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第十一章 氷壁に揺らぐ影

1 北境からの狼煙


 未明。王宮の戦略室に布陣図が広げられた。

 北方ラグナ峡谷の烽火台が連続して赤い狼煙を上げたと報せが入る。

 「旧王国騎士団の残党、推定三百」

 報告官の声に参列将校の顔がこわばる。

 ブリュンヒルドは即座に指示を下す。

 「正規軍二個大隊を主力に、遊撃騎を左翼へ。私は先遣として少数を率いる」

 総帥席のシグルドが眉を動かすが、口を挟まない。

 議場を出る際、彼女は短くだけ言った。

 「私は“女王”である前に、前線に立った騎士よ」

 答えは要らない――そう言わんばかりに背を向ける。



2 雪嶺の誓い


 北へ向かう街道。夜毎の冷え込みが早くも霜を降ろしていた。

 行軍の列の先頭、騎乗するブリュンヒルドの掌がうずく。

 雪明りの下で薄く浮かぶルーンの痕。

 (あの火と血を、また繰り返させはしない)

 ふと、風の中に低い囁き。

 《焔を呼べ、血を呼べ》

 ファフニールの影が沈黙を破って蠢く。

 彼女は手綱を握り直し、胸の奥で呟く。

 「炎は灯り。闇を焼き尽くすために使う」



3 氷壁の対峙


 ラグナ峡谷。切り立つ氷壁の前に旧騎士団旗が翻っていた。

 最前列に立つ漆黒鎧――グンナル。

 「ここで引け、ブリュンヒルド!」

 声はかつて戦場で背を預け合った時と同じ、しかし熱が違う。

 「罪も家も剣も失い、なお王座に居座るか!」

 その叫びに兵たちが鬨を上げる。

 ブリュンヒルドは馬を下り、兜を脱いだ。

 「王座は呪いを払うための椅子。復讐の玉座ではない」

 グンナルは剣を抜く。

 「なら、その呪いごと貴様を葬る!」

 氷壁に風が唸り、二人の間に静かな殺気が張りつめた。



4 剣と槍とルーン


 一合目、火花。 二合目、氷壁に鋼がきしむ。

 グンナルの剣筋には決死の執念が宿る。

 ブリュンヒルドは受け流しながら、彼の瞳にかすかな迷いを読み取った。

 (まだ憎しみだけで動いてはいない――)

 隙を突き、柄で彼の刃を押し上げる。

 ルーンの痕が淡く輝き、槍にかかった氷雪を霧散させた。

 グンナルの動きが止まる。

 「……その光は、呪いだ」

 「いいえ、誓いよ。炎はもう、私を焼くためのものじゃない」

 膝を折りかけた彼に刃は向けられなかった。

 代わりにブリュンヒルドは背を向け、兵へ号令をかける。

 「退路を開けなさい。武器を捨てる者には刃を振るわない」

 静寂。

 やがて旧騎士団の盾が一枚、氷上に落ちた。



5 雪解けの灯


 戦いは回避された。峠に夜が下りるころ、焚き火が点々と灯る。

 ブリュンヒルドは遠巻きに座するグンナルを一瞥し、言葉を投げた。

 「明日になれば雪が降る。凍える前に火に当たれ」

 返事はない。だがグンナルは立ち上がり焚き火へ歩いた。

 その背にブリュンヒルドは刃を向けない。

 夜空には群星。

 ファフニールの影は再び沈黙し、ルーンの痕はただ微かな脈動を刻む。

 復讐の火種を握りしめたまま、彼女は灯を絶やさぬように手をかざした。

 ――愛も憎しみも燃え残ったまま。

 それでも道は、まだ続いている。


なんか戦闘ものっぽくなってきた( ̄▽ ̄;)

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