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赤字続きの魔石細工店  作者: 夜風
第九章
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◆召集された職人たち (2)

 





 あれからほどなくして王宮の役人が到着し、すぐに話が始まった。

 職人たちは部屋にある長い机の周りに並べられた椅子に座って、役人とハイラムから話を聞く。

 シルバーは集まった面々と視線を交わすことなくぼんやりと説明役の役人の顔を見ていた。


 

「来年の冬、か」

 

 

 説明を聞く中で、シルバーはぽつりと呟く。

 その声は部屋のざわめきに溶け込み、ほとんど自分でも気づかぬほどの小さな音だった。


 来年の冬。

 マキナとオリエンスを招いて開かれるパーテ…式典の準備のために、今ここに自分たちが集められているのだという。

 

 アルビオン王国から南西の大陸にある魔道具の国、マキナ。

 東の大陸にある亜人の国、オリエンス。

 そして、このアルビオン王国を含めた三国はかつて戦争をしていた。

 それがようやく和解という形で終結し、その和解の証として、年に一度、三国が交代で主催する記念式典が開かれることになったのだ。


 一年ごとにその会場となる国は順番に変わる。

 アルビオン王国で行われた次の年はマキナで。マキナの次の年はオリエンスで。


 つまり三年に一度の周期で回ってくるわけだ。

 アルビオン王国が会場となるのは次で3回目だった。


 

「そうか。また、ここでやるのか」

 

 すっかり式典のことなど失念していたシルバーは、話を聞いていく中で来年がアルビオン王国の番であると知った。


 忘れかけていた記憶がぼんやりと蘇る。

 初めてこの国で式典が催されたのは、もう随分前のことだ。

 あの頃はまだ王都に暮らし、カールもハイラムも共にいた。職人たちが夜を徹して準備に明け暮れ、国中が慌ただしく動いていた。シルバーも例外ではなく、ろくに寝ずに作業に没頭したものだった。


 そういえば二回目の時もそんな話が来ていたな、と今頃になって思い出す。

 

「けど、二回目の時は関わってねぇんだよな」

 

 シルバーだけでなく、二回目の時はカールも不在だったと聞く。

 ……どうも、各地をふらついているあいつを捕まえることができなかったらしい。


 


 やがて説明が一通り終わり、部屋の空気がわずかに緩んだその時だった。


 ――ギィィ……


 突如、入り口の扉が開かれ、静かな部屋にその音が響き渡る。

 誰もが一斉に扉の方へ視線を向け、そして現れた予想外の人物に目を見開いた。

 

 そこに立っていたのは、白を基調とした見るからに上等そうな布地に見事な装飾の施された衣服を纏った人物。


 さらに何よりも目を引くのが、その華やかな衣装にも引けを取らずに眩く輝く、陽光そのものを纏ったような金の髪。

 



「こ、国王陛下!!何故ここにいらっしゃるのですか…!」

 


 沈黙を破ったのは、説明をしていた役人だった。

 驚愕と戸惑いを隠せない様子で声を上げ、思わず立ち上がる。


 

 慌てふためく役人と驚き固まる職人達の姿に、陛下は少しだけ悪戯っぽく口角を上げてみせた。


 その笑みにシルバーは顔を引攣らせる。

 ……元が強面だから、そのニヤリとした表情は悪役のそれにしか見えねぇ。

 


「なに、式典の準備をお願いしているのだ。私からも挨拶をしておかねばなるまいと思ってな」


「陛下…!!」

 


 役人から咎めるような声が上がるも全く気にするそぶりがない。

 この王は生誕祭で見せた威厳に満ち溢れている姿を持つ一方で、こうした一面も併せ持っている。

 以前王宮に勤めていたことがあるシルバーはそれをよく知っていた。

 だが、それに振り回される周囲の人物が気の毒だ、とシルバーはこの御仁と顔を合わせるたびにそう思うのだった。


「さて、」

 

 と、陛下は突然その表情を引き締め雰囲気をがらりと一変させた。



「ハイラム・フィニアン」

「ーーーはい」

 

 低く、重みのある声が室内に響きわたり、名を呼ばれたハイラムの表情も真剣なそれへと変わる。

 


「カールヒェン」

「ーーーはっ」

 

「シルバー」

「ーーーはい」

 

 陛下は、その鋭い眼差しを職人一人一人に向け名前を呼んでいく。

 その空気に呑まれて、誰もが僅かな緊張を見せながらも真剣な表情としっかりとした声でそれに応える。

 小さな部屋は、まるで王宮の大広間のような威厳に包まれ、皆がその重圧に思わず背筋を正していた。


 そして、全員の名を呼び終わったところで、陛下は王都に集った魔石細工職人達に向けて口を開く。


 


「私は、これほどの素晴らしい職人たちがアルビオン王国にいることを誇りに思う。式典のため、その力を余すところなく発揮してくれ。頼んだぞ」

 



 そう告げると、陛下は踵を返して扉の方へと向かい、部屋を去っていった。

 

 

 

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