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赤字続きの魔石細工店  作者: 夜風
第九章
96/126

◆兄と弟

 




 ーーーーカタン。




 その微かな物音に、カールは己の手元からその音源へと視線を向けた。



「こんな真夜中に一体何処の泥棒かと思えば、お前だったか」



 今カールのいる部屋の入り口の開いたドアに凭れるようにして腕を組みながら立つ男は、その金茶色の髪を揺らしながら呆れたようにそう言った。


「あっはは、期待を裏切ってごめんねぇ。泥棒の方が良かったー?」


「馬鹿言え」


 へらりと笑うカールに、ハイラムは溜息を吐きながら中へと入り、部屋の明かりをつける。

 急に明るくなった視界が眩しかったのか、カールは僅かに目を細めた。


「全く、明かりくらいつけたらどうだ。そしてそもそも人の部屋に勝手に入るな」

「えー何か見られちゃマズい物でもあるのかなぁ?」

「ない」

「ほんとにぃ?気になるぅ〜」


 巫山戯た調子で話すカールだったが、ハイラムの視線が己の手元に向けられているのに気付くと少し眉を下げるようにして笑う。


「勝手に入ってごめん」


「ーーいいさ、いつもの事だろう」


 何を今更、と言うようにハイラムが肩をすくめてみせると、カールはハイラムから己の手元のそれへと目を戻す。

 同じようにハイラムもそちらへと視線を移す。

 そこでは、幼い三人の子供と懐かしい人が写真の中で笑っていた。


 そういえば、久し振りに三人でご飯を食べたなとハイラムは今日のディナーを振り返る。

 王宮での魔石細工職人の召集の帰りにそのままカールも連れてハイラムの家でリオやシルバー達と夕食をとったが、中々に楽しい時間だった。


 同じような事を考えていたのか、カールがポツリと呟く。


「三人で食事を囲うなんて久し振りだったねぇ」


「お前もシルバーも中々ここへは戻って来ないからな」


 テータムの外れに店を持つシルバーは元々の性格に加え、馬車で5日もかかる王都へは滅多に来ないし、各地を転々と旅するカールは言わずもがな。

 時々顔を合わせる事もあるが、最近までは三人が一緒に揃う事すら滅多になかった。


 そう考えると、最近はカールとシルバーとよく顔を合わせる。

 魔石採取の時然り、秋の大会然り。

 不思議なものだと思いながらも、そうした些細な変化の中にハイラムは時の流れを感じていた。


 リオと共に過ごすようになったからか、はたまた別の要因からかは分からないが、シルバーは一時期より随分と丸くなった。



 カールはーーーー




「そう言えば、シルバーをまたこき使うつもりでしょぉ?」

「なんだ、お前もこき使って欲しいか?仕事は山程あるぞ」

「うわぁ、余計な事言うんじゃなかった」


 うへぇ、と嫌そうにカールは舌を出す。


 それでもすぐに写真へと戻される視線に、ハイラムは静かに問う。



「どうせ今回もお前はここに長く留まるつもりはないのだろう?」


「ーーーうん」



 シルバーは一時期より随分と丸くなった。

 あいつは良い方向に向かっていっている。


 でもこいつは、カールはーーーーーー変わらない。


 各地をふらふらとするようになった時は、それでこいつの何かが変わるのなら、こいつの中で何かしらのけりをつけられるのならと思ったが。

 いつまで続けるつもりだ、といつも口に出しそうになるが、結局今回もハイラムはそれを胸の内に留める。


「いつ発つつもりだ」

「んー…そのうちぃ?」


 曖昧に微笑みながら、カールは手にしていた写真を元の位置に戻す。


「いつも言っているが、その写真持っていってもいいんだぞ」

「ありがとぉ」


 感謝の言葉を述べながらも、カールが再びその写真を手に取ることはなかった。


「そろそろ寝ようかなぁ。ハイラムも早く寝なよぉ〜」

「お前に言われたくない」


 誰のせいでこんな時間に起きてきたと思ってるんだ、というハイラムの言葉にカールはひらひらと手を振りながら部屋を出て行く。



 長く伸びた黄緑色の髪がドアの向こう側に消えるのを見送ると、ハイラムは写真立ての元まで進みそっと写真を手に取る。


 ーーー全く、どうしたものか。









『ーーーはあ?写真?』



 空がよく晴れた日だった。



『ーーーそうだ。父上がな。カールもいる。だからほら、シルバーもこっちに来い!』


『っおい!腕を引っ張るんじゃねぇ!ハイラム!!』



 あの人が珍しい事を口にしたものだから、嫌がるシルバーを無理やり引き摺って行ったのを覚えている。



『あ、やっと来たぁ〜』


『シルバーを捕まえるのに手間取ってな』


『うるせぇよ。つーか何でまた写真なんか…』




『すみませんね、シルバー。気持ちが良いくらい空が青く晴れているので、たまには家族写真でもと思いまして』




 空がよく晴れていたから、なんて。

 今にして思えばきっと適当に取ってつけた理由だったのだろう。



『家族って言うんならそれこそハイラムと、』


『ーーー家族ですよ』



 ーーーそう、家族だ。




『シルバーもカールも。直接の血の繋がりは無くとも、私の大切な家族です。ね、だから良いでしょう?私の我儘に少しだけ付き合ってください』





 血の繋がりは無くとも、幼い時より共に同じ屋根の下、魔石細工の腕を競い合いながら育った。



「……手のかかる弟達を持つと、大変だな」



 少しは心配するこっちの身にもなってほしいものだ。


 不器用な二人の弟を思いながら、ハイラムは写真を元の場所に戻し、部屋の明かりを消した。




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