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赤字続きの魔石細工店  作者: 夜風
第九章
93/123

◆召集された職人たち (1)

 

 

 

 

 

 

 時は、少し前に遡る。

 

 


 

「……また、来ちまった」

 

 シルバーは無駄に広く、無駄に煌びやかな場で沈むような声色でそう呟いた。


 隅々まで埃一つなく輝く大理石の床。

 繊細で複雑な模様の描かれた美しい壁。

 本来ならば見る人を感嘆させるはずのそれら全てが、シルバーの元々ほぼ無に等しい気力をさらに奪い去っていった。


 立ち止まってしまったシルバーの横を、ハイラムが通り過ぎていく。

 溜め息を吐き、しぶしぶシルバーもその後をついて歩いていく。

 

「で?今回、どれくらいの人数が集められてるんだ」

「そんなに多くはない。20人程度だ」

 

 見覚えのある道をいくつも通って、辿り着いた先でハイラムが重厚感のある扉を開ける。

 

 その部屋には魔石細工職人たちが集められていた。

 広い室内を見回して、シルバーはちらほらと見知った顔を見つける。

 以前、王宮にいた時に一緒に仕事をしていた職人達だ。

 ……あ、もやしもいるな。

 シルバーはテータムで見慣れた青年も見つけた。

 

 一方で、初めて見る顔の職人達もいる。

 若く、少し表情が強張っていることから、恐らく初めて王宮に呼ばれたのだろう。

 

 だが、いくら探しても見慣れた黄緑色は見当たらない。

 

 

「あいつ、本当に転移で来るつもりなのか」

「………そうではないことを願おう」

 

 

 そして、シルバーとハイラムは職人達の方へと歩いて行った。

 

 

 

 


 

 ーーー結論から言うと。

 カールは直接王宮内に転移してきた。

 

 お前、防御の魔法を何処か壊して入ってきたのか、と聞けば。

「そんな派手なことはしないよぉ、魔法の隙間をすり抜けてきただけ〜」という回答が返ってきた。


 ……そんなことを「だけ」と言える奴は、そうそういないだろう。

 そして、派手じゃないと言ったところも間違っている。

 突然転移して現れたことで集められていた職人たちは驚いていたぞ。

 

 ただ、

 

「えっ、カールさん!?」

「おいおい、ここって防御の魔法が張られてるよな?結構、つーかかなり頑丈なやつが」


「……知らないのか?あの人、だいたいいつもああだぞ」

「……まあ、カールさんだもんな」

「……そうだな。あの人なら、できても不思議じゃねぇよな、うん」

「……カールさん、流石です」

 

 

 ………何故だ。

 最終的に一部の職人たちから尊敬の眼差しを向けられていた。


 やめとけよ。

 あんな奴に憧れんな。

 というかそもそも直接転移で王宮に入るのは、褒められたもんじゃねぇぞ。

  ……王宮にかけられてる魔法も、こんなに簡単に侵入を許していいのか心配になるけどな。


 

 シルバーがカールに尊敬の念を送る彼らを心配していると、今度は違った内容の会話が聞こえてくる。

 

 

「それにしても、すげえな」

「ああ。ハイラムさん、シルバーさん、カールさん……三人が揃ってる。豪勢な面子だ」

「以前はあれが普通だったけど、あの人が死んでからみんなバラバラになっちまったもんな」

「そうだったね。確か、シルバーさんはどこかの町に行っちゃって、カールさんも王都からいなくなっちゃったよね」

 

 すると、それを聞いていたカールが面白そうに笑った。


「ふふ…僕たち、注目されちゃってるねぇ?」

「まあ、三人で王宮に来るのは久しぶりだからな。仕方のないことだろう」

 

 特に気にする様子もなくハイラムはカールに答える。

 


「なんで、バラバラになったんだろう?」

「さあ…噂だといろいろあるけどな」

「あの人の工房を誰が継ぐかで喧嘩別れした説もあるぞ」

 

 さらに聞こえてきたそれに、思わずシルバーは溜め息をつきたくなる。

 どんな場所でも噂好きはいるもんだな。

 随分と想像力が豊かなことで、ともう一度溜め息を吐くシルバーの隣ではカールがくすくすと笑っている。


「みんないろいろ考えるねぇ〜」

「………てめぇは楽しそうだな」

「だって、身に覚えのない噂ほど面白いものって、ないよねぇ〜」


 ……そういえばこいつはこういう奴だった。


「同感だ」

 

 すぐ近くから聞こえた賛同する声の方を見やれば、ハイラムも同じように面白そうに笑っている。

 


 

 と、

 

「よっ!シルバー!」

 

 シルバーは突然後ろから肩を強く叩かれた。

 

 予想外の衝撃に、シルバーは肩をおさえながら後ろを振り返ると眉をつり上げる。

 

「痛えぞ!もう少し、加減ってもんをしやがれ!!」


「おお、相変わらず短気だな」

 

 そう言っておどけてみせるのは、以前王宮に勤めていた時の仕事仲間。


 肩を叩いてきたそいつを皮切りにして、わらわらと見知った顔がシルバーやカール、そしてハイラムに声をかけにやってくる。


「で、なに?お前ら、ホントに喧嘩でもしたのか?」

「そんなもん、ただの噂に決ま、」

「そうそう〜。もう大喧嘩だったよねぇ、ハイラム〜?」

「ああ、凄まじかったな」

「…おい、てめぇら、何言ってやがる」


 おいおいおい、何を言い始めるつもりだこいつらは。



「シルバーが、『俺は魔石細工に人生を捧げる、白爛石と結婚する』とか言い始めてな。兄として、流石に一生独り身は駄目だろう、と弟の将来に危機感をおぼえてな」

 

 その言葉そっくりそのまま返すぜ、ハイラム。

 言っとくがその俺より年上のくせに独身なのはてめぇだぞ。

 まずは自分自身に危機感を持て。



「そうそう〜。だからぁ、僕は綺麗な女の人を探しに旅に出ることにしたんだよぉ〜」


 ………カール。

 女を探して魔獣の巣窟や大陸の未開の地にまで足を踏み入れる奴がどこにいる。


 

「俺も必死に説得したんだが、聞いてくれなくてな。しまいには王都から出て行ってしまったんだ」


「てめぇら、今自分達がどんなに馬鹿げたこと言ってるか分かってるか?」

 

 全く、とんだ茶番だ。

 カールとハイラムのやりとりに、シルバーは怒りを通り越して呆れかえってしまう。

 もはや、その話を否定する気さえ起きない。

 

 しかし、それを見ていた知り合いたちはみんな揃って大爆笑していた。

 

「はっはっは!そんなことだろうと思ったぜ!!」

「お前たちが後継争いでドロドロしてるところなんか、全然想像もつかなかったからな!」

 

 ……まあ、いいか。


 溜め息をつくシルバーがふと周りを見てみると、シルバーたちよりも若い職人が、ポカンとしたなんとも間抜けな表情でこちらを見ていた。

 

 無理もない。

 魔石細工職人達の憧れの的であるハイラム・フィニアンが、まさかこんな人物だとは思いもしなかったのであろう。

 


 心の中で、シルバーは彼らに同情した。

 

 



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