プロローグ 焔(ほむら)と雪
北欧神話をモチーフに仕上げてますが、内容は則してません。まだ初心者です。よろしくお願いします。
白い夜だった。焚き火のように燃える城砦の灯が、黒い空に滲んでいた。
まだ若い女はひとり、凍てつく地の上に立っていた。その髪は深い夜を思わせる漆黒で、風に揺れるたび雪をはらい落とす。睫毛にも白い雪が積もり、長い睫毛の下から覗く瞳は冷えた菫色に光を宿している。
誰もが振り返るほど整った顔立ちだった。だがその美貌を飾るものは何もなく、鎧の下に隠された体は傷と鍛錬の痕で覆われていた。見る者が恐れ距離を置くほどに――彼女の孤高さは研ぎ澄まされた刃そのものだった。
ブリュンヒルド。氷の国に生まれ、槍の才を見出され王国に仕える戦乙女。だが今、彼女の胸の奥で燃えていたのは忠誠ではなかった。
――裏切り。
誰より信じた人が彼女を捨てた。魂を裂くほど愛したその男が彼女に“魔女”という名を与え、地に縛りつけた。
その痛みが胸に残ったままだった。
雪は降り止まぬ。
やがて肩に積もり、握り締めた手の上にも白く降り積もる。
「もう愛など信じない」
その呟きは吐く息と共に空へと消えた。だが心に灯った炎だけは雪にも風にも消せなかった。
黒檀の槍を握る手がかすかに震える。
その刃はいずれ愛した者へと向けられるだろう。復讐のためか、それとも――
彼女はまだ知らなかった。
この痛みがやがて再び「誰かを守る強さ」へと姿を変えることを。そしてその先に自らが“思いもよらぬ未来”が待っていることを。
だが今はただ雪の下で――静かに夜が明けるのを待っていた。