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赤字続きの魔石細工店  作者: 夜風
第十章
99/115

◆思わぬ再会 (1)

 

 

 

 

 

「本当にごめんなさい!!」

 

 ラヴィンの隣で、フェドラが赤髪を揺らしながらバッと勢いよく頭を下げた。

 彼女が頭を下げる先に立つその人は、苦笑しながら言う。


「いえ、そんなに頭を下げないでください」


 青いリボンで一つにまとめた暗い茶色の髪。

 中性的で綺麗な顔立ちに、髪と同色の瞳。

 生誕祭の日に、あの酒場にいた男性だった。


 いや、男性……ですよね?


 ラヴィンは、思わずその人の顔をまじまじと見つめてしまう。

 だって、本当に綺麗な顔をしている人で、女か男か正直分からない。

 声もまた、どちらともとれるような高さの、心地よい落ち着いた響きだった。


 その視線に気づいたのか、凛とした目がラヴィンの方をむいた。


「…私の顔に、何かついていますか?」

「あ、いえ。ただ、とても綺麗な顔をしていらっしゃるので、その…女性なのか男性なのか分からなくなってしまいまして」


 失礼なことを言っているのは承知の上で、ラヴィンは正直にそう言った。


 すると、その人はきょとん、としたように目を瞬かせた後、口許に片手をあてて笑い出した。

 

「あっはは…なんだ、そんなことだったのか。…どちらだと思います?」


 実に愉快、とでも言うように笑った後、彼はそう言った。

 

 まさかの疑問形。

 明確な答えが返ってこなかったため、結局、服装は男のものだからきっと男性だろうとラヴィンは一人心の中で結論を出す。



「あの、本当に、ごめんなさい」


 相変わらずしょんぼりとした様子のフェドラ。

 それは、先ほど図書館の閲覧室で突然叫び声をあげてしまい、静寂を破ったことで司書に叱られてしまったからなのだが。

 そのとき、たまたまそばにいた彼も連れと勘違いされ、とばっちりを受けて一緒に注意されてしまった。

 そのことがよほど申し訳なかったのか、フェドラは顔を上げたものの気まずそうな表情のまま、再び小さく謝罪の言葉をこぼした。


「ふふ、貴女ももう、謝らないでください。本当に何も気にしていませんから」


 彼は穏やかに微笑みながらそう返す。

 声にはまったく怒気がなく、むしろフェドラを気遣い優しく包み込むような温かさがあった。


 そんな中、エーディが明るく言い放つ。


「それにしてもまた会うなんて。ホント、びっくりしました」

 

 その言葉に、彼も微笑みながら頷く。


「ええ、私も驚きました。またお会いするなんて」

「よかったら、俺たちの方の机に来ませんか?まだ、席空いてますし」

 

 エーディの突然のお誘いに、エーディ以外の全員が思わずエーディの顔を凝視する。

 

 この人、いきなり何を言いだすんですか。

 誘われた彼も、やや困惑した様子を見せている。

 表情こそ微笑みを保っているが、片手を顎に添え、ほんのわずかに首をかしげていた。

 

「ええと…でも、貴方がたは勉強をしていらっしゃったのでしょう?私のような部外者がいては、邪魔ではありませんか?」

「いえ、ぜんぜん大丈夫です!ここで会ったのも何かの縁です、よければお話ししたいなぁ〜なんて」

 

 おいおい、本当にこいつは何を言いだすんだ。

 その場にいた一同の心境は、まさにそれだった。

 が、次のエーディの一言で、ラヴィンたちは彼の意図を察することになる。

 

「な?せっかくだし、ヨランダも一緒に話したいよな?」


 突然名前を呼ばれたヨランダは、「えっ」と小さく驚いた声を上げた。

 そして、その声に反応して彼の視線が自分に向けられると、はっとして頬を赤らめる。

 薄紫色の瞳を彷徨わせながら、やがて小さな声で「……はい」とエーディの言葉を肯定した。


 ――ああ、そういうことか。

 ようやく事情を飲み込んだラヴィンたちも、エーディとヨランダに加勢する。


「あの、僕からもよろしければご一緒させて頂きたいのですが」

「そうね、せっかくだし」


 ラヴィンとメリナの言葉に、彼は苦笑しながらも、頷いてくれた。


「……そうですね、きっとこれも何かの縁です。そちらの席に行かせてもらいましょうか」

 




 中性的な彼は、名をリオと名乗った。


「リオさんは、王都に住んでいるんですか?」


 エーディが尋ねる。

 ……この人、勉強はいいんですかね。


「いえ、私が暮らしているのはテータムなのですが…」

「ああ!王都から東に行った街ですよね」


 ポン、と軽く手を合わせながら言うエーディの言葉に、ラヴィンも脳内で地図を思い浮かべる。

 確か、王都から馬車で4、5日ほどの距離だった気がする。


「ええ。ただ、私の連れの仕事の関係でしばらく王都に滞在することになりまして」

 

 リオさんはとても親切な人で、エーディやフェドラたちの質問にも一つひとつ丁寧に答えてくれていた。

 そんな中、ずっと気になっていた彼の周りに積み上げられた本の山に目が留まり、ラヴィンは尋ねてみる。


「それにしてもリオさん、すごい量の本ですね」

「ああ、これ」

 

 ほとんどは先ほど言った連れに頼まれたものなんです、と言いいながらリオさんは軽く山のてっぺんをポンポンと叩いた。

 背表紙をちらりと見ると、生物図鑑のような本が多いようだ。

 中には、魔法の基礎を扱ったごく初歩的な子供向けの本も数冊混ざっている。


 今度はリオさんがエーディたちのノートや教科書に目を向け、興味深そうに尋ねる。

 

「ところで、エーディさんたちは、みんなで勉強して…テストか何かあるんですか?」

 

 勉強、テスト、という単語に、エーディはサァーっと顔から血の気が引いていく。

 代わりに、ラヴィンが答えた。


「僕たち、魔法学校の生徒なんです。今は冬休み中で……その課題や、冬休み明けのテスト勉強をしに来たんです」


 実のところ、誰かさんたちの勉強の仕上がり具合がかなり危うかったので、こうして集まっての勉強会を開いたのだが――それはあえて言わずに飲み込んでおく。


 ラヴィンの返答に、リオさんは「ああ、やっぱり学生さんでしたか」と一人納得したようにうんうんと頷いていた。

 


 

 


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