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赤字続きの魔石細工店  作者: 夜風
第九章
95/123

◆召集された職人たち (3)

 

 

 


 ーーーこれは、あれだな。



 国王が去った後の静まり返った部屋の中で。

 シルバーは国王が残した言葉を噛みしめる。

 重く閉じられた扉の向こうには、もう陛下の姿はない。けれど、その場に残された空気には、あの人が発した言葉の重みがまだ消えずに残っている。


『誇りに思う』


 あんなことを言われて、ひとりの職人として奮い立たない訳がない。


 きっと、みんな、身体が熱を持って。

 

 その言葉が職人達にどれほどの力を与えるのかを、きっとあのお方はよく理解している。

 

 ああ、ほら。

 周りの職人たちの表情が、こんなにも輝いて。



「……やるしかねぇよな」


 シルバーがぽつりと呟くと、すぐ隣から緩い声が返ってきた。


「陛下にあんなこと言われちゃったらねぇ。シルバーも、口元が笑ってるよぉ?」


 体勢を崩し、机に肘をつけ頬杖をつきながらカールがシルバーの表情を指摘する。

 ……お前だって、人のこと言えないだろうに。


「うるせえ!黙っとけ!ていうか、カール、てめぇちゃんとした返事出来んじゃねえか!なら、いつもの、あのふざけたような喋り方はやめやがれ!!」


 シルバーが声を荒げて睨むも、カールはわざとらしく困ったような笑みを浮かべ、肩をすくめてみせるだけだ。


「あ〜だってぇ、愛称じゃなくカールヒェンなんてちゃんとした名前で呼ばれたらさぁ…なんか、こっちも真面目にやらなくちゃいけないかなぁって思って」

「やっぱり、そうか!真面目にってことは、普段はふざけてる自覚があるんだな!?」

「ふざけてなんかないよぉ。これがノーマルな僕だからぁ。さっきは空気読んだだけだからぁ」

 

 噛み付くシルバーと、それをのらりくらりとかわすカールに、周囲の職人たちが小さく笑い声をあげ、室内の雰囲気が少しだけ和らぐ。


 そこへ、ハイラムの呆れたような声が飛んでくる。



「ーーーお前ら、いい加減にしろ。馬鹿なのがバレる」


「ーーーここに来た時散々馬鹿な話してたのは、誰だ?」

 

 

 てめぇにだけは、言われたくねぇ。

 

 シルバーは真面目な声でそう言った。

 


 

  ***

 



 その後、集められた職人たちは解散となった。

 また日を改めて詳細な打ち合わせをすること、そしてそれぞれの役割分担について決めることとなった。


  部屋を後にする職人達の後ろ姿を見送りながら、シルバーは隣に立つハイラムに問いかける。


「後日って言ったって、大まかな流れは既にてめぇの中で出来上がってんだろう?」

「まあな」


 態とらしく小さく肩をすくめてみせるハイラムに、シルバーははっと鼻で笑う。

 次の集まりではさしずめ、職人達にハイラムの案で良いか確認を取るようなものだろう。


「で?俺は何をすれば良い」


 魔石細工に関して、今のアルビオン王国でハイラムは間違いなく随一の職人だ。

 かつ人の扱いに長けたこいつは、それぞれの職人が最も力を発揮できる場所を理解して、式典の計画を組み立てているに違いない。


 なら、俺はそれに従うまでだ。


「お前の出番は本格的に式典用の魔石細工作りが開始してからになるだろう」


 一度シルバーに視線を寄越してから、ハイラムは前を見据える。


「まずは国中から最高品質の魔石を集めなくてはならない。それと同時進行で作品の構想を練っていく」


 魔石細工の構想を練るーーーつまり、最初の土台を固めるのは、ハイラム達、王宮に仕える魔石細工職人の役目になるだろう。

 国を挙げての催しは、シルバー達が自分の店で注文を請け負うのとは訳が違う。

 政治的な要素も多分に絡んでくるそれは、王宮と、彼らが抱える職人達の領域だ。


「ってことはその構想が形を得るまでは俺達は待機ってことか」

「夏の終わりまでには制作に取り掛かりたいと考えている」


 シルバーはなるほどな、と小さく頷く。


「なら次の集まりで詳細を伝えた後、再び全員が集まるのは夏になるってわけか。まあ、職人にはそれぞれの店があるし、式典の作品制作で店を空けるとなると相応の準備が必要だしな」


 引き継ぎだったり、今抱えている注文だったり。それらを片付けるのに時間を設けるのは妥当な判断だろう。


 その間に俺もアルジェンテとリオをどうするか考えてーーーーーと、シルバーが頭の中で今後の段取りを組み立て始めたその時、ハイラムがさらりと告げた。


「ああ、お前にはもうしばらくここにいてもらうぞ」


「は?」



 その後に続いたハイラムの言葉に、シルバーの悲鳴にも似た怒声があたりに響き渡った。



 

 

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