくるといわれている小鳥の刺繍を刺している。鳥の色は母やメイドたちに薦められてヴィオラの瞳の色にして密かに「いつも応援している」と彼への想いをこめてみた。クロードは気づいてくれたのか小鳥を指先でなぞると微笑んだ。
「この小鳥はいつか君が話していた、童話に登場する幸運を運ぶ小鳥かな?」
「ええ、そう。神殿で祝福も授かったから、きっとご加護があるわ」
ヴィオラは元々刺繍があまり好きではなく、元婚約者を含めて誰にも渡すこともないとサボっていたこともあってすっかり腕が鈍ってしまい、母やメイドたちに指導してもらって何回も作り直した。
やっと仕上がったクロードへのプレゼントは皆が「素晴らしいですよ」と言ってくれたが。それでもヴィオラは伯爵令息として良い物を見て目の肥えたクロードが気に入ってくれるか不安でしょうがない。ついでに、口の悪い弟に「神殿の祝福よりも、姉上の重すぎる想いの方が効果がありそう」と言われたのも地味に傷ついた。
いろんな意味でそわそわしていると、ハンカチをじっと見つめていたクロードが微笑んだ。
「とても素敵なハンカチだ。特に君にそっくりなこの小鳥を見ていると物語を語る君のきれいな声を思い出す。ありがとう、ヴィオラ。お守りとしていつも身に着けて大事にするよ」
その温かい笑顔と言葉にヴィオラは「ああ、私はこの人が好き」と恋に落ちるのを感じた。そして、この先何度でもそうなるだろうとも。
ヴィオラもまた自分を好きだと手を差し伸べてくれた婚約者に微笑み返した。
「喜んでくれて良かった。お仕事、がんばってね」




