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赤字続きの魔石細工店  作者: 夜風
第九章
88/126

信用度ゼロ (6)

 



 しばらくして首元を解放されたハイラムはほっと息を吐きながら襟元を直した。

 その間もシルバーのハイラムを見る目は冷たかったが。


 襟首を掴み上げられたせいで椅子から腰を浮かせていたハイラムは小さく咳払いしながら再び椅子へと腰を下ろした。シルバーとリオも近くの椅子に腰を落ち着ける。



「さて、まずはシルバーお前が今日ここに来た経緯を詳しく話してもらおうか」



 先ほど締め上げられた記憶はどこへやら。

 足を組み直しながらそう言ったハイラムに、シルバーのこめかみがぴくりと動く。


「なんで偉そうなんだ、おい。……もう一回締めるか?」

「冗談だ。教えてくれ」


 シルバーの声は静かだがその一言に込められた圧は容赦ない。

 シルバーの指先が動いたのを見て、即座に白旗を上げたハイラムは、苦笑いを浮かべながら再び手を上げた。


 その様子に舌打ちしながらもシルバーは手紙が届いてからルイスと共に王都を訪れ、ハイラムの元へ至るまでの経緯を説明した。


 一通り聞き終えると、ハイラムは眉間を抑えながらシルバーに確認する。


「その手紙、本当に日付は今日だったんだな?」


 その問いにシルバーは屹然とした態度で答える。


「間違いなく冬白の月の1日だ」


 その言葉にハイラムは深々と溜め息を吐いた。

 同時に、室内の照明に照らされて金色に輝く髪が揺れる。

 殿下の仕業だな、と唸るように呟くと顔を上げてシルバーに言う。



「結論から言おう。その手紙の日付が違うんだ。俺がお前を王都に呼ぼうとしていたのは冬白の月の2日だ」


「……は?」


 まさかのハイラムの回答にシルバーは半ば呆然としながら間抜けな声を漏らす。

 リオは小さく目を見開き、ああ、だから――と小さく呟く。

 執事が玄関先でシルバーたちを見てわずかに驚いた表情を見せた理由。

 あの一瞬の違和感にようやく合点がいった。

 明日王都に来るはずの人間が今日来たらそりゃ驚くだろうな。

 とはいえ、なぜ違う日付が手紙に記されていたのだろうか?


 シルバーは釈然としない様子で言葉を漏らす。


「ってことは何だ、アレか?王家の奴が日付を間違えたってことなのか?」


 その呟きを拾ったハイラムは肘を膝につけ両手を顔の前で組みながら冷静に告げる。


「……その手紙を書いたのはレックス殿下だ。あのお方がそんな初歩的なミスを犯すと思うか?」


「……思わねえな」


 わざとかあの野郎、と続いたシルバーの低い声には並々ならぬ怒りが込められていた。


「あいつは本当に何考えてやがる。嫌がらせか、嫌がらせなのか?」


 苛立ちを隠さずに言い放つシルバーに、ハイラムは何かに思い当たってしまったようで。

 もう一度はあ、と深く呆れたように息を吐きながら首を横に振る。


「あのお方のことだから嫌がらせの可能性ももなくはない。だが――」


 そこで言葉を区切り、そばに控えていた執事が淹れた紅茶を受け取りながら、続けた。


「俺はもっと別の所に答えがある気がするぞ」


 お前殿下に会った時に何か言われなかったか、とハイラムはカップを口に運びつつシルバーに問いかける。

 それを横目にリオも茶を頂く。

 あ、美味しい。


 ハイラムの問いにシルバーはしばし考え込んだ後、ぽつりと答えた。


「日が暮れるまで散々言われたが……そう言えば、俺の顔を見て妙な顔しながら『なんだお前、ちゃんと来たのか』とかなんとか言っていたような」


 その言葉に、リオも今回の日付違い騒動が起きた理由を何となく悟ってしまった。


「……ああ、成る程」


 リオはそう呟き、現実逃避とばかりにカップを傾け、ハイラムも同様に美しい絵柄の陶器のティーカップに口を付けていた。


「おい、何てめえらだけで納得してやがる」


 不満げな声をあげるシルバーに、リオは淡々と言う。


「シルバーよく殿下の言葉の意味を考えて下さい。何故ちゃんと来たのか、なんて言ったんだと思います?」


 答えは単純。

 ちゃんと来るとは思わなかったからレックス王子はシルバーの顔を見て『ちゃんと来たのか』と言ったのだ。

 おそらく妙な顔とは意外に思って驚いた顔か、逆に感心した顔だろう。


 つまりは日付通りに来ないだろうと見越してわざと一日早められていたということだ。


 リオは思わず憐れむような視線をシルバーに送る。

 王家に手紙を出させるだけでなく、その内容まで偽られるなんて、この人一体どれだけーーーー




「お前、本当にどれだけ信用がないんだ」




 お兄様は心配だぞ、というハイラムの呆れたような言葉に、同じくこの一連の騒動の真実に辿り着いたのであろうシルバーはとどめを刺されたのだった。




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