信用度ゼロ (4)
誰かとすれ違うこともなくしばらく歩いたリオは、ふとどこかから人の声が聞こえて来たため耳を頼りにそちらの方へと進む。
やがてずっと続いていた壁が消え、聞こえる声は大きくなっていき、外回廊へと辿り着く。
そこで目に飛び込んで来た光景に、リオは目を見開いた。
「うわあ………すごい」
その手すりに近づいて、リオは階下を覗く。
そこでは屈強な男達が互いに剣を打ち合っていた。
冬とは言え日光が真上から容赦なく降り注ぐ中、汗を飛ばしながら剣を振るう彼らの動きは力強く、その迫力はまさに圧巻。
しばらく彼らの打ち合いに魅入っていると。
「おい、お前!そこで何をしている!!」
突如聞こえてきた低くドスのきいた声。
まさか自分のことかとリオが恐る恐る声の主を振り返ると、まさに熊のような巨漢がこちらを見ているではないか。
「見ない顔だな。新入団員か?もうとっくに稽古は始まってるぞ…っておいなんだ、そんな服じゃあ動けんだろう!さっさと着替えて下の奴等のところに加わってこい!!」
え、ええーー……。
てっきり不審者かと思われたのかと思ったら、新入団員ときたか。
どう見ても非戦闘員だろう、私は。
「…….あの、私新入団員ではありません」
大きな熊男を前に、リオは困ったように苦笑しながらここに至った経緯を述べた。
「ーーーなんだ、ルイスの奴が連れてきたのか!ガハハ、これは失礼した!!勘違いしてすまんな!!」
「いえ、お気になさらず」
一通り話を聞き終えると途端に熊男は破顔してリオに詫びを入れた。
ガハハと言う豪快な笑い声が、下から聞こえてくる騎士達の声に負けず辺りに響き渡る。
そしてひとしきり笑うと少しばかり呆れたような声色で続けた。
「それにしてもルイスもやっと帰ってきおったか。……まあ、あいつが呼び出されたのは十中八九魔獣の活発化の件についてじゃろ」
「活発化…?」
なにやら不穏な響きである。
熊男はその厳つい顔の眉間に皺を寄せる。
「近頃、魔獣による被害報告が増えていてなあ……マースディン、アプトンに加えつい数日前にも一つの村が消えた」
「物騒ですね…」
熊男の言葉にリオは思ったことを呟くように述べると、熊男はその呟きに同調するように頷いてみせる。
「ああ。だからこそ早急に対策を練らなきゃあいかん。原因の究明もな」
と、そこまで話して熊男は神妙そうな面持ちを一変させた。
「そういえば自己紹介がまだだったな!儂はクレイグ・ローク。お主は?」
大きな声で笑っていた時のようなクレイグのその溌剌とした声とある意味迫力のある笑顔につられ、リオもその顔に笑みを浮かべながら答える。
「私はリオです」
「そうか!よろしくな、リオ」
ガハガハと笑いながらクレイグはリオの背を叩く。
……痛い。なんかナディムさんみたいだ。
その痛みを堪え思わず涙目となっているリオだったが、そんなリオの様子に気付くこともなくクレイグは明るい笑顔で言う。
「確かリオは見学に来たんだったな。それならば今この下で騎士達が訓練をしているからちょうど良いだろう」
リオはクレイグの言葉に、今一度階下の空間で汗を流す騎士達に目を向ける。
最初に見た時と変わらず圧巻の光景が広がっていたが、彼らの様子を見てリオはあれ?と小さく首を傾げ、次に己の隣のクレイグの顔をまじまじと見つめる。
そんなリオに気付いたクレイグもまた、どうした?と首を傾げた。
「ーーなんだかパレードで見た騎士の方々とは違う気がして」
春に開催された生誕祭。
その時目にしたパレードで、騎士団とは顔の良し悪しも選考基準にあるのではと遠目ながらに思ってしまう程にはやけに誰もが端正な容姿をしていたのが印象的だった。
しかし今階下で打ち合う騎士はーー失礼かもしれないがーー特別容姿が優れているといったようには見えない。
遠回しに何が言いたいのか分かったのだろう、クレイグはああ、と小さく頷く。
「あれはまた別の騎士団の奴らだ。アルビオン王国にはいくつかの騎士団が存在する。中でも王族の身辺を警護する近衛騎士団の、一部の部隊の選抜には家柄や容姿も関わってくるからな」
やはりか。
もちろん実力だって相応のものが必要だ、と続けるクレイグの言葉を聞きながらも、リオはあのパレードの顔面偏差値の高さに納得した。
「それではクレイグさんの所属しているのは何という騎士団なんですか?」
「儂が所属しているのはサルヴァドール団長率いる黒の騎士団だ。国王陛下からの信頼も厚い、アルビオン王国の精鋭揃いの猛者集団よ」
がっはっはっと機嫌良く笑うクレイグ。
「ルイスは黒の騎士団の副団長なんですか?」
「そういうことだなあ」
マジか、あの人精鋭揃いの猛者集団のナンバー2なのかよ。
弟に子供染みた悪戯をしかける某王宮お抱え魔石細工職人然り、惰性から王都への帰還を嘆く騎士然り。
何故あんな人達がこうも重要なポストにいるのかと、リオはこの世の不思議を垣間見たような気分で遠い目をした。
「黒の騎士団は本当に曲者揃いでなあ。その中で魔法もろくに使えず剣のみでルイスは副団長にまで上り詰めた。その凄さは言わずとも分かるだろう?」
クレイグ曰く黒の騎士団は別に魔法も剣もその他多種多様な戦闘スタイルを持つ精鋭の集まりだそうで。
「……ええ、そうですね」
確かにルイスの凄さは伝わるが、彼の情け無い一面もすでにいくつか目にしてしまっているリオは微妙な表情をしながらもなんとかその一言を搾り出したのだった。




